宇宙人の襲撃
前回のあらすじ
いよいよ校長が、嶺奈のおじさんが所有する宇宙船を見てみると言い出した。
祐矢達も見物するため、嶺奈の家に集まったのである。
「ヒィッ!?」
真っ黒なオーラが俺に迫るが、戦闘経験皆無な俺に回避する余裕はなく、慌てて腕で顔を隠すのが精一杯だ。
「無抵抗に死を選ぶか? ――フッ、まぁそれもよかろう」
よかろうも何も、それしか出来ないんだっつーの!
――って、抗議したところで状況は変わらない。
俺はこんな訳の分からない理由で死ぬのか……そう諦めかけたが――
シュバッ!
「え?」
何かが俺を抱えて飛び上がり、俺が立っていた場所を黒い波動が覆い被さる。
波動が収まると、埋め尽くされてた雑草が真っ黒になって萎びていた。
つ~か怖っ! 何なんこれ!? こんなん食らったらマジで死ぬ!
シュタ!
「ふぅ、危なかったなぁ兄貴!」
「兄貴!?」
着地と同時に俺を兄貴と呼ぶ男の子の声。
間一髪で助かったようだが一体誰が?
――と、思ってたら、見知らぬ男児が俺を抱えていた。
「お前はいったい……」
「すまねぇ、今は話してる余裕はねぇみたいだ!」
そう言うなり男児は、マルガフに向けてファイティングポーズをとる。
「こっからはオイラが相手だ。兄貴には指一本触れさせねぇ!」
「ほぅ……ガキが生意気に抵抗するか」
ミーネを足元に下ろしたマルガフは、再びオーラを立ち上げる。
「余興が増えたところで無意味。無謀にも俺に挑んだことを後悔するんだな」
「ヘン、無謀かどうか、やってみなけりゃ分かんねぇだろ――」
「お、おい!」
男児がマルガフめがけて突っ込んでいく。
んな無茶な――と思った俺だが、この男児も普通ではなかった。
「フン!」
「あまいぜ――うりゃぁぁぁ!」
マルガフの放った波動を飛び上がって回避すると、下降するタイミングで男児の身体に変化が起こる。
「え……お、お前って……」
男児の身体が急激に膨れ上がると、巨大な熊へと変貌を遂げやがった!
「食らえぇぇぇ! ベアナックル!」
ドゴォォォ!
「グォフ!?」
上からマルガフを殴りつけ、後方の樹木へと叩きつけた。
まさかの大健闘――というか普通に強ぇ!
「兄貴、トドメを刺すからミーネを頼むぜ」
「あ……ああ、分かった!」
言われるままミーネを抱き起こし、熊の後ろへと退避する。
つ~かこの熊、身体中にトゲが有るところを見るに魔物の類いなんだろうが、後ろ姿はどっかで見たような……
「ああ! 思い出した!」
そうだよ、コイツは遊園地にいたあの熊じゃねぇか!
「お前、生きてたのか!?」
「いや? オイラは死んだぜ? だけどファフニー様から力を授かって、スパイクグリズリーとして転生したんだ」
スパイクグリズリー?
よく分からんが、魔物に生まれ変わったって事なんだろう。
相変わらずファフニーさんはとんでもない事を仕出かしたようだが、今は教えそれがありがたい。
「ぐぅぅ……、お、おのれぇ、こしゃくな真似を!」
「こしゃくかい? だったら一丁、ド派手なやつをいくぜ!」
ヨロヨロと起き上がったマルガフに、スパイクグリズリーが突撃する。
巨体にも拘わらず凄まじいスピードでマルガフに迫ると――
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁ!」
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴォォォ!
「グォォォォォォッッッ!?」
怒濤のラッシュを繰り出し、マルガフを滅多うちにしていく。
「せぃやぁぁぁっ!」
ドゴン!
「ゴフッ!?」
最後にアッパーカットを決め、遠くへと吹っ飛ばす。
もしかしたら愛華達より強ぇかもしれない。
――あ!
「そ、そういえば愛華はどこだ!?」
ミーネがいたんだから、今日香や明日香姉もいるはずだ。
「落ち着いてくれ兄貴。ここはマルガフが作った隔離された空間だ」
「隔離された?」
この熊男児が言うには嶺奈の家から出た瞬間、俺をここに隔離したらしい。
なぜ俺をって話になってくるが、ダンジョンマスターって事くらいしか思い当たる節はないし、直接聞くしかなさそうだ。
「兄貴はダンジョンマスターだから、眷属であるミーネとオイラも同時に隔離されたって訳さ」
「そうだったのか……」
そのせいでミーネを巻き込んじまったが、とりあえずは無事でなによりだな。
――あれ? この熊男児、俺の眷属だって言わなかったか?
「なぁ今――「危ねぇっ!」
熊男児が俺とミーネを抱えて飛び上がると、あの波動が真下を通過していく。
あの野郎、まだ生きてやがんだな?
「チッ、避けやがったか……」
木陰からマルガフが姿を現す。
半透明化が解けて、全身を真っ黒なスーツで覆われた男がそこにいた。
いや、顔は見えないが、声は男のそれだから男と断定したんだけれども。
「おい、テメェはいったい何者だ? なぜ俺を狙う?」
「なぜ? ――知れた事よ。貴様の全身から溢れている宙域魔力。それを求むのは当然ではないか」
「宙域魔力だぁ!?」
よく分からん成分が、俺の全身から放たれてるらしい。
「俺はお前達――地球人から見て宇宙人に該当する存在。さぁ、おとなしく宙域魔力を寄越すのだ」
ケッ! そんないい加減な理由で殺されちゃたまったもんじゃねぇ!
「頼むぜ――クマゴロウ、奴を仕留めろ!」
「クマゴロウ?」
「お前の名前だよ。俺の眷属なんだろ?」
「あ、兄貴ぃ!」
クマゴロウが感動して涙を流している。
……感動してんだよな? まさか嫌過ぎて泣いてますとかだったら、俺が泣くぞ?
「このクマゴロウ、兄貴に一生を捧げますぜ! ハァァァッ!」
感動にうち震えながらマルガフへと突撃するクマゴロウ。
全身を回転させ、ドリルのような鋭い爪がマルガフへと迫る。
「スピニングベアクロー!」
ドズン!
「グァァァァァァッ!」
土手っ腹に大穴を開けたマルガフが、夥しい量の血を流して仰向けに倒れる。
さすがにもう立ち上がらないだろう。
「お、おのれぇ、地球人め……」
「なんだ、まだ生きてやがんのか」
クマゴロウの背中を盾にして見下ろすと、仰向けのままボソボソとほざいてやがった。
「……覚えて……おくがいい。俺が死んでも、セアトやアルゲニスがいる。奴らは……俺よりも……遥か……に……」
そのままマルガフは動かなくなった。
……ふぅ、なんにせよ助かったぜ。
グググググ……
「ん? なんだ? 周りが歪んで……」
マルガフが死んだ直後、森全体が歪んでいく。
更に目眩のような関学が襲ってきて、俺はそのまま意識を手放した。
「ん……」
「あ、意識が戻ったよ、お姉ちゃん!」
「ええ、急いでおじさんに知らせてきてくれる?」
「分かった!」
二人の話し声がする。
この声は今日香と明日香姉だな。
「……ふぅ。ええっと……ここは?」
横たわってた俺が起き上がってキョロキョロと見渡すと、知らない部屋のベッドで寝かされてたのが分かる。
ベッドの側いた明日香姉ちゃんと、今しがた出ていった今日香が看ててくれたようだ。
「ここは有太おじさんの部屋よ。覚えてる? 祐くんはこの家から出た直後、突然意識を失ったのよ?」
「意識を?」
どういう事だ?
俺はマルガフの作り出した空間に隔離されてたはずだ。
でも現実世界だと意識を失ってた事になってるのか?
「明日香姉、ミーネとクマゴロウは?」
「ミーネちゃんならついさっき目を覚ましたわ。それからクマゴロウっていうのは誰の事かしら?」
「あ~、それは……」
そうか、俺以外はクマゴロウの事を知らないのか。
だとしたらどこに行ったんだ?
「祐くん?」
「あ~、いや、なんでもない」
とりあえずクマゴロウの事は置いといて、俺に何があったのか話しておかないとな。
「そんなことより大事な話があるんだ。早く愛華に伝えないと」
ヒョコ!
「焦らなくともお伺いしますよ?」
「のわっ!?」
ベッドの下から愛華が!
もしかして、ずっとベッドの下に居たんじゃないだろうな?
「なぁ愛華、嶺奈の家を出たあとの事なんだが、俺は何をしていたんだ?」
「……何を――と言われましても、突然気を失って倒れたのですよ? そのあと慌ててベッドをお借りしたのです」
うん、これでハッキリしたな。
愛華達には俺に何が有ったのか知らないって事だ。
「そういやミーネは目を覚ましたんだよな? 何か言ってなかったか?」
「それがですね、目を覚ましたのはよいのですが、何かに怯えるように猫形態のまま震えてるのですよ。尋常ではなかったので、しばらくそっとしておこうかと思いまして」
恐らくだが、マルガフに襲われたショックから立ち直れてないんだろう。
さすがの愛華も空気を呼んでモフらなかったようだ。
「祐矢、大丈夫かい!?」
「倒れたと聞いた時はびっくりしたよ。その様子だと大丈夫そうかね?」
今日香が有太おじさんと校長を連れて戻って来た。
二人の後ろから嶺奈と歩美も入ってくる。
「お騒がせしてすいません。僕は大丈夫なんですが、どうしても聞いてほしい事がありまして」
「どうしたの祐? あんま顔色が良くないみたいだけれど……」
嶺奈からは俺の顔が青ざめてるように見えるんだろうな。
本来なら俺一人が悪い夢をみただけにしておきたいんだが、マルガフが宇宙人って事は有太おじさんが関係してる可能性もあるし、これだけは話しておく必要がある。
「実はさっき起こった出来事なんですが――」
「「「宇宙人に襲われた!?」」」
嶺奈ん家を出た直後、俺の身に何が起こったのかを全て話した。
おじさんと校長はより神妙な面持ちとなり、愛華達は身を乗り出して俺の身を案じる。
幸いにもミーネの挙動がおかしいという事から、俺の話は信じてもらうことができた。
「マルガフ……か」
どうやら有太おじさんはマルガフの事を知ってるようだ。
「校長先生、やはり……」
「うむ。どうやら手遅れだったようですな」
校長も何か知ってるっぽいな?
こうなりゃ詳しく聞く必要がありそうだ。




