俺達が温泉旅行に!
前回のあらすじ
捨て猫だったミーネが獣人になり我が家で過ごすことになった。
両親にも受け入れられたが、同性からの頬擦りは拒絶反応が強く、愛華からの頬擦りから逃げる日々が続きそうである。
「温泉旅行?」
「そうとも。今度の土日にどうかと思ってね」
晴天に恵まれた日の昼休み。
いつも通りダラダラと過ごしてると、不意に西条が話しかけてきた。
内容は今の会話通りで、なんでも親戚が経営してる温泉旅館があるらしく、連休を利用して温泉旅行に行かないかと誘ってきたわけだ。
つ~かコイツ、隣のクラスだろうに……。
「お前んとこのクラスメイトじゃダメだったのか?」
「チッチッチッ、僕が必要としてるのは今日香さんであって、他の女性達じゃないのさ。――もちろん嶺奈さんも来てくれると嬉しいけれどね」
「俺にウィンクするのはやめろ、吸血鬼野郎」
そういやコイツのターゲットにされてるのは今日香だったっけ。
そしていまだに嶺奈にも関心はあると……。
こりゃ念のため愛華に頼んで対策を立てたほうがいいかもな。
「まぁそう言うなら誘ってみるが、本人が来るかどうかは分からんぞ?」
「フッ、心配無用さ。キミの両親は土日留守にするんだろう? ならキミが外出するなら今日香さんもついてくに決まってるさ」
「あ~そうかい……」
ったく、どこでその情報をしいれたんだか……。
「ま、そういう事で、土曜日にキミの家へ迎えを寄越すから覚えといてくれたまえ。勿論友人を誘っても構わないとも。では」
用件が済むと、西条はそそくさと教室を出ていった。
俺は行くなんて一言も言ってないんだが、いつの間にやら行くのが前提になってたな……。
まぁいいが。
「それにしても――」
温泉かぁ……ここんとこ毎日がデンジャラスだし、たまには良いかもなぁ。
5日後を楽しみにしとくか。
にゅ~~~~~~ポム!
「!?」
一人温泉に漬かるイメージをしてると、不意に肩を掴まれる。
「俺達――友達だよな?」
掴んだ主は智樹であり、何かを期待するように満面の笑顔だ。
西条が来てる間トイレに行ってたはずだが、途中で戻ってきたんだな。
この様子だと殆どを聴いてたんだろうが。
「お前も温泉に行きたいのか? あんまそういうのには興味なさそうだと思ったが」
「温泉には興味ねぇよ。ただよ、お前も今日香ちゃんも行くんなら明日香さんも行くことになるんだろ?」
ああ、そういうことか。
だったら答えはYESだ。
なにせ明日香姉ちゃんは料理が壊滅的に下手だからなぁ。
どれくらい下手かというと、カップ焼きそばを食う時に湯切りせずにソースを入れるくらい下手な上にドジである。
あん時は酷い落ち込みようで、さすがに笑ったりはできなかった。
……なんか明日香姉のせいで話が脱線しちまったが、明日香姉もついてくるのは間違いないと思っていい。
あ、そうだ!
「行くかどうか分からんが、愛華は一人にしとくと何を仕出かすか不安だし、強制的に連れてかないと――「愛華たん!?」
ドッスン!
って、危ねぇ! 愛華という単語を聴いて、相変わらずの巨体を揺らして武悲山が突っ込んできやがった!
軽く机が凹んじまっただろうが!
「俺の机がブッ壊れたら、お前のと取り換えるからな?」
「拙者のは足が折れてるで御座る――って、そんな事より今は愛華たんで御座る! マイエンジェルがどうしたで御座るか!?」
「ええぃ、顔が近ぇ!」
面倒だが暴走気味の武悲山を落ち着かせるため、これまでの経緯を簡単に教えてやった。
「なるほど、承知したで御座る。ここは漢武悲山――一肌脱いでそうろう!」
「いや、誰も期待してないから脱がなくていいぞ?」
「グハァ!」
そんなこんなでこの暑苦しい男――武悲山も行くことになり、放課後には愛華をはじめ嶺奈や歩美も参加が決定した。
智樹も入れると合わせて9人だ。
――と、ここまでは概ね予想通り(武悲山以外)だったんだが、帰宅してから重要な事に気付いたんだ。
「それで、わたくしミーネはどうすればよいのでしょう?」
「うん、それな」
温泉で疲れを癒すことに気が向いてて、ミーネの存在をすっかり忘れてたんだなこれが。
「どうするもなにも、一緒に連れていけばよいではありませんか」
「猫形体のままか?」
「勿論です!」
どうやら愛華はモフモフできればいいらしい。
「わたくしとしては獣人形体で同行したいのですけれど……」
「しかしなぁ……」
そうなると嶺奈達にもミーネを紹介する必要が出てくるし、猫として連れてったら入浴を断られる可能性が高い。
「祐矢さん。いっそのこと、当日のサプライズとして皆様にご紹介されてはいかがです?」
「そうだなぁ……」
参加者の殆どが普通の人間じゃないし紹介しても大丈夫かもしれないが、武悲山がどういう反応するかは読めないなぁ……。
「やっぱり武悲山がネックだな」
「ああ、武悲山さんの事を危惧されてたんですね? なら大丈夫ですよ」
「……なんで?」
「武悲山さんいわく、本人はダイダラボッチという妖怪だと仰ってましたので」
初耳なんですが……。
ボッチなのは見て分かるけど、ダイダラがつくとは知らなかったなぁ。
どういう妖怪なのか知らんから後で調べてみよう。
「……で、なんで愛華は知ってんの?」
「本人がカミングアウトしてきたので。祐矢さんに言ってもどうでもいいと言われそうでしたし、敢えてわたくしから言うことはありませんでしたが」
はい、メッチャ正解です。
俺の周りに人外が多すぎて、どうでもいいの一言で片付けてたと思う。
辛うじて歩美は人間に属するか? 中身は人間離れしてるけど。
「あの……マスター?」
「おっとすまん!」
ミーネを放置したままだった。
不安げな表情で祈るようにこっちを見ている。
「ミーネ、問題は解決した。一緒に温泉旅行に行けるぞ」
「本当ですか!? ありがとう御座います! わたくしまた捨てられるのではと不安だったのです」
それで不安そうな顔してたのか。
クタッとしてた猫耳が急にピーンと立ちあがったところを見ると、置き去りにされるのはトラウマになってるのかもしれんし、今後は注意しよう。
「――さぁマスター。哀れなミーネをなでなでしてくださいまし」
「ん、どれ……」
ナデナデナデナデ
「ふぅぅぅん! 結構なお手前で。そのまま首後ろまで撫でていただくと、モアベターですわ」
相変わらず幸せそうな顔をするなぁ。
ま、悪い気はしないが。
「良かったですねミーネ! さぁ早く猫形体になってください、今度はわたくしがナデナデして差し上げます!」
「……そう言ってまた頬擦りするおつもりですね? そうはいきませんわよ」
「チッ……」
さて、こっちはいいとして、明日香姉と今日香にも教えとくか。
そして迎えた当日の朝。
予定通り俺の両親が出掛けると、それと入れ代わるように黒塗りの車2台が家の前にとまり、助手席から西条が前髪をかき上げつつ姿を現した。
「グッモーニン♪ 冴木君、約束通り迎えに来たよ。さぁ今日香さんは何処に!?」
「落ち着け西条。今日香は他の女性陣と一緒に身支度を整えてる」
「おっと失礼。僕としたことが少々早まってしまったようだ」
開口一番に今日香とは相変わらずだな。
俺以外にも智樹と武悲山もいるんだが、そっちは眼中にないらしい。
「良かったな武悲山。あのワゴン車ならお前でも乗れるぞ(笑)」
「無礼で御座る! 失礼で御座るぅ!」
横の二人がアホな事を言い合ってるうちに、ゾロゾロと女性陣が現れた。
「お待たせ~♪」
「今日香ちゃんのメイクに少し時間を掛けてました」
嶺奈と歩美が最初に出て来ると、その後ろで今日香が隠れるようにして顔を覗かせている。
普段はしないメイクに自信がないのかもしれない。
それを見透かすように、愛華と明日香姉が今日香の背中を押すように出てくる。
「いかがいたしました今日香さん? どこにも恥じる要素は見当たりませんが」
「そうよ、せっかく可愛くなったんだから見せてあげないと」
「……うん」
モジモジしながら今日香が出てきた。
うん、あんまり普段と変わらない気がするが……多分目元が違うとか細かい部分なんだろう。
「おお、今日香さん! 今日も一段とお美しい!」
「ご、ご無沙汰してます、明日香さん!」
「愛華た~~~ん!」
「ちょ、お前ら……」
ご近所の目もあるし、朝っぱらから騒ぐのはNGだぞ?
それにもう一人紹介しなきゃならないんだから、とりあえず落ち着かせないとな。
「まぁ落ち着け。嶺奈と歩美は先に紹介されてるだろうが、お前らにも紹介しなきゃと思ってな」
「「「紹介(で御座るか)?」」」
男三人が首を傾げてクェスチョンマークを浮かべる。
でもって今更だが、コイツらがミーネに惚れ込んだらどうしようって思考が全く無かったのが悔やまれる!
よく考えりゃ獣人形体のミーネって金髪美少女だし、思春期の男が反応するのはおかしくはない。
だがここまで来てやっぱなし――って選択肢は選べないし、覚悟を決めるしかない。
「じ、じゃあ紹介するぞ? 我が家に居候することになった獣人のミーネだ!」
「ミーネと申します。宜しくお願い致しますわ」
ええぃままよと、家の中からミーネを引っ張って来る。
さぁ、三人の反応はどうだ!?
「ほぅ、獣人とは珍しい……。まぁ宜しく頼むよ」
「ミーネさんって言うんだ、チ~ッス♪」
「猫又とは違う種族で御座るようで。ともあれ宜しくお願いつかまつる」
あれあれぇ? もっとガッツくかと思ったんだが、そうでもなかったな。
どうやら取り越し苦労で済んだようだ。
「言い忘れてましたが、わたくしはフェロモンをコントロール出来ますので、必要以上に殿方に接触されないようにする術は身に付けておりますわ」
それは知らなかった……。
ミーネって出るとこ出てるし、コイツらの反応はおかしいなと思ったんだよな。
そもそもフェロモンって制御できるもんだったのか……。
ま、何にせよ懸念事項が一つ減ったのは良いことだな。




