有名女優にも苦悩が!
前回のあらすじ
話題沸騰中のドラマ【貴方の素顔はマンドリル】の主演女優である神野見留久が、学校近くで目撃されたという情報がネットにあげられた。
彼女のファンである嶺奈は、祐矢達を巻き込みその足取りを居っていく。
するとついに、観光スポットの一つで彼女を発見することに成功したのだが……。
「――で、どうやって話しかけるんだ?」
「う~ん、それが問題よねぇ……。変装してるってことは女優本人として接触してほしくないってことでしょ? 偶然を装って話しかけるしかないかな~って」
まぁそれくらいしか手はなさそうだな。
「じゃあ今からあたし達はカップルね」
「はい?」
ホワッツ? どういう事~?
「少なくともここはデートスポットなんだから、そういう設定じゃないと不自然でしょ?」
「それはそうかもしれないが……」
本当にいいのか?
カップルってことは、あんな事やこんな事をするって意味だぞ? 後悔しないんだな?
勿論俺は後悔しない。
寧ろドンと来いってなもんだ。
まだ報酬のイイこととやらを受けてないんだし、それも含めて……
「言っとくけど、変な事したらおばさんに言いつけるからね?」
「お、おう……」
先手を打たれてしまった。
さすがに母ちゃん相手では分が悪いし、ここはおとなしくしておこう。
「じゃあ今思い付いた作戦を説明するね?」
「今思い付いたという部分に不安しか感じないんだが?」
「いいからちゃんと聞く!」
「はいはい、分かったよ」
で、嶺奈の言う作戦なんだが、まずは俺達偽装カップルが有名女優――神野見留久の近くに座る。
その際に注意するのが、『この辺が良いんじゃない?』等と言いながら近付く事で、決して向こうの顔を見ない事だ。
次にカップルらしくイチャイチャしながら夜景を堪能し、良い雰囲気が出来あがってるのをアピールする。
見せつけるわけじゃないんだが、これも自然に見えるようにするための作戦の一つだ。
最後に思い付いたように手を叩き、神野見留久にスマホでの撮影をお願いする。
つまり、記念写メを撮ってもらった事を切っ掛けにして、少しずつ会話をしていくというものだ。
うん、即席にしちゃ良く出来た作戦だな。
問題はこちらの都合よく転んでくれるかどうかだが……。
「準備はいい?」
「お、おう……」
「じゃあ行くよ」
ギュッ!
「!」
「どうしたの?」
「い、いや、何でもない……」
嶺奈がさも当たり前のように手を握ってきた。
いや、カップルって設定だし当たり前っちゃ当たり前なんだが、なんかこう……凄くドキドキしてくるものがある。
嶺奈の髪からシャンプーの良い香りが漂ってきてるし、心臓がバクバクいって――。
――っとと、マズイマズイ、緊張し過ぎると不自然に見える。
こういう時は、人という字を書いて飲み込むのがいいんだったな。
まずは人を書いて――
スス……
「……え?」
それを舐めて飲み込む!
ペロッ!
「ヒィッ!?」
ア、アレ? 何か自分の手の感覚が無かったような……
グギッ!
「イデッ!」
思いっきり嶺奈に足を踏まれた!
それから耳をグイッと引っ張られ、小声で猛抗議をされる羽目に。
「ちょっと祐、どういうつもり!?」
「い、いやぁ、緊張し過ぎてじぶんの手と嶺奈の手を間違えちまった……スマン」
いや、本当にわざとじゃないねん。
これ、誰かの陰謀やねん、間違いなかとよ。
「もぅ、作戦が失敗したらおばさんに言うからね!?」
「ちょ、それだけはご勘弁を!」
「じゃあ死ぬ気で作戦を成功させる事――いいわね?」
「イェス、マム!」
さて、気を取り直して――え?
ジィィィィィィ……
「お、おい嶺奈。あの女優さん、こっち見てないか?」
「祐がバカやってるからでしょ! ――ほら、目を合わせないように然り気無く歩いて」
「お、おう!」
もしかしたら不信感を与えちまったかもしれない。
だがここで失敗すると母ちゃんへの報告という特大のペナルティが待っているため、意地でも成功させる必要がある。
しかしそう考えると余計に緊張感が増してしまい、右手と右足が同時に前へ――
「……祐?」
「い、いや、これはだね……」
ヤバイヤバイ、歩き方が不自然過ぎる!
これじゃあ小学生のガキが、バカやって遊んでるみたいじゃねぇか!
グイッ!
「ちょっと祐、真面目にやって!」
「落ち着け嶺奈、俺はいたって真面目だ。ただ身体が言うことをきかないんだよ!」
再び耳を引っ張られてお説教タイムが始まった。
俺としてもふざけるつもりはないんだ。
ないんだが、どうしても身体が……。
ジィィィィィィィィィィィィ……
「ほら、凄く不審がってるじゃない」
なんだかスッゴい凝視されてるような気がするんだが、不審がってるというよりは興味を示してる視線じゃないか?
「これ以上はマズイわ。もうテキトーに座っちゃおう」
「わ、分かった」
制御不能に陥った身体を労りつつ、俺達はその場に座ることにした。
「ふぅ……やっぱり良い眺めよねぇ」
「まったくだな。日頃の疲れがとれそうだ」
ギュッ!
「イデッ!」
今度は手をツネられた!
「何で爺くさい台詞になるのよ! もっとカップルらしい台詞があるでしょ!」
「わ、わりぃ!」
そうだった、カップルらしい良い雰囲気を作るんだったな。
だったら……
「……コホン。なぁ嶺奈、あの僅かに見える夕日なんだが、嶺奈は何に見える?」
「夕日? う~~~ん……輝かしい未来――とか?」
「なるほどな。けど俺には別のものに見えるぜ? 知りたいか?」
「うんうん、教えて?」
「お、おう……え~と、だな……」
くっそ~、そこまで考えてねぇよ。
何に見えるかって、んなもん夕日にしか見えんがな!
あ~くそくそ、なんとか答えを出さねぇと……。
「なら教えてやる。あの夕日はな……」
「あの夕日は?」
「校長のハゲ頭――『バギッ!』――ッデェェェ!」
切れのいいストレートが飛んできた!
メッチャ痛いんスけど……。
「アンタねぇ、言うに事欠いてあのハゲオヤジの頭はないでしょ!」
「スマン! それくらいしか思いつかなかったんだ!」
「そりゃ連想するのも仕方ないかもしれないけど! 確かに校長はハゲだけど! だけどねぇ、デートの最中にアレを想像して楽しいかって考えたら分かるでしょ!」
ヤベェ、嶺奈がキレちまった!
スマン校長、やたらとディスってるけど、多分本人は頭に血がのぼってるだけなんだ。
事実を述べてるだけだが許してやってくれ。
「落ち着け嶺奈――ドゥドゥドゥ」
「あたしは牛じゃない!」
「分かってるっての」
あ~ダメだ。
嶺奈は完全に本来の目的を忘れちまってるみたいだ。
こりゃ作戦は失敗か?
「プッ、フフフフフ!」
ん? この笑い声は……
「ンッククク! ご、ごめんなさい。ちょっと面白過ぎてつい――アッハハハハ!」
見るとあの有名女優――神野見留久が腹を抱えて笑いだした。
「ヒィ~ヒィ~、もうダメ、夕日が校長のハゲ頭とかないわぁ。ウチの高校のはバーコードだったから、あんなにキレイな夕焼けにはならないわぁ。アッハッハッハッ!」
笑うのは勝手だが、この人も大概失礼な気が……。
けど話す切っ掛けは出来たし、一応作戦は成功か?
「ふ~ん、二人はこの市内に住んでるんだ?」
「はい。同じクラスなんです」
「そっか~。思い出すなぁ私もつい3年前までは女子高生だったしね~」
――とまぁ、上手い具合に話を広げられたわけだ。
しかも本人、薄々バレてると感じてたらしく、神野見留久さんですかと聞いたらアッサリと認めちゃったぜ。
「確か当時やってた読モが切っ掛けで、女優としてデビューされたんですよね? ――あ、サインお願いします」
「よく知ってるわね? そうなのよ。当時お世話になった編集長を通じて、今のプロダクションの社長から【君の表情は武器になる。是非私のところで磨いてみないか?】って口説かれちゃって。――はい、サイン」
へ~ぇ、そういうこともあるんだな。
「あ、そういや気になったんですけど、この街には観光で来たんですか?」
「あ~それね……。ハァ……」
なんだ? 俺が質問した途端、テンションが下がったぞ?
「祐ったら、変な質問しちゃダメじゃない」
「え? そんなに変な質問じゃ――」
「あ~ゴメンゴメン! キミが悪いんじゃないのよ。ただね、ちょ~っと嫌な事を思い出してね……」
「「嫌な事?」」
聞いていいのか迷ったんだけど、逆にこの人チラチラと聞いてほしそうにこっちを――それこそ誰か聞いてくれないかな~とか言いつつ見てくるから、思いきって聞いてみた。
そしたらなんとなんと、驚きの新事実が発覚したんだなこれが。
「「マンドリルの正体が猿!?」」
マンドリルってのは【貴方の素顔はマンドリル】のマンドリル役の事で、原因不明の病に苦しむヒロイン――神野見留久が配役の女子高生を陰ながら支援してる男のハンドルネームだ。
でもって驚いたことに、次回の最終回でマンドリルこと猿(生まれつき猿顔という設定の男)とキスをして終演らしい。
まずこの話を聞いて思ったことは、脚本家も監督もバカなんじゃないかという感想だ。
若い女性達の間で人気沸騰中なのに、そこへ猿という爆弾を投げ込む意味がわからない。
どうせ最終回だから何やっても平気だととらえたか?
「ね? 酷い話でしょ?」
「「確かに……」」
そりゃテンション下がるのも頷ける。
大金積まないと誰だってやりたくないレベルの展開だ。
「でもいよいよ明日が収録なの。これまで色々と理由をつけて引き伸ばしてきたけれど、それももう限界。明日の今頃は猿とキスを終えた私が意気消沈しながら膝を抱えてるのよ……」
……こりゃちと難しいな。
頑張れとも言い難いし、諦めろと言うのも可哀想だ。
「もぅ~嫌! マンドリルって検索すると出てくるけれど、アレとキスしなきゃならないのよ!? そりゃキャストにはマンドリルとしか表示しようがないでしょうよ! しかもリアリティーを追求するためだとか言って、実際にしなきゃならないの。だいたいなんで猿なのよ、現代物の恋愛なはずなのにおかしいじゃない! 猿の〇星のスピンオフじゃないのよ、そんなにキスさせたきゃ監督が手本見せてみろっての!」
「「………」」
余程鬱憤が溜まってたらしく、息を切らしてまで不満を撒き散らしていた。
しかしどうしたらいいんだ? 力になりたくてもこればっかりは……
「話は聴かせていただきました!」
聞き覚えのある声に振り向くと、愛華をはじめ、歩美と智樹がそこにいた。
「えっと……あなた達は?」
「あ、俺達のクラスメイトです――って愛華、さっきの口振りだと、何か良いアイデアがあるように感じられたが?」
「フフン、勿論です」
聴いたのは途中からではあるものの、神野見留久が置かれてる状況は理解したようで、何やらベリーグッドな方法を思い付いたんだそうな。
「お任せください神野さん。コレを使用すれば、全て解決です」
「……これ?」
愛華が何かを手渡したが、暗いせいか何も見えない。
いや、寧ろ何も持ってないような……
「え? な、何これ! 透明な何かが手に乗っかってる!?」
「はい。潔癖シールドといって、この無色透明のシールドを隔てると、塵一つ通すことはありません。安心して収録に挑んでください。――ちなみにこのアイテムは我が校で極秘に開発されてるので、他言無用でお願いします」
あ、歩美がこっちを見てウィンクしてる。
なるほど、愛華が話した設定は歩美が考えたんだな。
どうせダンジョンマジックで召喚したんだろうし、さすがにそれを説明するわけにはいかない。
「一週間で消滅しますので、使用後は放置してても大丈夫です」
「ありがとう! コレが有れば悩む必要はないわ! 本当にありがとう!」
何度も頭を下げると、神野見留久はこれでもかという明るい表情で立ち去った。
そして次の週……
「も~ぅ、見た? 昨日の【貴方の素顔はマンドリル】」
「見た見た。何よアレ、マンドリル様の正体が本当にマンドリルとか、脚本家も監督も頭おかしいんじゃないの?」
「まったくよねぇ。あたしも送ったけど、かなり苦情が殺到してるらしいよ?」
「当たり前よ。猿とのキスシーンとか誰得だっての。代わりに監督がキスしてみろってのよ!」
うんうん、思った通りの反応だ。
会話に有った通り、苦情が殺到し過ぎて放送直後は公式ページの感想覧が荒れに荒れたらしい。
中には神野見留久が可哀想という意見も多く、彼女には同情する声が多数寄せられたのだとか。
まぁ肝心の本人は被害を免れてるんだけどな。
その後の記者会見で、監督をはじめスタッフ一同が謝罪する展開になったのは言うまでもないが、神野見留久本人はというと……
『私としては大きくステップアップすることが出来たと思ってますし、悪いドラマではなかったと思います。勿論やり過ぎた脚本家や監督はマジでブッ殺ですけれど、私を支えてくれたユニークなファンの方達には感謝してもしきれません。直接お会いする事はできないと思いますので、この場を借りてお礼を申し上げます。本当にありがとう御座いました』
うん、このユニークなファンってのが、何となく俺達のような気がするんだよな。
自意識過剰かもしれないが、これくらいはいいだろう。
そしてふと思う時がある。
あの場所に行けばまた会えるのではないかと、嶺奈による耳掻きをされつつ一人思うのであった。
「な~に遠い目をしてるのよ。あたしのイイことが気に入らないの?」
「いや、ちょっと想像と違っただけだ……」




