豆テストで大ピンチが!
前回のあらすじ
チャラ男こと西条に目をつけられた嶺奈を護るため、無謀にも豆テストで勝負することになった祐矢。
このままでは勝てないと悟ると、愛華にすがって対策を立てるのだが、果たして勝負の行方は……。
ナイスな作戦を思いついてから一週間。
待ちに待った――スマン、嘘ついた……。誰も待ち望んではいなかったであろう科学の豆テストが、クラス順に始まろうとしていた。
順番はA組→B組→C組→D組って感じで、一授業毎に回って来るようになっている。
そんなわけで今は3時間目の直前で、C組の――つまり西条のいるクラスが豆テストを行う番を迎えたところで、西条を呼び出した。
「握手?」
「ああ。正々堂々と勝負しよう――ってな」
「……ふ~ん? まぁ構わないよ」
西条はなんの疑いもなく俺の手を取り握手を交わす。クックックッ、これが命取りになるとも知らずにな。
「では豆テストに挑むとしよう。前回は惜しくも95点だったが、今回は……フッ、華麗に満点をとるつもりさ」
わざとらしく前髪を掻き上げる西条。
この仕草といい点数といい本当にイラついてくる。そんだけ点数とれるんなら俺にも半分よこせってんだ。
「ちなみに学力テストでは84点という大失態を犯してしまったからね。あのような歴史的汚点は二度と残したくないものだよ」
……でたよ、自虐的自慢。
1クラスに一人は必ず居るんだよなぁ。西条みたく80点以上とっておきながら『めちゃ悪い~、もう終わった~』とか抜かしやがるやつがな。
テメェの点数で終わったんなら、赤点の俺はどうなるんだ! 寧ろ始まってすらいねぇっつーの!
もし本当に終わったと思うんなら、すぐにでも自主退学しやがれってんだ!
「そうかよ。でも俺だって秘策を用意したからな。負けるつもりはねぇぜ」
「ほほぅ、そうかい。ならせめて赤点を免れるように頑張りたまえ」
チッ、この野郎。俺の頭が悪いのを知ってやがったな? だから自信満々で豆テストをチョイスしやがったのか。
「ああ、一つ忠告しとくよ」
「忠告?」
「恐らく今の君には耳の痛い話だろうが、テスト前日の一夜漬けは秘策とは言わないよ? ではアディオス!」
そう言って西条はヒラヒラと手を振りつつ踵を返し、教室へと戻って行った。
やっろぉぉぉ、とことんバカにしやがって。
……まぁいい。どうせ調子にのってられるのも今のうちだ。
何故なら……
「フッフッフーン、既にやつは俺の術中に嵌まったんだからな!」
実際何をしたかは後のお楽しみだ。西条がパニクることには間違いないと断言できるね。
さぁ、思いっきりやらかしてくるがいい!
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「ええか~? そんじゃあ始めるぞ~。制限時間は10分間、よぉ~い……はじめ~」
フフッ、さぁ華麗に取り掛かるとしようか。
この僕――西条敦盛が万が一にも敗北することは有り得ないとはいえ、手を抜いて満点を逃すのはプライドが許さない。
冴木君には悪いが、せいぜい僕の踏み台になってもらうとしようか。それが負け犬に相応しい末路というものさ。
っと、余計な思考が邪魔してしまった。まずは華麗に書き終えて、勝利の美酒に酔いしれるとしようか。
まず最初の問題は……フフッ、他愛もない。鉄を熱するとどうなるかだって? そんなのは決まってる。スチールウールを熱すると酸化……あ、いやいや、そうじゃない。スチールウールは鉄だ。鉄を熱すると鉄が熱くなるに決まってるじゃないか。
危ない危ない。僕としたことが酸化鉄などというありきたりな回答をするところだった。
あれ? いやいや、ありきたりも何も酸化鉄で正解じゃないか。僕は何を言って――いやいやいやいや、そんな模範的な回答を求めてるわけじゃない。ここはもっと思考を凝らしてヒートスチールウールというのも悪くない。
うんうん、我ながらいい響きだ。この回答はこれで決まりだな。
「ん?」
フィッ!
隣の席の高峰君が僕の答案用紙を覗こうとしてるようだ。
やれやれ、同姓をも虜にしてしまう僕の解答はなんて罪深いのだろう。本来であれば許されない行為だが、君の熱意に免じて許そうじゃないか。
さぁ、存分にその目に焼き付けるがいい、カムオォーーーン!
フフッ、ギャラリーがいると捗り過ぎて仕方がない。だがそれもよし、どんどん仕上げるとしよう。
さて、次の問題は……マグネシウムを熱するとどうなるか――おおぉ、ノーーーゥ! こんな捻りのない問題を出してくるとは、あの白髪爺の劣化ぶりは見るに耐えない。
フッ、いいだろう。僕が本物を見せてあげようじゃないか!
まずはマグネシウム。この厳つい呼び名はいただけない。もっと柔らかく、誰にでも打ち解けられるような感性を持たせるのが重要だろう。
従って、ここは一つ【マグナ】という呼び名に変えようじゃないか。
そう、このマグナを熱する――つまり熱く燃え上がらせると、その魂の叫びに応じて【プロミネンスフィーバー・ナイトマグナ】へと進化するんだ。
そしてここからが凄い。なんと、このナイトマグナには世間には秘匿されている七つの秘密があり――
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――な~んてことが行われてたに違いない。
さて、俺が西条に何をしたのかをジックリと説明しよう。
まず用意したのはダンジョン技能で召喚したコンフュージョンパウダー。
これは一定時間相手の思考をおかしくさせる効果があり、これを俺の手に付着させてから西条と握手したって訳さ。
これで西条は勝手に珍解答を連発して自滅するだろうから、後は俺がしっかりと高得点を叩き出せば完全勝利となる。
ん? 高得点をとれるのかって? フフン、俺に抜かりはない。
今回の作戦を実行するにあたって、コンフュージョンパウダーとは別にバックビジョンシートも用意したんだからな。
合計で8枚も召喚したから8000ポイントものDPを消費しちまったが、それだけの価値はあるだろう。
なんてったって、テストに出題されそうな範囲は全て記入してるんだからな。但しサイズが小さいために、かなり強引に書き込む羽目になったがな。
これで俺の敗北は無くなったってわけだ。
ま、唯一の心残りは、西条のマヌケ面を拝めないことかな。ハーッハッハッハッハッ!」
「さ、冴木君、どうしたのかね?」
「あ……い、いえ、なんでもありません……」
くっ……俺としたことが、つい声に出してしまったらしい。
が、そんなことより豆テストだ。
最初の問題は……スチールウールを熱するとどうなるか? ――知るか、んなもん! どうなるかなんて聞いてる暇があるなら熱っすればいいだろうが!
ったく、今も教室内をグルグルと回ってるこの白髪爺。こいつはまるで分かってねぇな。
で、肝心の答えは――あ、いやいや、バックビジョンシートなんて使う必要はないな。
答えは【お前の心の中にある】――これで決まりだ。イカすだろ?
で、次の問題は……はぁ? マグネシウムを熱するとどうなるかだと? っかぁぁぁ嫌だねぇ! あの白髪爺ったら嫌だねぇ! この問題にはまるでセンスを感じられない。
よぉしここは一つ、俺が手本を見せてやろうじゃないか!
まずはマグネシウム。この厳つい呼び名はいただけない。
そうだなぁ……よし、マグネシウムよ、今日からお前はネシウスと名乗るがいい!
そしてお前には役目を与えてやろう。己を熱し、熱く燃え上がらせることでマグネ大使ネシウスへと進化するのだ!
さぁここからが本番だ。このネシウスには世間に秘匿する七つの秘密があり――
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あの忌々しい事件から二日後。
俺は無事テストをクリアー――することはなく、赤点中の赤点――0点を記録し、泣きながら補習を受けている。
何故かって? それは簡単だ。俺は西条を罠に掛けることに成功した――うん、見事なまでに大成功だったと言えよう。
しかし――しかしだ、あのコンフュージョンパウダー、あろうことかダンマスの俺に対してまで効果を発揮しやがったのだ!
そりゃね? もうね? 滅茶苦茶ですわ。まさかの黒歴史爆誕ってやつですよ、ええ。
「あーーもぅ、なんでこうなるんだよ!」
「落ち着け祐矢。何も犠牲者はお前だけじゃないんだ……」
「智樹……」
「俺としても驚いてるんだ。まさかあんなおかしな解答をするとは思わなくてな……」
そう、コンフュージョンパウダーは智樹にも牙を剥いた。
何故なら、俺が智樹の腕を掴んだから。
うん、まぁ、結局は俺のせいなんだが、コイツに教えるつもりはない。言ったら半殺しにされるからな。
「ああ僕は……僕はいったい……。ああ神よ、僕を救いたまえ……」
で、西条は西条で2日前からこの調子だ。
コイツもまさかの0点を記録したため、相当ショックを受けてるんだろうな。
ザマァではあるものの少々気の毒かなとも思えてきた。
「…………」
カリカリカリカリ……
そして最後に高峰ってやつも補習を受けてるんだが、何故コイツまで被害を被ってるのかは分からない。多分西条が触ったんだと思うが、聞こうにも本人はあの調子だし真相は不明のままだ。
「よ~し、ここまで。次はまともにテストを受けるように。では帰っていいぞ~」
ふぃ~、ようやく解放された。
今回はダブルKOということで白黒つかなかったが、いずれ別の内容で再戦しようと思う。
嶺奈の件が曖昧になったままだしな。
「祐矢、帰りにどっか寄ってこうぜ?」
「そだなぁ。気晴らしに行くか」
「ああ神よ……」
気晴らしはいいとして、西条はいつまで落ち込んでんだ? 普段のコイツもウザいと思ったが 今は別のベクトルでウザいんだが……。
「ん? あれ、祐矢の妹じゃないか?」
「え?」
智樹に言われて顔を上げると、校門の前に今日香と愛華が佇んでるのが見えた。
って、なんで愛華まで!?
「祐兄~、遅~ぃ!」
「帰りが遅かったので、探索がてら迎えに来ました」
そういや補習のことは話してなかったな。
にしても、迎えに来るのは想定外だ。ご近所にも目撃されてるだろうし、愛華も従妹ってことにしよう。
「お、おお、おおお! ――ま、正に女神」
「さ、西条!?」
コイツ、愛華達を見てどうしたんだ?
「おい、マズイぞ祐矢。西条のやつ、お前の妹とその友達を見て目を輝かせてやがる」
「げっ!」
妹は中学に入ったばかりで小学生にしか見えない。ってことはコイツの標的は愛華に違いない!
「おいテメェ、愛華に手を出――「おお女神よ、僕の女神よぉぉぉ!」――ってコラァ!」
西条は俺を無視して愛華達へと突っ込んで行く。
「なんて美しいんだ! 君こそ僕を照らしつける太陽! なんというディスティニー!」
「へ? 私?」
駆け寄った西条は、今日香の手を握りしめると――って!
「今日香かよ!」
チャラ男でありながらロリ野郎だとは思わなかった。
愛華じゃなかったとは言え、今日香が毒牙にかかるのも見過ごせない。
「テメェ西条、今日香から離れろ!」
「おお今日香さん、なんて素晴らしくて華麗な名前なんだ!」
「だ~か~ら、今日香から離れろっつーの!」
この野郎、ヒョロ長なくせになんて馬鹿力なんだ。まるで瞬間接着剤のように離れねぇ!
「……ねぇ祐兄、この人なんなの?」
「ただの頭がおかしい同級生だ。関わっちゃダメ! ――智樹、愛華、お前らも見てないで手伝え!」
「アホくさ。俺は先帰るぞ」
くっ、智樹はあっさりと見捨てやがった。
「ほうほう、これが学校というものですか」
くっ、愛華は校舎を沁々と眺めてやがる。
「ああ、僕の女神――今日香さん!」
「ああもぅ、誰でもいいから助けてくれぇ!」
そして俺の叫びが夕焼けの空にむなしく響き渡るのであった。