そして夜がくる……
前回のあらすじ
昼食後、遊園地へとやって来た祐矢達。
貰った風船を使い魔にするなど、ファフニーは次々と面倒を起こす。
偶然遭遇した西条と宍戸がヴァンパイアとインキュバスだという知りたくもなかった事実も判明し、ますます混迷をきわめていく……。
「そろそろ暗くなってきたので、次のアトラクションで最後にしましょう」
「ふむ、名残惜しいが仕方あるまい」
時刻は午後17時を回り、夕焼けから星空が見えだしたところだ。
次の目的地に移動するため、愛華からオーダーストップがかかる。
「な~んかあっという間だったね~」
「ですね。楽しい時ほど時間が経つのが早く感じますし」
それは嶺奈と歩美が楽しんでた証拠だろ。
俺はというと、西条と宍戸の正体が判明して軽~くパニクってたくらいだしな。
どんなアトラクションで遊んだのかすら記憶にないくらいに……。
「もうコーヒーカップは止めようね? 回り過ぎて疲れちゃったし……」
「ハハハハ! これはあいすまん。幼少の頃に返った気分じゃったのでな、つい力んでしまったわぃ」
今ので一つ思い出した。
俺と今日香とファフニーさんでコーヒーカップに乗ったんだよ。
そしたらこのひと、ハンドルを思いっっっきり……な?
気付いたらベンチで横になってたぜ……。
「さて、締めはどれにするかの~」
最後だし、コーヒーカップ以外なら何でもいいや。
もう高速回転からの更なる逆回転は御免被りたい。
言っとくが、これはフリじゃないぞ?
「よし決めた、最後はアレじゃ!」
締めとして御指名されたのはオバケ屋敷。
ファフニーさん相手なら無意味な気もするが、日本の妖怪を見てもらうには丁度いいかもしれない。
「ファフニーさん、薄暗い通路が続いてるので、手を離さないでくださいね?」
「分かっておるわ。妾がついておるから、そう怖がるでない」
「いえ、怖いわけではなく……」
愛華が言いたいのはファフニーさんがはぐれてしまわないかであって、オバケ屋敷が怖いというわけでは――いや結局のところ、ファフニーさんがはぐれるとどんなアクシデントが発生するか分からないから、怖いのは正解か?
「ケケケケケ♪」
「――何奴!?」
ドズッ! バシュゥゥゥ……
くそっ、さっそくやりやがった!
壁に掛けられてた傘が口をあけてファフニーさんに覆い被さろうとしたら、反射的に裏拳で破裂させちまったよ!
「なんじゃ、大したことない雑魚じゃのぅ」
「ファフニーさん、ソレ――壊しちゃダメなやつです!」
「む、そうじゃったか? ――まぁ、この先は善処しよう」
善処じゃダメなんだよ善処じゃ!
第一その台詞は要望通りにならないのが前提の台詞として有名なやつだ。
「……人じゃなかったのが救いよね? 下手したら死んでたもの……」
嶺奈が顔を真っ青にして退いてる。
確かにその通りだ。さすがに殺人は許されない。
「いやなに、人の気配が感じらぬから魔物の一種と思うたのじゃよ。妾とて、それくらいの分別はつくぞ?」
……だったら壊していいかどうかの分別も身に付けてください。無理なのは分かってるけども。
つ~かこれ、器物破損だよな?
普通にヤバイんだが……。
「これは弁償が必要ですね。後で校長先生に委せましょう」
いやいや歩美、それは当然として、このまま破壊しながら進むのはリアルタイムでマズイぞ?
せめて何事もなく脱出しないと……。
「やむを得ません。この番傘に近いものを召喚しましょう――」
召喚? ――そうだよ、すっかり忘れてたけど、俺と愛華はDPを消費することで、アイテムを召喚できるんだった。
「召喚完了です」
青く光る魔法陣から傘のシルエットが浮かび上がり、やがてハッキリとした番傘に変化する。
これまた破壊したやつにそっくりな番傘だけど、これだけじゃ意味がない。
ちゃんとした妖怪じゃなきゃな。
「ここは任せるがいい。元々は妾のせいじゃしな、コヤツに生命を吹き込んでやろう――」
「ちょっ!」
アンタそれ、銀色風船と同じパターンじゃねぇか!
慌てて止めようとしたが時既に遅く、眩しい光が番傘を包み込む。
やがて光が収まると、一つ目に舌を出した番傘妖怪が誕生した。
「ケッケケケ♪ オッケーオッケー、超オッケー♪」
マジで出来上がっちまったよ……どうすんだコレ?
「お主にはここで作り物のフリをしてもらおう。結して人に危害を加えてはならぬぞ?」
「オッケーオッケー、ケケケノケ♪」
「よし、先に進もうぞ」
ヤベェよ……アトラクションであるはずが、ドンドン本物に近付いてるじゃねぇか……。
「なぁ、どうにかして止められないか?」
「そんなの無理よ。阻止しようとして人外認定されたんじゃ下手すると死ぬわよ?」
「ですね。私や嶺奈さん、それに愛華さんが力を行使するのは得策じゃありません。それとなく誘導するしかないかと……」
だよなぁ……。
さっきの傘が破裂するところを見せられちゃ、及び腰になるのも仕方ないだろう。
その後も被害が出ませんようにと願う俺達だったが……
「ぬ? また出たか!」
バシュゥゥゥ!
あーーーっ、一つ目小僧がぁぁぁ!
「こっちにも!」
ドシュゥゥゥ!
ぬぁーーーっ、ろくろ首がぁぁぁ!
「コヤツもか!」
ガシャーーーン!
ンゲーーーッ! それは非常口の誘導灯だぁぁぁ!
どれもこれも放置できねぇし、愛華に頼んで召喚してもらうしかない。
「召喚完了です」
ナイスだ愛華! 後は上手く偽装して……
「よし、妾の出番じゃな――」
はい、お願いしま――って違ぁぁぁう! ソレはやっちゃダメなやつだぁぁぁ!
ま~たこの人、無駄に魔物を増やしやがったよ……。
百歩譲って一つ目小僧やろくろ首はしょうがない――だが、非常口の電灯まで魔物化させることはなかっただろぉぉぉ!
「非常口はあちらです」
「喋んじゃねぇ!」
よく見りゃ中の人が出口に向かって動いてるし、こんなんマジでビビるわ。
絶対に喋るなよ? 人も動かすなよ? フリじゃないからな? 絶対だぞ?
でもって引き起こした本人はというと……
「化け物とは程遠いが、見せ物としては良く出来ておるのぅ。――うむ、これはこれで新鮮じゃわぃ」
もう嫌だ……早くお家帰りたい……。
「ほほぅ、これはまた珍しい乗り物じゃのぅ」
「はい。このロープウェイという乗り物で、山頂へ向かいます」
オバケ屋敷を出た俺達は、例により愛華が先導する形で遊園地の横にあるロープウェイへと乗り込んだ。
すっかり日が落ちたし、山頂からの夜景は人気スポットの一つだからな。
カップルが多いのは気に入らないが……なぁに、俺は一人じゃない!
「ん? どうした祐矢?」
「いやなに、智樹は心の友だと思った――フッ、それだけさ」
微妙に外へとはみ出したアフロヘアーに視線を移す。
コイツも彼女いない同盟だからな。
「意味分からん……」
なぁに、今は分からなくともいい。
山頂に着けば嫌でも実感するんだよ……。
「ほほ~~~ぅ、こりゃまた良い眺めじゃのぅ!」
「この山頂からの夜景は、県内ではベスト3に入る人気スポットとなっております」
外を眺めてるうちに山頂へと着いた。
愛華の言うように人気なのはいいんだが、案の定カップルの肩を寄せあってるがチラホラと……。
「あ、あ、明日香さん。どどど、どうぞこちらへ!」
「あら、ありがとう智樹君」
あ! 智樹の奴め、抜け駆けして明日香姉と良い雰囲気にもってこうとしてるな?
自慢のアフロヘアーをバッサリ切り落として、芝の上に敷いてやがる。
だが甘いぞ智樹。
裏切り者には鉄槌を下さねばならぬのだ!
「今日香、智樹がアフロを敷いてくれたぞ~」
「あ、ホントだ。ありがとう智樹さん!」
「あ、あああ、ああ……」
よし、狙い通りだ。
明日香姉の隣に今日香を座らせることで、智樹の企みは潰えた。
何せ反対側にはすでにファフニーさんが座ってるんだからな。
お前はおとなしくアフロの手入れでもしてるがいい。
「祐矢君、こちらへどうぞ」
「お、悪いな歩美」
歩美も気を利かせてレジャーシートを敷いてくれた。
手荷物は持ってなかったと思うんだが、どっから出したんだ?
「フフッ、余計な詮索は禁止ですよ?」
「お、おう……」
唇に人差し指をあてる内緒のポーズがちょっと可愛いと思ってしまった。
普段の堅苦しい歩美より、こっちの歩美の方が断然いいよなぁ。
「隣も~らい♪」
「嶺奈?」
ポスン!
「ありがと歩美、あたし達のために用意してくれて」
シートを敷き終わると、透かさず嶺奈が隣に座る。
おいおい嶺奈、歩美の顔が引きつってるじゃねぇか……。
「……嶺奈さん、貴女のために用意したわけじゃありませんよ?」
「いいじゃん別に。歩美も早く座りなよ、せっかく良い眺めなんだしさ」
「まったく、貴女という人は……」
ブツブツと呟きつつ、歩美も腰を下ろした。
「良い眺めよね~。――ほら、見てみて、人がゴミのようだ~ってね♪」
「嶺奈さん、この夜景を前にしてその台詞はどうかと……。もう少し女らしい台詞はないんですか?」
「な~に? 文句あるの~?」
「おいおい二人とも……」
俺を挟んで喧嘩するのは止めてくれませんかねぇ?
「祐矢さん――の隣は空いてませんね……」
やや遅れて愛華がやってきた。
俺の隣に座りたかったようだが、残念ながら既に占拠された後だな。
「仕方ありません――」
ポスン!
「「「え……」」」
「……何か問題でも?」
愛華よ……何故に俺と向き合う形で座るんだね?
「いや、その座りかただと星空しか見えないだろ?」
「わたくしはそれでも構いませんが?」
「……そうか」
愛華がそう言うなら――って、ちょっと待て、この体勢は!
「? どうかなさいましたか?」
「い、いやぁ、大した事じゃないんだが……うん、大した事ないし気にするな」
「???」
本人は気付いてないらしいが、ミニスカで正面に座られると、どうしても視線がそっちにいってしまい……
「あ! 愛華、早く反対向いて!」
「はい?」
「早くしてください、下着が見えてます!」
ああクソッ! 嶺奈と歩美に気付かれてしまい、歩美を強引に反対へ向けちまった。
チッ、せっかくの絶景だったのに……。
「……もぅ祐ったら、わざと言わなかったでしょ?」
「そ、そんなことは――」
「ダメですよ? 風紀が乱れるようなことは」
「はい……」
だってしょうがないじゃんか、こちとら健全な男子高校生よ。
小学校時代に保健のおばちゃん先生も言ってたぞ? 男はエロくなくちゃいけないって。
「あ~何度も言うけど良い眺めね~。昨日今日で溜まった疲れが消えてく感じよ」
街のネオンライトと海の水平線を半々にした光景が、山の麓に広がっている。
海と街と、少し下を覗けば緑の景色が視界に入り、様々な景色が堪能できるのが人気に繋がってるらしい。
「あ、アレって私達の高校ですよね?」
「座標確認――はい、わたくし達の通う高校で間違いありません」
学校と言えば、そろそろ校長はゴルフから帰ってきてる頃かな?
ファフニーさんを押し付けたツケが、回ってくるだろうから覚悟しててもらおう。
「それにしても……」
怒濤の二日間だったな。
終始トラブルに見舞われたが、過ぎてしまえば笑い話かもしれない。
……いや、自分でもよく耐えたと思う。
この夜景は自分に対するせめてもの報酬だ。
「うむうむ。今日は素晴らしい一日じゃった。妾は満足じゃぞ!」
商店街を通り、待ち合わせの公衆広場までやって来た。
ファフニーさんにとっては満足いく観光となったらしいな。
「やぁ、待っていたよ諸君!」
「む、カーバインか……」
今日一日で顔がほどよく日焼けした校長がやって来る。
どうやらたっぷりとゴルフを堪能したっぽいなぁ……。
「今日は僕の代わりをありがとう! お陰で激務の方も捗ったよ!」
激務と書いてゴルフと読むらしい。
だが校長よ、ファフニーさんの顔を見るがいい。
笑顔がメッチャ怖いことになってんぞ?
「カーバインよ……お主、愛華の衣装をひたすら買い込んだそうじゃないか。いったいどういう事なのか、説明してくれるのだろうのぅ?」
「ンゲッ!? ままま待ってくれ! そ、それには深~い訳が――」
「……まぁよいわ、今は大変気分が良い。帰ってからジックリと聞かせてもらおうかのぅ、クックックッ」
「ヒィィィーーーッ!」
哀れ校長は、ファフニーさんに引きずられていずこかへと連行されていく。
ヒョコ!
「あ、そうそう、言い忘れておったが、今度は息子と娘も連れてくるからの。楽しみにしておれ」
「「「え!?」」」
もうマジで勘弁して……。




