発見、僕らの宇宙船
前回のあらすじ。
西条に誘われた温泉旅館にて、今日香と明日香の正体が妖狐である事が判明した。
祐矢と両親の記憶を操作した彼女達だが、祐矢はそれを許し、これまで通り生活することを望んだのである。
『昨日、〇〇動物園の難病を患っていた熊が死亡し、関係者により手厚く埋葬されました』
温泉から帰ってきてリビングでテレビをつけると、あの熊がニュースになっていた。
「祐兄ちゃん、これってあの熊だよね?」
「ああ、間違いないな」
以前ファフニーさんが魔法をかけた月の輪熊だ。
あの時は数日で分かるって言ってたが、結局何のことなのか分からずじまいだな。
「あれから2週間以上は経過してますし、てっきり完全復活を果たすものだと思っていたのですが、予想が外れましたね」
「それはそれでビッグニュースになりそうだがな……」
ぶっちゃけ俺も、愛華と同じ展開を予想してたのは有る。
もしかしたらこっちの世界の動物には効果が薄くて、復活にはいたらなかったのかもしれない。
まぁこればっかりは本人に聞いてみなきゃ分からない事だが。
「祐ーーっ、居るーーっ?」
ん? この声は嶺奈の声だ。
さっき一緒に帰ってきたばかりだし、どこにも行きようがないんだが。
「祐君、嶺奈ちゃんのお父さんの宇宙船、校長先生が見てくれるらしいわよ?」
「え、校長が来てんの?」
「来るのはこれからよ。さっき連絡があって、都合が良ければ見に来るって話になったみたいね」
ちょうど何しようか考えてたところなんだよな。
まだ朝方で時間も有るし、せっかくだから行ってみるか。
歩いて数分の近所にある嶺奈ん家にゾロゾロと皆でやって来た。
白い柵で囲ったデッカイ庭のある立派な家なんだが、思えばこの庭は何のためにあるのか考えたこともなかったな。
でも今なら分かる。
この庭の下には宇宙船が隠されているんだ。
完全迷彩により万が一にも人目に触れないようにはなってるらしいけど、念には念を入れてるんだろう。
「祐矢さん、わたくしが看破した事実を得意気に語るのはいかがなものかと愚考します」
「バラすなよ」
……コホン。
とまぁ、愛華がスキャンして分かった事なんだがな。
「パパ~、連れてきたよ~」
「お、来たか!」
「おじさん、久し振り」
「お久し振り~!」
「ご無沙汰しております」
庭で植物の手入れをしていた嶺奈の父ちゃんが顔を上げる。
俺もお狐姉妹も顔馴染みなんだが、愛華は今回が初めてだな。
「初めまして、冴木家に居候中の愛華と申します」
「おお、君が愛華ちゃんかい。嶺奈から話は聞いてるよ。自分は荒井有太というんだ。入籍した名前は有太だけれど、コスモネームがアルタだから有太と呼んでくれると嬉しいね、まぁ宜しく頼むよ」
コスモネームってのは有太おじさん本来の名前を指すらしい。
なんかミドルネームみたいで格好いいと思った俺は正常だよな?
「自分も他人のことを言えないが、愛華ちゃんは人間にしか見えないなぁ」
「そうでなくては困ります。一般人に知られては面倒ですので」
「ハハッ、なるほど」
愛華がダンジョンコアだということは嶺奈の両親にも伝わっている。
まぁお互いに秘密を共有した仲って感じに。
そして愛華の正体は、宇宙人であっても看破できなかったらしい。
「お近づきの印にこちらをどうぞ」
「ん? これは……」
愛華のやつ、気を利かせて手土産を持ってきたらしい。
白い液体が入った透明なボトルを手渡したが、異世界の酒とかだろうか?
「DPで召喚した精力剤です」
「「おい!」」
初対面の相手に渡す代物じゃねーよ!
俺の世間体にも関わってくるんだが!?
「――というのは冗談で、中身はマナポーションという魔力回復薬です。宇宙人に効果が有るかは不明ですが、是非試してみてください」
「そ、そうかい? なら後で使ってみるよ」
おじさん、顔が引きつってるやん。
まさか嶺奈と同じくらいの娘に精力剤を渡されるとは思ってなかっただろう。
「精力剤だったら有り難かったんだが……」
「そっちかい!」
何か肉体的な衰えでも感じてるんだろうか?
いや、これ以上は推測しないほうがよさそうだ。
「ではわたくしも。この度、冴木祐矢様に遣える事になりましたミーネと申します」
「おお、何とも上品なお嬢さんだ。こちらこそ宜しく」
「つまらない物ですがお納めください」
「ん? これは……」
ミーネが手にしてるものは何てことない木の枝。
これが手土産なのか?
「マタタビです」
「「おい!」」
そんなん貰っても使い道に困るがな……。
「ま、まぁこれを機に、猫を飼おうか検討してみるよ」
「いやいや!」
無茶ぶり対決になっちゃいませんかね?
それに応えるおじさんもおじさんだが。
「やっぱり精力剤の方がいいの?」
「はい、今日香ストップ」
話を戻してはいけない。
せっかく収まりそうだったのに。
「では期待に応えて――」
「応えんでいい!」
ガバッ!
「愛華くん、精力剤はないのかね!?」
「ぬぉっ! 校長!?」
突然現れた校長が愛華にすがっている。
「たた、頼むよ愛華くん! 僕の私生活を彩るには必要なものなんだ!」
「何に使うんだよ!」
もし不倫とかなら無事じゃ済まないぞ?
ファフニーさん怒らせたらすんげ~怖そうだし。
「祐矢さんの反応を見て遊んでるだけでしたが、そこまで言うなら召喚して差し上げましょうか?」
「ほ、本当かね!? なら今すぐ――「とうっ!」――あだっ!」
どこからか足が飛び出して、校長の後頭部に直撃した。
それに今の声は……
「校長自ら風紀を乱す行為は容認できません。自重して下さい」
「歩美か」
校長をシバイたのは歩美だった。
首が人間離れしたように曲がってる気がするんだが、元魔王様だし大丈夫だろう。
「歩美も見に来たのか?」
「はい。(盗聴器から)祐矢さんの話し声が聴こえましたので」
そんなデカイ声で話してたっけ?
まぁいいか。
役者は揃ったし、さっそく宇宙船とやらを拝見させてもらっちゃおう。
「おお、こりゃ凄ぇ……」
おじさんの案内で地下室に下りると、だだっ広い空間――言うなれば学校の校庭くらいのスペースが、コンクリートで被われた場所になっていた。
それこそ軍事基地(見たことはないが)のような、見たこともない部品やら道具やらがその辺に転がっている。
極めつけは、部屋の中央にデーンと陣取っている、上向きに配備された宇宙船だろう。
「驚いたかい? 自分はコイツに乗って銀河を旅してたのさ。だが今はもう動くことはないんだが……」
自慢気に宇宙船をペタペタの触るおじさん。
だが直後、少し寂しそうに見上げたのは気のせいではなさそうだ。
「ではさっそく拝見させてもらおう」
「お願いします!」
校長は外側から調べるみたいで、宇宙船を軽く叩いたり触ったりして異常がないかを探っていく。
端から見ると、一般人がミーハー気分で見学してるだけのようにも見えなくはない。
「ふむ……。外側からは異常は見当たらない。勿論絶対とも言い切れないが、問題が有るとすればやはり……」
「……分かりました。中へ案内いたします」
外側からの調査を打ち切り、宇宙船内部へと案内される俺達。
まさにそこも未知の領域で、訳の分からん機材が大量に備え付けられていた。
いや、そんなことよりも、宇宙船の内部は宇宙に出た時の感覚を維持するために、無重力状態を保っているという点だ。
そう、俺は今、生まれて初めて無重力というものを体感していた。
「何これ、すっげぇ楽しい!」
「ふむ、これはこれで興味深いですね。人体に負荷が掛からないというのも、別のベクトルで不自由と言えるのでしょう」
俺があちこちを飛び回ってる反面、愛華は冷静に身体を動かしてラジオ体操モドキをやっている。
もっと破天荒に動き回るのを期待したんだがな――歩美みたいに。
「凄いです! 正に新境地!」
チラリと歩美に視線を移すと、空中で逆立ちを披露するという忍者らしい一面を見せてくれた。
ただ実に惜しいのは、スカートが捲れてくれないという一点だ。
まさに無重力の弱点と言えようが、諦めてはいけない。
「……角度を変えれば」
そう、俺自らが変わればいいんだ。
さすれば見えないところにも目が届くようになり――
「祐矢くん、どこを見てらっしゃいますか?」
「そりゃもう歩美のスカート――おぅ……」
なんということだ、歩美が目の前でニコニコしてるじゃないか。
「……未遂のようなので、今回は見逃しますが、次は……」
「はい、心得ました!」
ふぅ、危なかった……。
「もう、祐ったらガキなんだから」
羽目を外してたら嶺奈に呆れられた。
だってしゃーないやん、こんなん誰でも興奮するわ(いろんな意味で)。
現に今日香もはしゃぎ過ぎて明日香に追いかけられてるし、どさくさに紛れて愛華はミーネをモフろうとして引っ掻かれてるし。
「これは!?」
はしゃいでた俺達は、校長の声で現実に引き戻される。
何か分かったんだろうか?
「校長先生?」
「ああ、驚かせてすみません。少々厄介な事が判明しましたので……」
いつもの校長らしからぬ真面目な表情――いや、真面目というより悲痛なと言った方が正しいかもしれない。
「少し内密でお話ししたい事があります」
「……分かりました」
どんな内容か不明だが、俺達には聞かせられないレベルの事なんだとか。
そう言われると益々気になるんだが、校長に聞いても今は教えられないとの一点張り。
仕方ないのでその場で解散となり、俺達は自宅へと帰って――
「って、ちょっと待て。ここどこだ!?」
さっき嶺奈ん家を出たのはハッキリ覚えてる。
だが今は、見たこともない森の中に入り込んでいた。
「え……え? ……ええ!?」
いやいや、いったいどうなってやがる? 後ろにあったはずの嶺奈の家まで消えて、森に早変わりしてるじゃねぇか!
「お、おい愛華、悪ふざけはよせよ……」
だが愛華からの返答はなく、それどころかお狐姉妹やミーネまでもが居なくなってやがる。
慌ててスマホを取り出すも、案の定圏外。
俺は直感する。
これは愛華がやった事ではないと。
だとしたら誰がって話になるが、そもそも人間に出来る芸当じゃない。
「キャァァァッ!」
「何っ!?」
女の子の悲鳴が――いや、これはミーネの悲鳴だ!
俺は悲鳴が聴こえた方向に向かって走り出した。
「あっ!」
「……ほぅ。そちらから出向いてくれるとはありがたい」
「な……んだお前は……」
ミーネを担いだ半透明の人形がそこにいた。
半透明……というかほぼ透明だ。
上手くは言えないが、背景と一体化してると言えばいいか。
「コイツに聞こうと思ったが一撃で気絶してしまったのでな」
とりあえずミーネは生きてるようだ。
しかし安心できる状況じゃない。
恐らくコイツは俺よりも相当強いはずだ。
「よく分からんがお前は敵か!」
弱味を見せるよりはいいかと、強気で身構える。
本当は黙って帰ってくれるのがありがたいんだが、そんな様子は微塵も感じられない。
「まあ、そうだな。これから貴様の力を奪い取るのだ、敵であると言えような」
俺の力? もしかしてダンジョンマスターとしての力の事か?
どっちにしろ、コイツがこの妙な場所を作ったんだろうし、コイツをどうにかするしかない。
「冥土の土産に名乗っておこう。――俺の名はマルガフ。その力――俺が貰いうけよう!」
「っ!」
コイツの全身から真っ黒なオーラが立ち上がり、それが俺目掛けて飛んできた!




