おや? 今日香の様子が……
前回のあらすじ
西条に誘われて温泉旅館に一泊することになった祐也達。
いまだ外に出してないミーネをどうするかという問題も解決し、いよいよ当日を迎えるのであった。
「つ~かさ、俺だけ知らなくて皆知ってるとか酷くね?」
車の窓に肘をつきながら愚痴ってみる。
それというのも、俺以外は互いに人外だと知ってるって事が明らかになったからだ。
「そりゃ祐には悪いと思ってるけど仕方ないじゃない」
「そうそう。俺達みたいな存在は、互いにバラしてはいけないって暗黙のルールがあるんだよ。混乱を防ぐ意味も込めてな」
嶺奈に同調した智樹が相槌を打つ。
でも智樹の場合、あんま隠す気がなかったような……。
「三沢殿の言う通りでござる。拙者から見ても冴木殿の周りは人外だらけでござるが、敢えてこちらから教えられなかったでござるよ」
「そうですね。風紀が乱れる原因になりかねないですし……」
武悲山の場合は普通にボッチだし、言っても相手にされなそうだけどな。
それから歩美、風紀の域は遥かに通り越してると思うぞ。
「後はあの二人ね~。これも気付かない限りバラせないんだけども」
「「「うんうん(でござる)」」」
あの二人?
よく分からんが、他にも人外がいるんじゃなかろうな?
まぁキッカケがないと分かんないだろうが。
ちねみに明日香姉と今日香は、俺らのワゴン車とは別の車――フェラーリに乗っている。
西条が今日香を隣に座らせたいと言い出したから、監視の意味を込めて明日香姉を送り込んでやったぜ。
さすがに行きの車内で何か起こるとは思っちゃいないが、念には念を入れて――
「祐也さん、手が止まってますわよ? キチンと撫でてくださいまし」
「あ~はいはい」
ミーネを膝枕してるのをすっかり忘れてたぜ。
あ、もう一度言うが、俺がミーネを膝枕してやってるんだからな?
第三者が見たら逆だろってツッコミが入るところだが、ミーネにしてみれば何もおかしくはないんだ。
「にしてもさ、祐也の周りっていろんな女の子が寄ってくるよね? なんでだろ……」
「まったくです。いつか落ちる――じゃなかった、いつか風紀が乱れると思うと気が気じゃありません」
嶺奈と歩美がジト目を向けてくる。
俺のせいじゃないんだから、そんな目で見られても困るっつ~の。
「明日香姉と今日香は物心ついた時から一緒に暮らしてたし、ミーネを連れて来たのは愛華だろ? 神野見留久は嶺奈のせいだし、ファフニーさんは人妻だからノーカンって考えれば、俺と親しい異性はお前らしかいないだろ」
「「!?」」
あ、念のため言うと、お前らって台詞の中には愛華も含まれるけどな。
「そ、そそ、そうよね。祐也と親しいのはあたしよね。うん、今思い出したわ… 」
「私と祐也さんは親しい……親しい……親しい……親しい……」
んん? 嶺奈と歩美が赤面しながらブツブツと呟きだしたぞ?
何もおかしな事は言ってないんだが……。
「なぁ愛華。この二人はどうしちまったんだろうな?」
「…………」
「……愛華?」
応答がなかったので隣に座る愛華に顔を向けると、何やら熱心にスマホを弄ってる最中だった。
「今ダンジョンのセットアップを行ってるので、邪魔しないよう願います」
「ああ、悪ぃ悪ぃ――」
どうやら取り込み中らしい。
「――って、そうじゃないだろ」
ビシッ!
「アタッ! ――もぅ、祐也さんのせいで手元が狂ったじゃないですか」
「手元が狂ったって、ゲームでもやってたのか?」
「ですからダンジョンのセットアップだと言ってるじゃありませんか。家を留守にする間、外敵から我が家を護るのは当然です」
当然です――って、そうそう空き巣なんか来てたまるかよ。
「特にわたくしのコアルームには最大級の罠を仕掛けなくては!」
「ほどほどにな……」
この前寝ぼけてコアルームに入ったら、とんでもねぇ電撃を食らったからな。
それこそ寝癖がリーゼントに早変わりするくらいに。
更に俺の悲鳴を聴いたミーネまでもネコハウスから飛び出てきて、被害者第2号になったくらいにして。
あん時は愛華に説教してやろうと思ったが、ミーネに散々引っ掛かれて涙目になってるのを見たら、起こる気が失せちまったよ……。
「皆様、そろそろ到着致しますぞ」
運転手のおじさんに言われて皆――というか、俺とミーネ以外が窓から顔を出す。
両サイドが雑木林となっている山道の先に、古風な旅館が構えられてるのが見えてきた。
入口正面には従業員50人ほどがズラリと並び、西条のVIP待遇っぷりを見せつけられる形に。
「なんか恐縮しちゃうね、こういうの」
嶺奈の感想に皆が頷く。
西条といえば真っ先に女癖の悪さを連想するんだが、実は大金持ちのお坊ちゃんとしても有名なんだよなぁ……な~んて事を思ってると車は正面入口に止まり、従業員がキレイに整ったお辞儀をしてきた。
「到着で御座います。皆様大変お疲れ様でした」
「ほれ、着いたぞミーネ」
「フニュ~~、後5分~~」
俺になでられて夢心地になってたミーネを揺する。
つ~かその台詞は平日の俺じゃないか……。
ペットは飼い主に似るというが……あんまり考えないようにしよう。
仕方ないんでミーネを担いで降りると、運転手のおじさんはサムズアップをして来た道を引き返していく。
なんか誤解されたっぽい……。
「皆様お疲れ様でした。お荷物をお預かり致します」
従業員に着替えの入ったバッグを渡すと、そのまま中へと案内される。
その最中、西条が今日香の好きな食べ物をメッチャ必死に聞いてきたんで、軽く引きながらも好物を教えてやった。
「よし分かった。昼と夜と明日の朝は全部いなり寿司にしよう!」
「やめぃ!」
もう昼前なのに今からメニューを強制変更とか普通に迷惑だろう。
だいたい三食いなり寿司とか、明日香姉と今日香しか喜ばねぇよ!
「こちらで御座います」
西条の戯言を他所に、男組と女組に分けた二部屋に案内される。
さっそく窓からの景色を見てみると……
「おおっ! 絶景絶景!」
真下に見えるのは緑豊かな森林。
そこから延びた道を辿っていくと街並みと海で二分された景色に別れ、街の奥には別の山々どっしりと構え、海の向こうにはどこまでも続きそうな水平線が広がっていた。
――な~んてリポーターの真似事をしてみたが、中々イケてんじゃね?
「見晴らしの一番良い部屋をチョイスしたからね。僕に感謝したまえ」
いつの間にやら隣にいた西条がドヤ顔で外を指す。
コイツのことだ、一番良い部屋なのは間違いないだろう。
「いいですね、自然に囲まれてるって感じがします!」
隣の部屋からも歩美が顔を出している。
食い入るように――というか身を乗り出して見てるんだが、ここは5階だし落っこちたら――いや、歩美なら華麗に着地しそうだな。
「さて諸君。昼食の前に湯に浸かるのを推奨するよ」
西条の推奨を受けたか否か、愛華とミーネを除いた女組はさっそく移動を開始。
愛華はいまだスマホを弄ってて、ミーネは部屋でゴロンとしてるらしい。
ミーネは気まぐれだとして、愛華はいつまで遊んでるんだか。
ガラララ
「これでよし……。ダンジョンの警戒はバッチリです。仮に自衛隊が攻めてきても軽~く蹴散らすことでしょう」
噂をすれば――って感じに、スマホをしまった愛華が部屋から出ていった。
そもそも自衛隊が攻めてくるなんてのが有り得ないんだが、そしそうなったとしたら社会的に冴木家が死んでることを意味するだろう。
「さ、僕らも行こうか。ここでの入浴セオリーをレクチャーしてあげよう!」
西条のどうでもいいレクチャーを聞き流しつつ汗を流した後。
男部屋の方で昼食タイムとなった。
運ばれてきたのは勿論……
「わぁーーっ、いなり寿司!」ジュル
「ちょ、ちょっと今日香、落ち着いて」
目をキラキラさせた今日香は今にもかぶり付きそうな雰囲気だ。
「フフ。お代わり自由なので好きなだけどうぞ」
「いいの!? やったぁ~!」
風呂上がりのトマトジュースを堪能しつつ、またしても西条はドヤ顔。
できればいなり寿司がいいんだが……
「そうそう。メニューを強引に変えたので、いなり寿司しかないからね」
「「「おい!」」」
もうね、呆れたよほんと……。
今日香が好きなのはこの際構わん――しか~し! 他人を巻き込むのは言語道断! 今すぐにいなり寿司以外も――
「……ふむ」
ん? 愛華が箸を取らない――だと!?
「いなり寿司美味し~ぃ!」
「ふ~む……」
今日香がバクバクと食べてる横で、愛華は沈黙を保っている。
三度の飯は絶対に欠かさないという愛華にいったい何が……
「なぁ愛華、早く食わないと今日香に食べられるぞ?」
「むむ? それはいけません!」
ヒョヒョイ!
さすがは愛華、あっという間に片付けやがった。
「ふ~~む……」
食い終わったらまたスマホとにらめっこを始める愛華。
そんなに自宅が気になるのか?
「お代わり~!」
そして今日香は予想通り――え?
むむむむ?
「どうしたの祐君?」
「あ、明日香姉。今日香ってカチューシャ付けてたっけ?」
よく見たら、今日香の頭には獣耳がくっついてるやん。
出掛ける時は無かったような……
「そ、そうねぇ……付いてた……かしら?」
……あやしい。
いつもはハッキリと物申す明日香姉が目を泳がせてる。
「嶺奈と歩美は?」
ビクッ!
「え、え~っと~、どうだったかなぁ~」
「すす、すみません、あまりハッキリとは覚えてなくて……」
「ふ~~ん?」
確か一緒にメイクしてたと思うんだが……まぁいいや。
「なぁ、智樹に武悲山、お前らはどう思う?」
ビクッ!
「いや、まぁ、ほら……かか、可愛いんじゃないか?」
「そそそ、その通りで御座る! 今連載中の魔法少女アッカリーンに匹敵する可愛さがそこにあったで御座るよ!」
そういう事を聞いてるんじゃないんだがなぁ……。
「――で、西条は?」
ビックーーーン!
「そ、それはだねぇ……あ、そうそう! 僕がプレゼントしたカチューシャを付けてくれたみたいなんだよ! 中々似合ってるだろう?」
「うんうん、似合う似合う!」
「素晴らしいコラボレーションです!」
「今日香ちゃんくらいの年頃なら全然ありだろ!」
「そこに天使がいたで御座る!」
そんなに大絶賛するほどかぁ?
「ほら今日香、ちゃんと西条君にお礼言わないと」
「うん! ありがとう西条さん! いなり寿司、とっても美味しいです!」
モッフーーーン!
「!!!?」
ちょちょちょちょ、ちょっと待てぃ!
今尻尾が見えたぞ!?
「なぁ、その尻尾――「今日香、あまり食べ過ぎちゃダメよ? 程々にしときなさい」
「いや、その尻尾――「はーーい♪」
あ、あれ? 尻尾が消えてる!?
確かに尻尾が見えたはずなんだが……。
「今日香、さっきの尻尾――「さ、さぁ諸君、ここからは自由行動だ。温泉に浸かるもよし、辺りを散策するもよし、好きなように楽しんでくれたまえ!」
今日香の尻尾を追及しようとしたら、西条によって強引に遮られた。
皆は俺と愛華とミーネを残してゾロゾロと部屋を後にしていく。
「…………」
おかしい。
何かを隠してるような感じがする。
それとも何か? 俺に対するサプライズでもあるのか?
いやいや、そんな事はない。
が、どうも腑に落ちない。
「ミーネ、今日香を尾行して調べてくれないか?」
「畏まりましたわ。このミーネにお任せくださいませ!」
そう言ってミーネは部屋を飛び出していった。
さて、今日香の事はミーネに任せるとして、愛華は愛華で何を熱心にやってんだか?
「実は昼食の直前に、緊急ミッションが発生したのです」
「緊急ミッション?」
おいおい、まさかダンジョンのトラブルじゃないよな!?
「あ、心配は入りませんよ? ちょっと遊んでるだけですので」
ズルッ!
どうやらゲームで遊んでたようだ。
ったく紛らわしい……。




