そして日常へ……
「ちくしょうが!」
床で倒れ込んでいる愛華達を見て拳を強く握りしめる。
敵わないと分かっていても愛華はアルヴェラへと挑んだ――が、その結果がこれだ……。
「フ、他愛もない。これでもアルゲニスのことは多少なりとも評価していたのだがな。まさかこの程度の雑魚に捕縛されようとは……」
アルヴェラは心底呆れてる様子だった。
もしこの場に校長がいれば違ったのかもしれないが、あっちはあっちでそれどころじゃないだろうな。
そして俺にも力があれば違ったのかもしれない。
「まぁいい。せめてもの慈悲だ、この一帯以外の地表が焼け焦げる様をその目で焼き付けておくのだな」
「地表が……焼ける?」
コイツはいったい何を……
「我々は1度地球を壊す」
「な!? ……壊す?」
「当然だろう? 貴様らの低文明なローテクなど我々には不要だ。1度地球を徹底的に壊した上で、新たな文明を築くのだ――」
コイツは……アルヴェラは本気で……
「――我々の文明をな」
本気で地球人を皆殺しにしようとしてやがる!
「後5分程度で全ての艦隊が大気圏を抜けるだろう。そして全ての艦隊が上空へと集まった時、貴様らの文明は消滅する!」
「ふ、ふざけるな!」
そんなこと許せるはずねぇ!
俺はミスリルソードを手に取り思いっきり振り下ろした。
「おらぁぁぁ!」
ガッ――パキン!
「うあっ!?」
ミスリルソードを素手で受け止めてへし折りやがった!
「フン、貴様のその意気込みはかってやるが、諦めも肝心だぞ? せっかく慈悲で生かしてやってるのだ精々感謝してそこで這いつくばっていろ」
「ぐっ……」
俺は無様にも投げ飛ばされた。
が、ここで諦めちゃおしまいだ。
愛華なら……愛華なら何か方法が! そう考え、這いつくばりながらも愛華の元へと移動する。
「愛華、何でもいい。この状況を覆す方法はないのか?」
「ありますよ」
「そうか……やっぱりあるのか――」
は?
「なぁ、今あるって――」
「はい、あると言いました。少々大掛かりな展開になりますが、ダンジョンコアを生け贄として異世界から邪神を召喚することが可能です」
「邪神……」
嫌な響きだがそんな存在を呼び出せるならアルヴェラにも勝てそうだ。
「ならさっそく――」
召喚だ! ――と言いかけたが、すんでで止める。
さらっと重要なことを聞いちまったからだ。
その事実は到底受け入れるわけにはいかない。
なぜなら――
「ダンジョンコアを生け贄にするだと? それじゃ愛華はどうなるんだ!?」
「……わたくしの肉体は滅びることを意味します」
やっぱり……。
聞くまでもないことだが、ダンジョンコア=愛華ならダンジョンコアを生け贄に捧げるのは愛華を生け贄に捧げるって事だ。
「ならどうして――」
「見て下さい。アルタさんも嶺奈さんも歩美さんも――」
愛華が周りを見渡しながら淡々と告げていく。
「明日香さんも今日香さんもクマゴロウも佑矢さんのお母さんも、立ち上がることすらできません。この現状を覆すのは今のわたくしでも不可能。ならば第三者に頼るほかありません」
「それは……」
確かに愛華の言う通りだ。
俺達じゃ無理だから他の奴に頼る――これは間違っちゃいないだろう。
でもそれは愛華を犠牲にしてやらなきゃならない事なのか?
そう思った途端、これまでの出来事が脳裏にフラッシュバックした。
「ダメだ」
「佑矢さん?」
「そんなのはダメだ!」
俺は愛華に背を向けたまま言い放つ。
短い間だったがどれもこれも楽しい思い出だ。
それをくれた愛華だけを犠牲にして生き延びろってのか? 冗談じゃねぇ!
そんな悔いのある人生の何が楽しいってんだ!
「……ですがこのままでは――」
「ダメだと言ったろう」
「し、しかし――」
「バカヤローーーッ!」
「っ!」
こんな時に――いや、こんな時だからだな、涙が止まんねぇのそのままに、俺は愛華に抱きついた。
「お前だけを犠牲にするもんかよ。死ぬときゃ一緒に死んでやる!」
「…………」
そんな信じられないって顔すんじゃねぇよ。
俺にとっちゃ愛華がいなくなる方が信じられねぇ。
「だからよ、せめてコイツに――」
ハハ、ほんっとバカだよな俺は。
分かってんのに……分かりきってんのに、徐に立ち上がってアルヴェラへと殴りかかった。
ガシッ!
予想通り、アルヴェラは難なく俺の拳を受け止め、腕を捻り上げて投げ飛ばしてきた。
ダンッ!
「ぐっ……くっそぅ……」
「お前はバカなのか? 勝てる見込みのない戦いに身を投じるなど、とても知性が備わってるとは思えん」
ケッ、悪かったなバカで。
バカは死ぬまで治りそうにねぇぜ。
「せっかく邪神とやらと遊んでやろうと思ったのだがな。余興がないのなら仕方ない。これなら――」
「ほぅ? ならば余興とやらをくれて差し上げましょう」
どこからか男の声が聴こえてきた。
声のした方に振り向けば、メガネをかけた銀髪イケメン野郎がそこにいた。
「……なんだ貴様? コイツらの仲間か?」
「厳密に言えば違いますが……まぁ貴女の敵であることに違いはありません」
よく分からんが助けに来てくれたのか?
しかしコイツはいったい誰なんだろう。
見た目だけなら俺と同い年くらいに見えるんだが……。
「それで? まさか貴様も同じ目に合いたいと言うのか?」
「フ……まさか。貴女では僕の足元にも及びません。疑うのなら試してみては?」
「ほぅ……そこまで言うのなら試してやろうではないか!」
謎の少年に挑発され、アルヴェラは剣を抜いて斬りかかった。
しかし、少年はその場から動かず、黙ってアルヴェラを見据えている。
――って、愛華達が太刀打ちできなかった相手だぞ? そんな悠長な事してたら!
パキンッ!
「「え?」」
俺とアルヴェラの声が重なる。
思わず瞬きを繰り返しちまったが、アルヴェラの剣を片手で受け止めてそのままへし折りやがった!
なんかすんげ~デジャヴを感じる。
「それで終わりですか?」
「チッ、小僧が……、調子に――のるなぁぁぁぁぁぁ!」
アルヴェラが別の剣を抜くと、青白いオーラを纏った斬撃を少年に向けて放つ。
今まで本気を出してなかったアルヴェラの攻撃だ! これじゃさすがに――
「フ、どうやら終わったようですね」
「「な!?」」
またしてもアルヴェラと声が重なる。
見れば傷一つ負ってる様子はない。
コイツはコイツで何者なんだ!?
「この程度の斬撃、母上のヒステリーに比べれば微風に等しい。まさかこれが本気だと仰るので?」
「は、母上!?」
こんなとんでもない少年の母親ってどんな奴だと想像すると、真っ先にある人物が浮かんできた。
それは真っ赤な髪にワンピースを着た幼女の姿をした……
「ま、まさかファフニーさんの――」
「ご想像通りです。これでも現役の魔王として魔界に君臨してますのでね、そこらの雑魚に負けるほど落ちぶれてはおりません」
そこらの雑魚と言った時、視線をアルヴェラへと移したのは気のせいじゃないだろう。
「お……おのれぇぇぇ!」
完全に俺と立場が入れ代わったアルヴェラが、魔王に向けて剣を振るう。
しかも今度の剣は、どっかの映画で見たようなビームサーベルだ!
ビシュゥゥゥゥゥゥ!
「な!? ――そ、そんなバカな……」
ビームサーベルの先が魔王の肩に触れようとした時、バリアのようなものに阻まれて光を失った。
「ちょうど小腹がすいてたのでね、魔力として頂きました」
まさにビームサーベルが魔王の間食となった瞬間だった。
ここまでくりゃ安心して見てられるぜ。
アルヴェラじゃ魔王には勝てない。
「あのビームサーベル――いったいどのようなお味が――」
「食うなよ?」
多分口に入れた瞬間に顔が溶けるぞ。
「フックククク――」
んん? アルヴェラの様子が……
「どうやら私の負けのようだ。そこのマオウとやらには勝てそうにない」
「ふむ……では降参するおつもりで?」
「ハッ、誰が降参なんぞを……。私が負けても我々が勝てばよいのだ。もう間もなく艦隊による一斉照射が行われる。それで地球は壊滅だ、残念だったなぁ? アッハッハッハッ!」
くそぅ、そうだった。
敵はアルヴェラだけじゃない、無数の艦隊が来てやがんだ!
校長達が奮戦してるんだろうが、地表を一斉に焦がす規模なら到底間に合わないだろう。
「ああ、そのことですか。恐らく無理だと思いますよ? 何せ母上が嬉々として出向いてしまいましたからね。今頃は戦艦を新しい玩具に見立ててはしゃいでることでしょう」
いやいや、ファフニーさんならやりかねない――うん、マジでやりかねないが、それでもさすがに数を覆すのは……
「フン、戯言を……」
「戯言と仰るのは構いませんが、いつまでまたせるおつもりで?」
そういや後5分と言っときなが、既に20分近く経ってるような……
アルヴェラも気になったようで、さっきから通信を行ってるみたいだ。
「艦長――デネル艦長、応答せよ! 繰り返す――デネル艦長応答せよ!」
『クソッ、被害状況は!?』
『艦隊消耗率8割を越えました! 隊を維持できません!』
『なんでもいい、早くあのバケモノを仕留めろ! このままじ――ピーガーーー……』
「デネル艦長? デネル艦長!? く……こんなことが……」
どうやらファフニーさんが大暴れしてるらしく、敵軍は大損害を被ってるようだ。
そっちも問題なさそうだな。
「そういうことです。ではさようなら」
「ま、まて――ガフッ!?」
あんなに強かったアルヴェラが、魔王に脳天をつつかれただけでその場に崩れる。
それっきり二度と立ち上がることはなかった。
「……さて、遅ればせながら自己紹介をさせていただきますが、僕は魔王アモス。魔界を治める魔王として君臨しております」
「あ、ああ。俺は――」
「おっと、名乗りは不要ですよ、魔王の目は全てを看破できますので」
マジかよ!? 魔王のスペック半端ねぇな!
――っと、それはそれとして礼は言っとかないとな。
「助かったよ、魔王アモス。俺らじゃ到底敵う相手じゃなかった」
「お役に立ててなにより。こちらの世界は母上も気に入っておられるので、それが消滅ともなればどんなヒステリーを起こすか想像しただけでも身震いしますね」
……アルヴェラを一撃で葬った魔王が身震いするとか。
ファフニーさんはどんなヒステリーを……。
「会議に出席したくないとダダをこねられた時は、右半身が吹き飛ばされてしまいましたね。お陰で再生するのに1時間はかかってしまいましたよ」
「怖っ!」
ファフニーさん、息子に対して何やってんですか……。
いや、それを1時間で再生する魔王もあれだけど。
「さて、僕は母上の様子を見にいかねば。放って置くと地球にまで被害が出てしまいますし、これらの記憶は人間達から消し去ったほうがいいでしょう、では失礼」
魔王はファフニーさんの元へと向かったようだ。
宇宙人襲来の記憶を消せるのは魔王とか元魔王しか出来ないだろうし、任せるしかないな。
「佑矢さん、ポーションを召喚しましたので、皆さんにつかいましょう♪」
「ああ。――ところで愛華、やけに上機嫌に見えるんだが……」
「そうですか?」
今もウキウキしながら明日香姉にポーションぶっかけてるし。
「フフ、なにもありませんよ。――強いて言えば、嬉しい事が有った――とだけ言わせていただきましょうか」
「嬉しい事?」
愛華は俺にそっと耳打ちしてきた。
「死ぬ時は一緒――なのですよね?」
「うっ!」
それは言ってはいけない!
今聞くとメッチャ恥ずかしくなってくる!
夢なら早く覚めてほしい……。
それから数日後。
うん、残念ながら宇宙人襲来は夢ではなく、あの臭い台詞も当然の如く現実に発したのは言うまでもない。
でもって俺は再びこれまでと同様の日常を送っているのだが、少しだけ変化した部分がある。
「あーーっ、また佑矢と愛華が手を握ってるーーっ!」
「不純です! 不純異性交遊です! 今すぐ離れなさい!」
「うるさいですよ? わたくしがどうしようと、わたくしの勝手です。そんなに握りたいなら反対側が空いてるじゃないですか」
「よっし、貰った!」
「ああ! こら、嶺奈さんまで!」
――とまぁ、何かと愛華がべったりくっつくようになった。
智樹は肩を竦めて見てるし、校長は悔し涙を――って校長よ、いい加減にしないとファフニーさんに報告するからな?
「そもそもどうして愛華さんはそんなにベタベタするようになったのですか! 以前は大人しかったはずですよ!?」
「フフフ、気になりますか? 何を隠そうわたくしは佑矢さんにプロポーズされたのです」
「「「プロポーズ!?」」」
嶺奈と歩美だけじゃなく、俺も一緒になって驚いた。
何せプロポーズをした記憶なんてないんだし当たり前だ。
「死ぬ時は一緒だ――というのはプロポーズ以外のなにものでもありません」
「それかよ!」
どうやら俺は、とんでもないワードを使ってしまったらしい。
「佑、どういう事なの!?」
「そうです! 言うなら私に――じゃなかった、そういう台詞は無闇に言うべきじゃありません!」
「フフン、お二人の嫉妬が心地好いです♪」
ただ一つ言えるのは、もうしばらくはこの賑やかな日常が続くんだろうなって事かな。
うん、こんな日常なら悪くはないな。
END
これにて完結です。
ありがとう御座いました。




