俺の部屋に幼馴染みが!
前回のあらすじ
突如として現れたダンジョンコアの美少女――愛華と同居することになった主人公祐矢。
彼の日常はどうなってしまうのか……。
「ところで、祐矢さん。凄く重要なことを確認したいのですが」
「……なんだ?」
やけに真剣な眼差しで顔を向けてきた愛華。
まさか地球侵略の手伝いとかじゃないだろうな……等と警戒したが、予想の斜め上をいく質問が飛び出した。
「食事は三食出るのでしょうか?」
「んなわけあるか!」
他人の押入れを勝手にダンジョンにした挙げ句に三度の飯まで要求するんかい!
というか……
「ダンジョンコアって食事するんか?」
「はい。個体差にもよりますが、わたくしのように食事をするダンジョンコアも存在します」
ダンジョンコアも様々ってやつか。
「それってさ、自慢のDPとやらでどうにか出来ないのか?」
「出来なくはないですが、そもそもDPが効率よく貯まる仕組みになってないのですぐに枯渇してしまいます」
「じゃあ貯まる仕組みを作ればよくね?」
「わたくしが勝手に作ってもよろしいのですか? 本来であればダンジョンマスターが主導して行うのが一般的ですが」
ゲーマーな連中ならそうだろうけどね。
でも俺はダンマスとやらには興味がないから、愛華にやらせてもいいとは思う。
というか、できれば巻き込まないでほしいんだが……。
「ま、現実世界に悪影響が出ない範囲なら許可するよ」
「ありがとう御座います。さっそくダンジョンメイクに入り――「祐矢~、嶺奈ちゃんが来たわよ~」
やべっ、幼馴染みが来ちまった!
「ちょ、ちょっと待たせといて。今部屋を片付けてるから!」
そういや今日来るって言ってたな。愛華のことがあってすっかり頭から抜け落ちてたぜ!
「む? どうやら客人のようですね。ここは一つ挨拶をしに――「だから部屋から出るのはやめぃ!」
無警戒にも再び部屋を出ようとした愛華を手で制し、襟首を掴んで引き戻す。
あのからかい好きな嶺奈のことだ。見つかったらあっという間に愛華の存在が広がっちまう。
だいたい親にも秘匿せにゃならんのに、幼馴染みにバレていいわけがない!
「祐おっそぉぉい!」
ドタドタドタッ!
「ヤバッ!」
嶺奈のやつ、勝手に上がり込んで来やがった!
「愛華、早く押入れに入れ!」
「押入れにですか?」
「そうだ」
とにかく今は、嶺奈から愛華の存在を隠し通さなくては!
「祐矢さんの命令なら仕方ありませんね」
いそいそと押入れに入る愛華の背中を押して押し込む。
バタン!
押入れの襖を閉じるのと同時に勢いよくドアが開け放たれた。
「じゃじゃ~~~ん! 嶺奈勝手に参上!」
堂々と勝手に上がり込んだことを宣言したコイツは、俺の幼馴染みでクラスメイトでもある荒井嶺奈だ。
性格は……まぁ、ご覧の通り元気ハツラツな感じだな。
「こら~! 祐ったら反応が薄いぞ? せっかくあたしが補習対策の手伝いに来てあげたってのに~」
「あ……ああ、すまんすまん。ちょっと立て込んでてな」
勝手に部屋に上がり込んだ嶺奈だが、呼んだのは俺。
嶺奈本人が言ったように、テストで赤点をとっちまったが故に補習を余儀なくされた俺は、補習を無事クリアーするための助っ人として彼女に依頼したんだ。
少々粗暴ではあるものの俺よりは頭がいいからな。
「さぁさぁ、早いとこ教科書開いて。家庭教師を頼まれたからにはビシビシいくからね!」
ビシッ!
「イッテェ! 教鞭で叩くんじゃねぇ! 使い方間違ってるだろ!」
「え? でも漫画だとこうやって使ってたよ?」
「それはその漫画の中だけだ。もしくは作者の頭がおかしいから真似しちゃダメ!」
「しょうがないなぁ……」
コイツは昔から物で他人を叩きたがるところがあったからなぁ。まったくもって迷惑極まりないんだが、そもそもその教鞭はどっから持ってきたんだか……。
けど面倒見がいいからこうして勉強を教えてくれるのはありがたい。
ゴソッ……
「ん? 今のは……」
やべっ! 愛華のやつ、押入れでゴソゴソと何かしてやがる! 何とか注意を逸らさないと……。
「ほ、ほら嶺奈、早く教えてくれ。補習をクリアーできなかったら今度の土日が無くなっちまう」
「オッケー♪ ――じゃあまずはこの辺から手をつけようか」
「ああ、頼むよ」
ふぅ……、危ねぇ危ねぇ。何とか注意は逸れたようだな。
だが油断はできない。このまま何事もなく終わればいいんだが、いつ何が起こってもいいように心の準備はしとかないと。
カッチカッチカッチカッチ……
暫しの沈黙が室内を支配する。
俺が机に向かって必死にもがいてる中、嶺奈はかるくアクビをしながら漫画を読み始めた。
最初こそ押入れが気になって集中できなかったが時間が経つにつれてすっかり忘れ去った状態になり、このまま何事もなく終わりを迎えようとしたところで予想外の事が起こる。
フィキーーーン!
「んお!?」
「……どしたの?」
何だか身体が敏感になったような感じになり、思わず顔と共に声を上げちまった。
「い、いや、なんでもない。嶺奈の教え方が上手いから今度の補習は問題ないと思ってさ」
「そ、そそ、そう?」
ふむ。こうして照れた表情だけ見れば間違いなく美少女なんだがな。せめて物で叩く癖は直してほしいと切実に願う。
――ってそうじゃないそうじゃない! それよりもさっきの感覚だ。あれから俺の部屋全体が見渡せるようになったんだ。
見渡せると言っても物理的に顔を近付けるわけじゃない。なんというか、部屋の中なら視点を自由に切り替えることができるって感じかな? これはもしかしなくても愛華の仕業だろうな……。
ん? ――ああっ!
「こんなところに有ったのか!」
「な、何何!?」
っといけねぇ、つい大声上げちまった。
まさか無くしたと思ってた機動紳士のプラモが机の裏側に落ちてたとは……。
あ、嶺奈にはテキトーに誤魔化しとくか。
「すまんすまん。机の裏に大事な物を落としたらしくてさ」
「大事な物? それならあたしが取ってあげるよ」
「いや、自分でとるから大丈――「いいからいいから。祐は勉強に集中しなさいって」
俺が取ろうとしたのを押し退けて、机の下を手で探りだす。
というか、下でゴソゴソやられると逆に集中できないんだが……あ! こ、これは……
「あ、指先に何か当たった! 落としたのはコレね」
嶺奈のやつ、短めのデニムスカートだからそんな寝そべった格好してると……
「むぅぅぅ、取れないなぁ」
や、やばいやばい。柔らかそうな太股の先が気になって仕方ない!
今なら椅子に座ったままでも視点切り替えで覗くことが……
そんな俺の頭の中で、天使と悪魔が激しい戦闘を繰り広げてる。
『祐矢よ。余計な雑念は棄てよ。今は勉学に励むべきであろう』
髭の濃い紳士的なオッサンが囁く。
せっかくの休日を補習という無駄イベントで潰したくはないよな。
『バカ言うな。お前はチャンスを逃すってのか? このヘタレ!』
今度はちょい悪オヤジが挑発してきた。
そこまで言うならやってやろうじゃないか! 俺が漢だって証明してやる!
『バカものが! お前のために教えてくれてるのだぞ? 恩を仇で返すのか!?』
そ、そうだった。俺のために来てくれた嶺奈の好意を裏切るわけにはいかない。
『ハッ、やっぱお前はヘタレだぜ。だったら視点を切り替える実験をすりゃいいじゃねぇか』
実験?
『そうさ。せっかく手に入った能力なら使ってなんぼだろ? 使いこなすにゃ実験するしかないのさ。当然実験相手はお前の幼馴染みな』
くぅぅ……そ、そうだ、これは能力の実験なんだ。仕方ないんだ。俺は悪くない!
『ま、まて祐矢よ、早まってはならぬ!』
『るっせぃ――アルティメット煩悩ラァーーーシュ!』
バキッドコッボグッベギッドスッ!
『グハァァァ!』
KO! ウィナーーァ煩悩ゥ!
よし、俺の心は決まった!
さっそく視点を動かして――
「ったぁぁ、取れたぁぁ!」
ゲシッ!
「グフッ!」
く、くそぅ……嶺奈の足が思いっきり股間に直撃しやがった。なんて足癖の悪いやつだ!
「ほら、コレでしょ? 落としたって言ってたのは」
「……ああ、ありがとう。涙が出るほど嬉しいよ」
実際は涙を流すほどではないが、今は泣きたい気分なので半泣きの状態で機動紳士のプラモを受け取る。
「あれあれ? 本当に涙ぐんじゃって、そんなに大事な物だったの?」
「ま、まぁそんなところだ。大事な物が見つかった代わりに大事なものが傷ついてしまったからな……」
「ふ~ん? よく分かんないけどお大事にね」
ふぅ、何とか収まってきた。
下手すると傷どころか失うまであるからな。今回は罰が当たったと思って反省しよう。過ちは誰にでもある。
ゴソゴソ!
「え?」
「…………」
やっべぇぇよ、嶺奈が押入れを凝視してるじゃねぇか! 思いっきりそこから聴こえたのがバレてやがる!
「ねぇ祐。押入れに何か居るの?」
そ~らきた。ここは何としてでも隠し通さなきゃな。
「い、居るわけないだろ」
「……本当に?」
「ホントホント、マジだって。だいたい何が居るって言うんだよ?」
「そりゃあ……ネズミとか?」
「……いや、ここでネズミが出た例はない」
いっそのこと出てくれれば誤魔化しようはあったんだがな。
「じゃあゴキブリとか?」
「ねぇよ!」
この辺りは寒いから、ゴキブリが沸くことはないって言われてるんだ。
ってかゴキブリがあんなデカイ音出したら嫌だっての!
「じゃあ不審者ね!」
「おお、そうだな。それが一番シックリくる――あれ?」
「よぉぉし不審者め、取っ捕まえて味噌汁の具にしてやる!」
「待て待て待て待て待て待てぇぇぇい!」
味噌汁の具に対してツッコミたい衝動に駆られるが、今は保留だ。
それよりも嶺奈を全力で止めなくては!
「ど、どおして止めるの! 不審者がいるんだよ!?」
「むぐぐぐぐ、早まるな。まだ不審者と決まったわけじゃない」
必死に嶺奈を押さえようとするが、案外筋力があるせいか徐々に押入れへと引っ張られていく。
「早くしないと逃げちゃうよ!」
「落ち着け嶺奈。アイツは逃げない」
「アイツ?」
「ああ、違う違う、なんでもない。ととと、とにかく落ち着くんだ!」
「祐こそ観念して離しなさい!」
あああ、やべぇっ! もう少しで嶺奈の手が届いちまう!
ガシッ!
「フッフッフッ……ようやくたどり着いた」
くそっ、とうとう手が届いちまった! もはやこれまでか――いや、まだだ。まだ終わっちゃいない。
もしかしたら愛華なら認識を阻害する術を持っててもおかしくはない。そうだ、そうに決まってる!
頼むぞ愛華、上手く誤魔化してくれよ……
ガラッ
「騒がしいですね。何をドタバタとやってるのです?」
なんということでしょう。俺の期待は見事なまでに裏切られ、愛華自ら襖を開けるという暴挙に出るとは……。
「えっと…………誰?」
愛華を見た嶺奈は硬直し首を傾げてクエスチョンマークを浮かべると、対する愛華も同じ角度に首を傾ける。
残り時間は少ない。何とかこの場を切り抜ける言霊を見つけなくては!