しかし、予想外の展開に!?
前回のあらすじ
嶺奈に愛華の存在がバレてしまうが、逆に秘密を共有する側に引き込むと、愛華のことは秘密にしてくれると約束してくれた。
しかし、依然として両親には秘密のまま。
このまま隠し通すことはできるのか……。
「祐矢さんのお知り合いのようですね。わたくしダンジョンコアの愛華と申します。今後ともよろしくお願い致します」
「え、え~と……よろしく?」
俺が動き出す前に愛華が先走って挨拶し、嶺奈は嶺奈で困惑しながら差し出された手を握って握手に応じる。
ってか、こうなったら存在そのものは誤魔化しようがない。ダンジョンコアだと名乗っちまった以上、嶺奈も秘密の共有者として引き込むしかないよな。
「え~と……だな、とりあえず落ち着いて聞いてくれると助かるんだが……」
嶺奈の手を引いてテキトーに座らせると、いざ愛華に関する説明を開始。
突然押入れから現れた事。
異世界からやって来た事。
愛華本人がダンジョンコアである事。
押入れが既にダンジョンと化してる事。
俺がダンマスになった事。
嶺奈のスカートを覗こうとした事――って、やべっ!
ゴツンッ!
「っでぇぇぇぇぇぇ!」
「祐――アンタってやつは……」
やっちまった。
説明してるうちに滑舌になって、いらん事までベラベラと喋っちまったじゃねぇか!
「愛華、今度同じ事しようとしたらあたしに教えてね?」
「畏まりました、嶺奈さん」
こら愛華、ダンマスである俺より嶺奈を優先するんじゃない。
「文句……ある?」
「文句なんてとんでもない! 嶺奈様の仰せのままに」
「うん、よろしい」
ふぅ、助かった……。
もうグーで拳骨をくらうのはゴメンだし、視点切り替えは必要な時以外は使わないようにしよう。
「……でだ。愛華の存在が世間に広まるのはマズイ。だから嶺奈には愛華のことを吹聴しないでほしいんだよ」
「うん分かった、誰にも言わないよ。本当は喋りたくてウズウズしてるけど、愛華が捕まったら可哀想だもんね」
パシャ!
って、言ってるそばからコアルームを写メってるんだが、本当に大丈夫か?
「おい嶺奈、証拠になりそうなものは――」
「この程度なら大丈夫でしょ? 見られても加工したとしか思われないって。――それより愛華、記念写メとろうよ……はいチーズ♪」
パシャ!
「出来た出来た! ほら愛華、コレが写メだよ!」
「ほうほう……写メの存在は把握してましたが、こうして体験するのは初めてですね」
ふむ……何となく意気投合してるっぽいし、これなら大丈夫そうだな。
間違っても俺を取り合って修羅場になる――なんて展開はないだろう。自分で言うのも悲しいが。
というか――
「可愛く撮れてるでしょ?」
「撮影代として220円頂きます」
「ええーーっ? いいじゃない別に。あたしと愛華の仲じゃない」
「勿論です。本来の金額から半額にて御提示してますのでご安心を」
愛華はやけに金に執着してるように感じるんだけど、どうしてだろうな?
「なぁ愛華、そんなに金を稼いでどうするつもりだ?」
「おや、説明してませんでしたか。DPを獲るにはこの世界のエネルギーを変換する必要がありまして、その内の一つとしてお金をDPに変換する方法があるのですよ」
そう言われるとドス黒い何かが見えてきそうな気がするな。金のエネルギーだけに……。
「本来であれば侵入者を撃退――もしくは殺害することでDPを獲得できるのですが、今現在このダンジョンへ侵入を試みる存在はいませんので」
ま、そりゃそうだわな。
「――あ、そういえば、小蝿が一匹侵入してきましたので駆除したところ、1ポイント獲得しました」
「しょっっぼ!」
いや、ここは小蝿を退治したことに対して、素直に感謝しとこう。
「他に方法はないのか? さすがに小遣いを注ぎ込むのは遠慮したいぞ」
「そう言うと思いまして、祐矢さんの部屋全体にまでダンジョンを拡張したのですよ」
「拡張?」
「はい。これにより、祐矢さん以外の生命体が部屋に侵入した場合は侵入者として扱い、その生命体がダンジョンに留まる事でDPを獲得できるシステムを構築しました」
ほ~う、つまり生き物なら何でもいいから部屋に置いとけばDPが稼げるわけか。
「ですが、菌類などは1ポイント未満のためカウントされません。最低でもさっき居た小蝿以上である必要がありますね」
なるほどな。昆虫とかを置いとくだけで定期的にDPが稼げるのか。
場合によっちゃ、犬や猫を飼ってみるってのもありだな。
「祐……まさか小蝿を飼うとか言い出すんじゃないでしょうね?」
「飼わねぇよ、んなもん! ――あ、そういや今は嶺奈がダンジョンに侵入してるってことになるよな?」
「はい。嶺奈さんの場合、一時間ごとに50ポイント貯まるようですので、二時間が経過した今は100ポイント獲得できてます」
お、なんかいい感じで貯まってるな。
「あたしのお陰で貯まったんだから、当然ジュースの一つくらいは奢ってくれるわよね? 家庭教師もしてあげたんだし」
「おう! ……と言いたいところだが、生憎と今は金欠でな。何か別のものを――「でしたらDPを使ってジュースを召喚してはいかがでしょう?」
「DPを使って?」
そうだな……練習がてらやってみるか。
「それで、どうやって召喚するんだ?」
「簡単です。召喚していものをイメージすればいいのですよ」
意外と簡単そうだったので、ならばとさっそくチャレンジしてみる。
嶺奈は確かレモンスカッシュが好きだったはずだから、それを強くイメージした。
サァァァァァァ……
すると握りしめてた右手が光を放ち、気が付くと見知ってる缶ジュース――レモンスカッシュを手に持っていた。
「おお! マジで召喚できたぞ!」
「すっごぉぉぉい! ねぇねぇ、飲んでみてもいい?」
「おう!」
カシュッ!
渡したレモンスカッシュを飲み始める嶺奈。
さて、肝心のお味の方は……
「――ぷはぁ。うん、あたしの知ってる味よ! やっぱ仕事の後の一杯は格別だね!」
うんうん。どうやら召喚は成功したらしいな。失敗することが有るのかは知らんけど。
「ちなみにですが、1ポイント1円のレートとなっておりますので、今ので残りのDPは1ポイントになりました」
「それを先に言えーーっ!」
嶺奈に還元して終わっちまったじゃねえかよ……。
「使ったもんはしょうがないけど、だいたいにして初期ポイントはどうなったんだ? 確か2倍とか何とか言ってなかったか?」
「はい、初期ポイントは100でしたので2倍の200ポイントでスタートしたのですが、ダンジョン拡張により200ポイントを消費しましたのでゼロからスタートしたと言ってもよいでしょう」
「マジかよ……」
何気に詰んでる感じが否めないのは気のせいだと思いたい。
こんな波乱なスタートは、ゲームだったらクソゲー認定するね――いやマジで。
ん? ゲーム?
「そういや愛華、プレミアムガチャチケットの件はどうなったんだ?」
「……チッ、お覚えてましたか」
「おい……」
舌打ちすんな、自称美少女さんよ。
「はいどうぞ。このチケットを使う際も、先程と同じように念じれば使用可能です」
そう言いつつ懐から出したのは、どう見ても商店街で出回ってる福引券のようなガチャチケだ。
というか誰が作ったんだコレ……。
「使わなきゃ意味ないし、さっそく使うか」
「ゲットできるのはレアアイテムからレアモンスター、DPにスキルなど様々です。上手く欲しいものを引ければいいですね」
「当たったら何か奢って」
狙いは勿論DPだ。コレが有るか無いかで今後の生活が大きく変わる可能性がある。
それから嶺奈。お前にゃさっき奢っただろ!
さぁ、DPこいDPこいDPこい……
『パンパカパーーーン♪ 加速スキルをゲットしました』
は?
『このスキルは一定時間自身の機敏さを上昇させるもので、使用ペナルティはありません』
うん。
『但し、1度使用するとしばらくは使用不可となりますので注意してください』
へ~ぇ。
『いやぁ、ガチャって本当にいいものですねぇ。それではまたお会いしましょう!』
最後にどこぞの映画評論家のような台詞を残し、謎の声は消え去った。
しかし、ゲットしたのは加速スキル……
「やりましたね祐矢さん、スキルゲットは中々レアですよ。特にこの世界は物理法則の強い世界なので、そのスキルは大いに役立つことでしょう」
「けどなぁ……」
今重要なのはDPをどうにかすることであって、スキル入手してハッピーなんて気分にゃなれない。
残念ながら目的は果たせず……ってとこだ。
「でも良かったじゃない。遅刻しそうな時とか役立ちそうだよ?」
「いや、俺は遅刻常習犯じゃねぇし」
ま、無いより有ったほうがマシなのは確かだけど。
「祐、あたしはそろそろ帰るけど、愛華に変な事したらダメだよ?」
「しねぇよ!」
仮にやったら返り討ちにされるわ。
「お待ちください嶺奈さん。もう少し居ていただくと有り難いです」
「フフン、中々嬉しいこと言うじゃないの、このこのぉ♪」
笑みを浮かべながら愛華の頬を突っつきだす嶺奈。愛華はよほど嶺奈のことを気に入ったと見える。
「後10分で50ポイント貯まりますので是非ご協力を」
「ガクッ!」
そういうことか。
嶺奈はちょっとだけ哀れだが、俺としても協力してもらうのがベストだ。
それから10分経つと、また愛華に会いにくると言って嶺奈は帰って行った。
嶺奈は嶺奈で愛華を気に入ったのかもな。
これなら吹聴しないという約束は守ってくれそうだ。
「それで祐矢さん。本日の夕食はどうなるのでしょう?」
「さっそくかよ」
なんというか、愛華は花より団子だな。ダンジョンコアに恋愛感情があるのか分からんというのもあるけど。
って、そんな事より夕食だな。DPが有れば何とかなりそうなんで、それを上手く利用する手を思い付いた。
「その夕食なんだがな、ちょっくらDPを確保してくるから、愛華はここで待っててくれ」
「畏まりました。わたくしを飢えさせないよう頑張ってください」
「へいへい」
――ってな訳で、愛華を一人部屋に残し、ビニール袋とシャベルを手にやって来たのは自宅の庭。
ここまでくるとだいたい想像つくだろうが、俺がやろうとしてるのは昆虫を持ち帰ることだ。今が春先なのは幸いだな。
「掘って掘って掘り抜いてっと――「祐矢、庭で何してるんだ?」――おっとと……あ、父ちゃん?」
仕事から帰ってきた父ちゃんの声で顔を上げると、辺りはすっかり日が落ちて薄暗くなっていた。
DPを気にするあまり、昆虫を捕まえるのに夢中に成りすぎてたな。
でもお陰でミミズ5匹、バッタ6匹、カマキリ1匹を確保できた。最低でも12ポイントにはなるだろう。
「ちょっと昆虫を捕まえてたんだ。ポイントが欲しくてさ」
「ポイント?」
「あ~いやいや、こっちのこと。もう戻るから」
思えば愛華を一人にすべきではなかった。
そう後悔することになろうとは、この時の俺は知る由もなかったのである……。