有名女優を捜索せよ!
前回のあらすじ
アトラクションであるオバケ屋敷を本物に変えつつ、山頂からの夜景を堪能した祐矢達。
ファフニーさんは満足げに帰路についたが、去り際に今度は息子と娘を連れてくると言い放つ。
その言葉で真っ白に燃え尽きる祐矢達であった。
「ねぇ見た見た? 昨日のドラマ――貴方の素顔はマンドリル!」
「見た見た! ついに次回、マンドリル様の素顔が明かされるのよねぇ~」
「これってサプライズを誘うために、キャストが公開されてないんでしょ? いったい誰なのかな~」
な~んか女子が騒いでんな?
キャストがどうとか言ってるが、今のご時世ネットで簡単に情報が出てくると思うんだが。
「珍しいよね~。完璧に遮断されてて、一切情報が出回ってないのよ。勿論ネットで検索しても無駄だったよ?」
「マジかよ?」
既に嶺奈は調べたらしい。
それでも情報が出てこないとはよっぽどだな。
「まぁ俺は大した気にならないけどな」
「そういうところは祐らしいよね……。あのドラマのコンセプトは、原因不明の病に苦しむヒロインが、マンドリルっていう匿名の男から治療費を支援されてるってところなの」
ほうほう。
それが次回、素顔が判明するって女子が騒いでるわけか。
「お前はドラマとか見ないもんな。その点俺は、明日香さんが見そうな番組は欠かさずチェックしてるぜ!」
相変わらずな智樹は、明日香姉ちゃんが見るか見ないかで決まるらしい。
そもそもコイツ、明日香姉と話す機会がなければ無意味だと気付いてないんだろうか?
「ねぇねぇ、マンドリル様のキャスト、誰だと思う?」
「きっとジャニート所属の木枯らしのメンバーで桜庭君や小野君よ! 今凄い人気だもん!」
「違うよ、スナップの木町君よ。あの無愛想な顔がいいんじゃない!」
「分かってないなみんなぁ。渋いイケメンなガツーンの兎梨君を忘れちゃダメよ!」
ぜんっぜん知らん名前だ……。
まぁジャニートなんざ知らなくても生きていけるし、どうでもいいんだけどな。
「祐ってば全然興味ないって顔してるけど、主演女優の神野実留久の方は興味あるんじゃないの? ホラホラ、正直に言いなさい」
バシバシ!
「イテテテテ! だから教鞭で叩くのはやめろって前にも言っただろ!」
ったく嶺奈のやつどっから出したんだ……。
「――で、本当はどうなの?」
「いや、興味はねぇよ」
「本当に?」
「ああ。だいたい身近に居ない女には興味が湧かないね」
「そ、そそ、そうよね、やっぱり身近な女性が良いよね。(あたしのことが)好きって言ってたもんね。うん、疑ってゴメンね?」
「お、おう……」
何だか嶺奈が途中からおかしくなったような気が……気のせいか?
「ほほぅ、これはこれは……」
「ん? どうした?」
今まで黙々とスマホを眺めてた愛華が、突然声をあげた。
「祐矢さん、これをご覧ください」
「どれどれ……」
自分のスマホを差し出してきたので、画面を覗いて見る。
そこに写ってたのは、マスクとサングラスをかけている見知らぬ女性だった。
「愛華の知り合い――じゃないよな?」
「違います」
「じゃあ誰なんだ?」
「ついさっき、嶺奈さんが話した人物です」
「「「え?」」」
嶺奈と智樹、それからいつの間にかいた歩美が加わって、愛華のスマホを凝視する。
やがて最初に気付いたのは歩美だった。
「もしかして、人気女優の神野実留久じゃないかしら?」
「「あっ!」」
歩美の発言で嶺奈と智樹も気付いたらしい。
俺は全然知らないけどな……。
「歩美さん正解です。これは神野実留久が変装して街を出歩く際の一つらしいのですが、わたくしが注目していただきたいのは、後ろの背景です」
後ろの背景?
何でまたそんなところを――と思って気が付いた。これってモロ学校の近くじゃねぇか!
しかもアレだよ、愛華の大好きなケーキ屋――ビアードママが写ってるやん。
「ふ~ん、まさかこの近くに来たことがあったなんてね~」
「いや、違うぞ荒井。上の日付を見てみろ」
「え……ああっ!」
智樹が新たな事実に気付いた。
なんとこの画像、日付が今日の朝になってやがった!
「どうやらこちらの女優、極秘でこの街に滞在してるようですね。まぁ見る人が見れば分かるので、このように撮影されてしまったようですが」
なるほどな。
撮られた画像がネットに出回ってしまったわけか。
「ちょ、マジなのこれ? なんでこんな時に学校なのよ~! せっかくのサイン貰えるチャンスがぁ……」
「落ち着きましょう嶺奈さん。間違ってもサボりはダメですよ?」
「分かってるから悔しいんじゃない!」
サインを貰う気満々だった嶺奈が、机に突っ伏してしまった。
仮に接触できてもサインくれるかどうかは分からんし、諦めたほうがいいだろう。
ガララ
「お~し、皆席に着け~」
っと、朝のホームルームだ。
「よし決めた。こうなったら放課後、神野見留久を捜しに行きましょ!」
それまでいるとは限らないけどな。
まぁ頑張ってくれって感じか。
「祐も手伝ってよね!」
「え……」
放課後、嶺奈の予告通り某女優を捜索することになった俺達5人。
「――って、なんで俺まで……」
「俺だと見分けつかないんだよ」
普通に帰ろうとした智樹を巻き込んでやった。
捜索するなら多いほうがいい。
「じゃあ貸し一つな」
「それでいいぞ」
乗り気じゃなかった智樹を連れ出し――いや、乗り気じゃなかったのは俺も一緒だが、協力してくれたらイイことしてあげると嶺奈に言われちゃ断るわけにはいかない。
何をしてくれるか具体的には教えてくれなかったが、俺にとってイイことであるのは確かだろう。
何故なら、男だったら誰でも喜ぶと嶺奈が言ってたし、もしかしたらそういうのを期待しても良いのではなかろうか?
「しかし、祐矢さんが協力的なのはどういう風の吹きまわしで?」
「それは私も気になりましたね。祐矢君、興味なさそうですもんね?」
この二人――愛華と歩美は中々鋭いな……。
しかし嶺奈からは他言無用と言われた手前、俺が口外するわけにはいかない。
「有名女優が変装してまでここに来た理由が気になった。ただそれだけだ」
「「…………」」
……おかしい、当たり障りない完璧な返答だったはずだが、二人から疑惑の視線を向けられている。
「……まぁいいでしょう。ソレに関してはまた後ほど」
「ですね。私達で警戒しときましょう」
よく分からんが、一応は納得してくれたところでビアードママへとやって来た。
ここが最初に目撃された場所らしいが、問題はどこへ向かったかだな。
「画像はありませんが、ここに来る前にも別の人が最寄り駅にて目撃したと、ネットに書き込まれてますね。移動時間を考えるとタクシーを使用した可能性が高いかと」
――というのが愛華の分析だ。
でもそれが分かったところで行き先が不明じゃ意味ないよなぁ……。
「待ってください。タクシーで移動して来たということは、最初の目的地はこのビアードママだったのでは?」
ああ、そうか!
さすが歩美、冴えてるな。
この店は知名度としちゃそこそこだし、これを目的で県外から来る人もチラホラといるくらいだ。
「なるほど……そうね、きっとそうよ!」
「って、おい嶺奈?」
嶺奈がビアードママに駆け込んでいく。
聞き込みでもするつもりなんだろうが、聞いたところで行き先が分かるとは思えん。
「情報ゲットしたよ~!」
「マジで!?」
驚いたことに、某女優は見晴らしのいい場所――特に海が見えるを店員に訪ねたらしい。
「現在海が見える観光ポイントは3つですが、順番に巡ってみますか?」
「そうだな、そうす――「待って!」
歩美に賛成しようとしたところで、嶺奈に待ったをかけられた。
「入れ違いになる可能性もあるし、手分けしてあたるのがいいわ」
「ふむ……確かに入れ違いは考慮すべき点ですね」
「その通りよ愛華。あたしと祐が山頂に行くから、後の二つはそっちでお願いね。――じゃあ祐、行きましょ!」
「お、おい――」
他二つを愛華達に押し付け、俺は嶺奈に拉致られるようにして山頂へと向かった。
山頂ってのは、先日ファフニーさんに夜景を見せるためにやって来たあの場所だ。
ゴゥンゴゥンゴゥン……
「この前乗ったばかりだけど、やっぱり見下ろす景色は何度見ても良いものよね」
「まぁな。あん時は智樹のアフロで半分見えなかったが、今なら360度見渡せるぜ」
例の如くロープウェーに乗ってるわけだが、既に夕日が水平線に沈みかけていて、山頂に着く頃には星空一色になってることだろう。
「ところでさ、約束のイイことってなんだ?」
「んん~? 気になる?」
「そりゃ気になるだろ」
「じゃあ今ここでしてあげよっか?」
「おう――って、ここで!?」
俺達以外誰も居ないとは言え、今ここでいたすというのか!?
嶺奈の顔が徐々に近付いてきてる――つまりこれは、お礼のキスってことに!
ピリリリリ!
「ひっ、ビ、ビックリしたぁ!」
「あ、ああすまん、俺のスマホだ」
ぐぬぬぬ、タイミングを逃したか!
いったい誰が――って、愛華?
「もしもし?」
『祐矢さん、こちらには神野見留久の姿はありませんね。そちらはどうです?』
「まだ山頂に向かってる最中だ」
『そうでしたか。歩美さんと智樹さんの方も発見できなかったらしいので、わたくし達もそちらに向かいますね』
「ああ、分かった」
他二つのポイントは空振り。
つまり、俺達の向かう山頂に居る可能性が高いか。
「嶺奈、他のポイントには居なかったらしい」
「じゃあこっちが本命ね! ああ~どうしよう、マジでドキドキしてきたぁ!」
「あ、あの~嶺奈?」
「あたし神野見留久の演技が凄く好きなのよ~。こうなったら絶対見つけ出してサイン貰わなきゃ!」
「…………」
ぐぬぬぬ、お礼の続きを云々と言える雰囲気じゃなくなってしまった……。
だが約束が破られたわけじゃないし、終わった後に期待しよう。
「よし着いた。早く捜しましょ!」
ロープウェーを降りた嶺奈がキョロキョロと捜し始める。
しかし暗くてよく見えない。
これじゃ見つけるなんてとても――と思ってたら、遠くで嶺奈がブンブンと手招きをしてるじゃないか。
まさか本当に見つけたってのか?
「いい? 騒いじゃダメよ? あのちょっと下の方に座ってる女の人」
「どれどれ――あ、あの一本だけ立ってる木の左側の人か?」
「そう、それよ。あの後ろ姿は画像で見たのとそっくりよ」
こりゃ確かに本物くさいが、ここからが問題だ。
どうやって神野見留久に接触しよう……。




