俺の幼馴染みがチャラ男に!
前回のあらすじ
祐矢が部屋に戻ると、何故か愛華が居なくなっていた。
その後台所で発見し、いつの間にか馴染んでる愛華に戦慄しつつも、食卓に愛華がいる新しい生活が始まるのであった。
「おっす祐矢!」
「ああ、智樹か。……はよ」
「って、どうしたんだお前? なんか朝から疲れきった顔してんな?」
「……昨日いろいろあってな」
いろいろとは勿論愛華のことだ。
結局あのあと中々寝つけなく眠気眼のまま登校する羽目になり、机で突っ伏してたところを親友の三沢智樹に話し掛けられたってわけだな。
「昨日? そういや荒井に勉強教えてもらうとか言ってたな。――あ、もしかして、あまりの頭の悪さにとうとう愛想を尽かされたか?」
「んなわけあるかい! アイツはそんくらいで見捨てるようなやつじゃねぇよ」
ったく、コイツだってギリギリ赤点を回避しただけの癖に余裕ぶりやがって。いや、確かに赤点取るのと免れるのでは天と地の差があるけども。
ちなみに荒井とは幼馴染みの嶺奈のことだ。
「じゃあアレだな。荒井との仲は進展せずに無駄な時間を過ごしたわけだ?」
「進展って、別にアイツとはそういう関係になるつもりは――」
「そうなのか? でも荒井ってガサツだけどスタイル良いし結構人気はあるぜ? もしお前が狙ってないって公言したら、飛びつくやつはいそうだけどなぁ……」
嶺奈がスタイル良いのは認める。認めるが、そこに俺が絡むのはよく分からない。
「何で俺が公言したらってことになるんだ?」
「そりゃお前、なんだかんだと嶺奈と一緒にいる祐矢が目撃されてんだから当然だろ?」
「あ~、確かにそうかもな」
今まで気にもしなかったが、幼馴染みなだけに一緒にいることは多いかもしれない。
今朝も一緒に登校したしな。
「ま、親友として忠告しとくが、隣のクラスの西条には気を付けろ」
「西条?」
「ああ。なんでも手当たり次第に手を出してるって有名らしくてさ、見た目のいい女は片っ端から――って感じらしい」
なんだか聞いてるだけでムカムカしてくるな。
「ってことはアレか。西条ってやつのクラスは殆どが手を出されてるってことか」
「らしいな。だが問題はそこじゃない。さすがに同じクラスの女には悪評が広まっちまったってことで、今度は別のクラスの女を――ってのが問題なのさ」
「確かに問題だな」
友達と喋ってる嶺奈を見る。無邪気に談笑してるところは微笑ましいし、この笑顔が暗く沈むところは見たくはない。
「教えてくれて助かったぜ。西条が嶺奈に手を出そうとしたら、思いっきり邪魔してやる」
「おう頑張れぇ」
そして放課後。
朝の会話が見事にフラグとなったらしく、帰り際に廊下に出たところでチャラ男に言い寄られてる嶺奈を発見した。
「まぁまぁ、ちょっとだけでいいからさ」
「遠慮しとく。あたし暇じゃないし」
「でも今は一人なんだろう? だったら僕が一緒に居てあげるよ。ひとりぼっちは寂しいだろうからさ?」
「いや、だからいいって……」
俺から見て後ろ向きだが、その後ろ姿だけでもムカムカしてくる野郎だな。コイツが智樹の言ってた西条に違いない。
一方の嶺奈は明らかに迷惑がってるな。いつも一緒に帰る女子がいるんだが、生憎今日は掃除当番ってこともあり終わるのを待ってるみたいだ。
掃除はしばらくかかるだろうし、ここは俺が助けるべきだな。
「お~い、嶺奈」
「あ、祐!」
透かさず嶺奈が駆け寄ってくる。嫌がってるのは間違いなかったようだ。
「なんだい君は? 僕と彼女のスゥィーティーな時間を邪魔しないでくれるかい?」
「邪魔した覚えはないけどな。それに嶺奈は嫌がってるようだが?」
「いやいや、彼女は照れてるのさ。僕という貴公子の前に……ね」
「「…………」」
……重症だなコイツは。もう手の施しようがないほどに。
「行こうぜ嶺奈。まともに話す必要はないだろ」
「うん、賛成!」
「ま、待ちたまえ!」
脇をすり抜けようとした俺達を手で制してきた。面倒だなぁ……。
「他人の恋路を邪魔するとは紳士なやり方じゃない。――ここは一つ、嶺奈さんを賭けて勝負するというのはどうだろう?」
「勝負!?」
「そうさ。僕は彼女が好きだ。君もそうなんだろう? もし違うなら手を退きたまえ」
そう言われてマジマジと嶺奈を見つめる。
「ゆ、祐……」
すると、不安げに俺を見つめ反してきた。
いつものハツラツとした雰囲気が鳴りを潜め不安で押し潰されそうな表情を見せられた日にゃ、幼馴染みとしては見過ごせねぇ。
「フン、誰が退くか。受けてやるぜ、勝負とやらを!」
「ほぅ、言ったね? 勝負がついた後に無効を宣言しても手遅れだよ?」
「言わねぇよ、んなこと。それより勝負の内容はなんだ?」
「一週間後の科学の授業、全クラスで一斉に豆テストが行われるのは知っているね?」
……マジで? あの白髪爺、ろくなことしねぇな!
「お、おう……(知らねぇけど知ってたことにしよう)」
「そのテストで僕が勝ったら君には手を退いてもらうよ」
くっ、よりによってテストかよ。
だが嶺奈のためだ、ここまできて引き下がるわけにはいかねぇ!
「いいだろう。俺が勝ったら嶺奈は諦めてもらうぜ?」
「勿論だとも。――じゃあ一週間を楽しみにしててくれよ、僕の嶺奈さん」
最後にキザったらしく嶺奈にウィンクをかましやがった。とことん気に入らねぇやつだ。
「祐……」
っと、今は嶺奈をフォローしてやらないと。
「すまん嶺奈。成り行きとはいえ嶺奈を賭けの対象にしちまった」
「え……う、うん、あたしは大丈夫だよ。――そ、そそ、それより祐。あ、あ、あたしを好きだって、そ、その……本当……なの?」
ん? 嶺奈のやつ急にモジモジし出してどうしたんだ? それに何となく顔が赤いような気がするが……ま、気のせいか。
「そりゃ(西条が)好きだからこうなったんだろ。嘘なわけねぇよ」
「ほほほ、本当に?」
ん? 嶺奈のやつ信じてないのか?
だが情報通の智樹が言うんだから間違いないだろうな。
現にあれだけしつこかったんだし、本当に女好きなんだろ。
「言っとくが俺も(テストに)本気だからな? 絶対に勝ちにいくぜ!」
「うん!」
お、嶺奈に笑顔が戻ってきたな? これならもう大丈夫だろ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「――で、わたくしに泣き付くんですか」
「しょーがないじゃんかよぉぉ! あのままだと嶺奈が心配だったんだよぉぉ! 普通にやったら赤点だっつーのぉぉ!」
とまぁ、勢いに任せて言ったはいいが、冷静になって考えりゃ俺一人でどうにかなる案件じゃないことに気付いたので、帰宅するなりこうして愛華にすがってるわけだ。
よく考えりゃテストで勝負するなんざ自殺行為もいいとこだ。一時間前の自分を殴ってやりたい。
「頼むよ愛華、何かいい方法を!」
「わたくしはドラ〇もんではないのですが……。それに話を聞く限りでは、嶺奈さんが拒否すればよかっただけでは?」
「…………!」
言われて見ればその通りだ。
何もわざわざ勝負する必要はなかったのに、敢えて勝負を受けてしまった軽率さに深く後悔する羽目に。
まったく、コイツぁうっかりだ♪
「ですが祐矢さんの御命令とあらば、わたくしとしても協力するしかありませんね」
「さっすが愛華、マジで助かる!」
「いえいえ、ダンマスをサポートするのもダンジョンコアの役目ですので。それに祐矢さんのお陰で少しずつDPが貯まってるようですので、欲しいアイテムと交換出来るかもしれませんよ?」
「マジかよ!」
それはちょっと楽しみだな。ダンマスともなればレアなアイテムが目白押しなんだろうから、一度ラインナップを見てみたかったところだ。
「本来であればダンジョンを拡張するのに使用するつもりだったDPですが、祐矢さんの用意した昆虫が思いのほか良い収入源となってますので、いろいろと交換するのも悪くないかと思いまして」
まさかの昆虫達が役立ってるらしい。地味な作業だったが報われたな。
「で、どれくらい貯まったんだ?」
「昆虫で貯まったのは、483ポイントです」
驚いた。予想以上に貯まってる!
「そこで提案なのですが、明日香さんと今日香さんの部屋までダンジョンを拡張するのはいかがでしょう? そうすれば二人が寝てる間にDPが貯まりますので、一週間も経てば膨大なDPを稼ぐことができるかと」
「ふむ……」
顎に手を添えて考える。
愛華の暴走により食事代を考える必要はなくなった今、ダンジョンの拡張にあることでより多くのDPを得ることが出来るんだ。
するとどうだろう。きっと夢のようなレアアイテムと交換できるのではないか? うん、そうに違いない!
「愛華、その意見――」
「――採用!」
「畏まりました。すぐに実行に移します」
デカデカと両手でマルを作って見せると、愛華はコアルームへと籠った。
フッフッフッ、待ってろよレアアイテム。すぐに俺が入手してやるからな! アーッハッハッハッハッハッ!
ヒョコッ
「ところで豆テストはどうなさるおつもりで?」
「あ!」
押入れから顔を覗かせた愛華の一言で、高揚しつつあった気分が急に醒めていく。
そうだった。肝心な事を忘れてたぜ。
「何か役に立つアイテムはないか?」
「少々お待ちください。只今検索してみますので――」
頼むぜ愛華、豆テストの行方はお前の加勢が必要だ。
……今俺のことを情けないとか思ったやつ居るだろ? そんなお前らに一言いってやる。いいかよく聞け!
他に方法がないんです、マジで……。
「祐矢さん、何をブツブツと呟いてるのですか?」
「なんでもない、こっちのことだ。――で、何か見つけたか?」
愛華越しにモニターを覗き込む。
しかし残念なことに、表示されてる文字がよく分からない古代文字のように見えて、何を意味するのか想像すらできない。
「これは異世界の文字ですので、祐矢さんが見ても解読は難しいと思いますよ」
「……だろうな」
プログラム言語と古代文字が混ざったような文章を見てる側からすれば、猛烈に頭が痛くなってくるな。
そんな文章をキーボードで打ち込んでる愛華は、仕事のできるキャリアウーマンのようにも見える。
見た目は中高生なのに……。
「検索完了。役立ちそうなアイテムを幾つか発見しましたのでリストアップします」
「おう、頼むぜ」
そんでもって愛華の用意したリストは以下の通りだ。
・イントニーズパウダー……対象者の体に振りかけると、一定時間頭の回転がよくなる。
・バックビジョンシート……対象者が記入した文字を、いつでも脳内に呼び起こすことが出来る紙。
・アンサーリング……この指輪を身につけると、この世のすべての質問に対して正確に答えてくれる。
質疑応答は脳内で行う。
「この中から選ぶんならアンサーリング一択だろ」
「DP1億ポイント必要です」
「絶対無理!」
高いだろうとは思ったが、それにしても想像を遥かに超越してるっつーの!
「じゃあバックビジョンシートは?」
「1000ポイントです」
お、これなら交換できそうだな。
2日も経てば1000ポイント以上は貯まるだろうし、これを使えば……
「ちなみにこれがサンプルです」
「ちっさ!」
モニターで同等の大きさにまで拡大されたのは、縦横5㎝の紙切れだった。
これ、量産しないと無理じゃん……。
「残るのはイントニーズパウダーか」
「ですがお薦めはできません」
「なんでだ?」
「確かに頭の回転はよくなるでしょうが、そもそも元となる数値が低ければ効果などたかが知れてます。祐矢さんの場合あまり頭がよろしくないので、効果は微妙だと思われます」
なるほど。効果が薄いんじゃ意味がないな。
――あれ? なんだか物凄くディスられたような気がするんだが……気のせいか?
「他にないのか? 例えば相手を妨害するようなアイテムとか」
「なくはないですが、よろしいのですか? 祐矢さんはそのような方法は好まないと思ったのですが」
そりゃ好ましくないのは事実だが、かといって何もせずに敗北するのは馬鹿らしい。
どんな卑怯な手を使ってでも勝つ必要があるんだよ、今回はな。
「嶺奈は俺が護る! あのチャラ男に好き勝手はさせない!」
「決意は固そうですね。でしたら色々と提供できるアイテムがありますよ」
そして再びラインナップを見せてもらい、その中から有力なアイテムを見つけることに成功した。
「見てろよ西条、テメェの間抜け面が浮かんでくるぜ!」