愛華の両手にスイーツが!
前回のあらすじ
ついに愛華の登校が始まった。
職員室では校長に――教室ではクラスメイトにと愛華に群がる野郎共。
しばらく経てば落ち着くだろうと思ってた矢先、その日の放課後を境に愛華に変化が!
「ハグハグ……ウゥ~ン、この絶妙な甘味と酸味の調和――まさにスイーツの宝石箱です!」
両手に紙袋を下げながら器用に何かを食してる愛華がそこにいた。
って、まさかコイツ、食べながら歩いてきたのか!? 行儀の悪い女子高生に思われるから止めてもらいたいんだが……。
「愛華、とりあえず食べるのを止――」
「例えばこのシュークリーム。カスタードクリームが甘味を強調しながらもレモン風味の生クリームが生きている――分かりますか? 甘味と酸味が互いに手を取り合って共存してるのです! これをミラクルと言わずして何と言うのでしょう! わたくしは断言します、これは革命です!」
「聞けよ……」
いったい愛華の身に何があったのか……。
いや、聞くまでもなく喫茶店かなんかでケーキでも食ったんだろう。
そんでスイーツにドップリはまってしまったってところか。
「ですが残念なことに店のスイーツを完食しようとしたところ、嶺奈さんに止められてしまいまして……。わたくしとしては店の売り上げに貢献しわたくしも満たされるという、ウィンウィンな条件が整ってたと思うのですが」
そりゃ止めるだろ……。
それにウィンウィンつっても、他の客が困るだろうしな。
この様子だと嶺奈はそうとう苦労したに違いない。
後でレモンスカッスュを差し入れしてやるか。
「ですがご安心ください。ちゃんと持ち帰りの分も買いましたので」
ご安心って、誰に言ってんだか。
ってか両手にぶら下げてるソレはお土産じゃなかったのか……。
「む? なんですかその視線は。そんないかにもお恵みください的な目をされても上げませんよ? わたくしのスイーツに手を出したら、例え祐矢さんと言えども許しません!」
「いや、分かったから、手を出さないから早くコアルームにしまってこい」
よほどスイーツが気に入ったらしい愛華が瞬間移動で消え去る。
あの豹変ぶりを見るに、コアルームへの立ち入りを拒否られるまでありそうだ。
「ごちそうさま~」
散々スイーツを食ったであろう愛華がしっかりと晩飯まで平らげてるを確認し終え、自室に戻ってスマホを確認する。
「あ、嶺奈からのラインが入ってるな。え~と何々――」
内容はこうだ。
放課後に俺と別れた愛華は、嶺奈達と共にアチコチと寄り道をしたらしい。
まぁ普通だな。
多分愛華は連れ回される側だろうと思ってたが案の定だった。
しかし、最後に立ち寄ったケーキ屋で事件は発生する。
誘った女子にしてみれば、ケーキをつつきながら愛華とお喋りをするつもりだったんだろうが、ケーキを口にしたその瞬間、愛華は豹変したらしい。
具体的には……
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「どう? 楽しかった?」
「はい。中々新鮮なひと時でした」
「そりゃ良かった!」
変に暴走したりしないかって心配したけど、そんなことはなかった。
通学途中でいろいろと教えてたのが報われたわね。
ったく祐のやつ、この嶺奈ちゃんに苦労かけたんだから、労いも込めて何か奢らせてやらないと気が済まないよ。
「じゃ~最後はあそこ行こ~!」
「さんせ~い! 頭使った後は糖分補給しなきゃね!」
あ、この流れはケーキ屋に行くながれ。
皆大好きなのよねぇ。
「嶺奈も行くてしょ~?」
「え? う、うん、勿論!」
本当はダイエットしてたけど愛華一人残すわけにはいかないし、覚悟を決めて【ビアードママ】という評判のケーキ屋に入店する。
「ほう、ここがケーキ屋ですか。なんとなく漂う甘い香りが心地好いですね」
「うん。ここって学校に近いしとっても美味しいんだよ? ――ほら、早く選ぼ!」
この店は店内で食べれるコーナーを奥に設けてるので、とりあえずって感じにテキトーに注文し、待つこと数分。
「お待たせしました~♪」
「「「キマシタワー!」」」
ああもぅ、そんなに喜んじゃって。
あたしもダイエット中じゃなければ……って今更だけども。
「う~ん、やっぱり抹茶シフォンよね~♪ この甘さが癖になるのよ」
「ええ~? 絶対レモンムースの方が美味しいって~」
「私はビタープリンアラモードよ。なんとなく大人ビター感じに――」
「甘いわね。最近の流行りはこのハバネロパンチ・サーモン生クリームショート・オンザワサビよ。これを食してこそ一流になれるの」
皆がケーキに舌鼓を打ってる傍ら、愛華はじっくりと眺めたりクンクンと匂いを嗅いだりしてる。
挙動不審に見えるし、早く手をつけてほしかな……。
「ほら愛華、アーン」
「?」
「いいから早く食べてみて」
「はい、それでは――」
中々手をつけない愛華の背中を押すため、無難に選んだ苺のショートを口に運んであげた。
「ハグハグ……」
「どう? おいしい?」
目を瞑ってじっくりと味わってた愛華が、やがてカッと目を見開き立ち上がる。
「あ、愛華?」
「フ、フ、フ――」
「フォーーーーーーッ!」
「「「ンヒィィッ!?」」」
と、突然愛華が奇声を!?
もしかして、ダンジョンコアは甘い物に弱かったとか!? というか愛華は大丈夫なの!?
「うわっツゥゥゥ! 紅茶溢れた!」
「うっぐ……驚いて一気のみしちゃった」
「ぐぇぇ……口の中にハバネロ何とかっていうメチャマズなケーキが……」
「んだとゴルァ?」
皆も驚いて手を止めると、愛華に視線を集中させる。
すると愛華は目を輝かせて……
「素晴らしい! このような食べ物は食したことがありません!」
うん、愛華は大丈夫だった。
けれどある意味弱点であったことには代わりないわ。
なにせ皆の注文したケーキまで次々と口に放り込んでくんだもん、見てる側が心配になってくる。
「どどどとうしよう、愛華が壊れちゃった!」
「これ、止めた方がよくない?」
「ウソ? あのハバネロ何とかってケーキまで食べてる!?」
「喧嘩売ってんのかテメェ」
そうね、いくらなんでも食べ過ぎよ。
「落ち着いて愛華。今日はここでセーブしとこ?」
「いえいえ、これからが本番です。その気になれば、この店のケーキを全て頂きたいくらいです」
「それはダメ!」
まさかの仰天発言に顔が青ざめる。
周りは冗談だと思ってるみたいだけど、あたしには分かる。コレ、絶対に本音よ。
で、案の定何故です? と聞いてきたからお金ないでしょって言い聞かせて、いざ帰ろうとした時もテーブルにすがり付くしで、引き剥がすのも一苦労。
うん、お金あったら間違いなく買い占めてるわね。
「仕方ありませんので、持ち合わせで足りる分だけ買いました。これで一週間は戦えます」
愛華ってば両手にこれでもかってくらいパンパンになった紙袋をぶら下げてる。
しかも一週間は戦えるって、いったい誰と戦うつもり? ――というより、それだけ買って一週間なの……。
もぅこれ、明日からクラス中に広まっちゃうわね。愛華のスイーツ好きが……。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
……なんか予想以上にヤバイことになってたんだな。
労いを込めて、嶺奈にはレモンスカッシュ3本くらいくれてやろう。
でもって愛華には注意しなきゃな。
金を無駄遣いするとまたオークションで稼ぐ羽目になる。
まぁ、そうなったら校長が奮発するかもだが。
「お~い、愛華いるか~」
あれ? 応答ないな。茶の間には居なかったはずだが。
ガララッ
「おい、愛――『バチィィィン!』――イッダァァァァァァイ!」
何なんだこの強烈な痛みは!? 何かが手を挟んでやがる!
「フッフッフッ、やはりわたくしのスイーツを狙ってきましたね? トラバサミの罠を仕掛けておいて正解でした」
コアルームに罠って、この家の住人しか掛からないじゃねぇか! しかもトラバサミとか!
「狙ってね~よ! お前が応答しないからだろ! つか早く剥がせ!」
「いいえ。祐矢さんには今この場で海よりも深く反省してもらいます」
海よりも深くって、地味に死ねって言ってないか!?
「話を聞け! お前のスイーツは誰も狙ってはいない――勿論俺もだ!」
「悪人は大抵自分の罪を否定するものです」
「誰が悪人か! いい加減にしないとダンマスの権限でスイーツ食うの禁止にするぞ!」
「申し訳ありませんでした」
「変わり身はやっ!」
謝るのと同時に罠を解除してくれたが、そこまでスイーツが大事か……。
「よく聞いてくれ愛華。一度に大量のスイーツを平らげるとな、瞬く間に太っちまうんだ。せっかく美少女なのに、おデブになりたくないだろ?」
「いえ、わたくしの身体は成長という概念を持たないので、いくら食べても太ることはありません」
「マジで!?」
世の女性陣が聴いたら大変羨ましがることだろう。
もう金さえ有ればケーキ食い放題だな。
「愛華よ、お前の身体のことは分かった。しかしだからこそセーブしなきゃならない」
「何故ですか?」
「だってお前、バクバク食っといて太らないのは不自然すぎんだろ。少なくともお前がダンジョンコアなのは秘密なんだからな」
愛華の正体を知ってるのはごく一部だ。
クラスの大半は知らないんだし、その辺は注意する必要がある。
「くぅぅ、なんということでしょう。わたくしがダンジョンコアであるばかりにこのような仕打ちを受けるとは……」
「いや、人間なら普通にデブるだけだからな?」
大袈裟に言ってるけど我慢すりゃいいだけなんだがな……。
「わたくし、ダンジョンコアを辞めてもよろしいでしょうか?」
「出来るのか?」
「……出来ません」
「出来もしない事を聞かないように」
「くぅぅ、祐矢さんは鬼ですか!」
「少なくとも愛華の正体がバレないようにするなら、心を鬼にしなきゃならないだろうな」
何でもそうだが、のめり込んだ奴ってだいたいこうなるよな。
以前智樹がスマホのアプリにハマった時は、小遣い全てを課金に回してたらしいし。
「ま、あれだ、そんなに食いたいんならコアルームでこっそり食ってる分には問題ねぇよ」
「本当ですか!?」
「ああ。――但し、今後外で食う際は1個か2個にするように」
「……むぅぅ、やむを得ませんね。それで許して差し上げましょう」
なんで上から目線なんだ……。
あ、そういえば!
「嶺奈から聞いたんだが、所持金の大半を使い果たしたってのは本当か?」
「当然です。スイーツがわたくしを呼んでたのです。これはある意味宿命だったと言っても過言ではないでしょう」
いや、十分過言だよ……。
こりゃクラスの女子にも言っとかないとマズイな。
あんま愛華をスイーツに近付けないようにと頼んでおこう。
「おはよ~」
「おう、祐矢。――聞いたぜ、我がクラスの美少女愛華姫がスイーツにドハマリしたってな」
「やっぱりか……」
次の日登校してみたら、案の定昨日のことが広がってやんの。
クラスメイト(主に女子)に囲まれた愛華に視線を移すと、やはり例の件で質問攻めを受けてるっぽいな。
「それにしても愛華姫って何だ?」
「ん? 知らないのか? D組にきた転校生は超カワだって昨日から話題だぜ」
マジか。
こりゃ野郎共への対策を本格的に考えなきゃな。
なんせ愛華は俺の大事な――まぁ、大事な存在だな、うん。その愛華が他の野郎にスイーツで誘惑される! なんて展開は考えたくない。
「愛華殿ぉぉぉ! スイーツがお好きとはまことに御座るかぁ!?」
「その通りですが、どうかなさいましたか汗臭い人?」
「ゲハァ!」
お馴染みの武悲山が撃沈する。
コイツ程度なら放置してても大丈夫だろうが、西条みたいなのが出てきたら面倒だ。
ここは一つ……ん?
「キャーーッ、宍戸先輩よ!」
「うっそーっ、マジで!?」
「本当だ! でもどうしてうちのクラスに?」
突然教室内が騒がしくなった。
特に女子の言ってる宍戸先輩という名前を聞いて、入口に視線をやる。
そこには、男子達(俺を含む)が羨むであろうイケメンが!
「男子テニス部のキャプテンだ。あのパイセンも西条みたいな性格だって話だし、ここに来たってことは……」
「ま、まさか!?」
群がる女子達に笑顔を振りまいて落ち着かせると、愛華の正面に立った。
やっぱりコイツ!
「やぁ、はじめまして。俺は3年の安斉保っていうんだ。是非君の名前を教えてくれないかな?」
予想通り、愛華への接触を計りやがった!
「名前ですか? 冴木愛華と申します。わたくしに何かご用でしょうか?」
「親切にありがとう。ハハッ、なぁに大した手間はとらせないさ――少くとも今はね」
「……はぁ」
「俺の希望はただ一つ、君との甘~いひとときを楽しみたい――フッ、ただそれだけさ」
「甘いひととき!」
ゲッ、愛華のやつ、なんだって目を輝かせてんだ!? 色恋沙汰には興味無さそうなのに!
「今日の放課後、君の時間を僕に譲ってほしい」
「はい、喜んで!」
なんてこった! まさかの即答だと!?
くそっ、このままじゃ愛華がイケメン野郎の先輩に……




