校長よお前もか……
前回のあらすじ
霧風に続いて嶺奈の正体までもが判明した。
しかし、話し込んでたら遅刻ギリギリという状況に追い込まれたところを、以前習得した加速スキルで危機を脱することに成功した。
すると今度は、校長に呼び出されて……。
「――ってなわけで、今後人前でスキルを使用するのは極力避けるように」
手を後ろに組んだ校長の前で、俺を含む4人が整列しているところに今の発言だ。
愛華への情熱が鳴りを潜め、真剣な面持ちで注意を促してきて違和感が半端ない。
指摘された内容は、予想通りに通学で使った加速スキルだ。
気付いてない人が大半だったらしいが、中にはあの超スピードをハッキリと見切った奴もいたんだとか。つ~か何者だよソイツ……。
「僕が記憶を消しといたから良かったものの、一歩間違えたら噂が広がって大変なことになりかねない。あまり僕の仕事を増やさないほしい――わかるね?」
さも普通の会話のように垂れ流してるけど、校長よ、アンタもそっち側の人間だったんだな……。
「ですが校長、私は皆勤賞がかかってるんです。今朝の事はやむを得ないかと」
お、霧風ってば何気に凄いな。
現代忍者は身体も丈夫らしい。
「気持ちは分かるが霧風君、今日のところは大目に見るが、今後はおとなしく遅刻してくれたまえ」
「ええ、厳しいです……」
意外にバッサリだな。
もっと融通利くかと思ったが。
「ねぇねぇ校長先生、たまにはいいでしょ? ほら、自分の生徒のためだと思ってさ?」
「すまないが、公私混同は避けるように心掛けてるんだ。例え我が校の生徒であったとしても例外はない」
「うぇぇ……」
嶺奈のウィンクも効果なし。
これが普段の校長か? 以前の時より数倍校長先生してるな。
あの言動は何かの間違いだったのか……。
「ですが校長、記憶を弄れるのでしたら特に問題ないのでは? あまり厳しく制限されると、いざという時に躊躇してしまいます。いかがでしょう、必要に応じて使用するというのは?」
それが通ったら、こんな説教はされてないんじゃないかなぁ……。
「おお、さすが愛華君! OK~、ドンドン使っちゃって!」
「「「おい!」」」
なんで愛華の時だけ違うんだよ、この色ボケ爺が!
「だってさ~、愛華君に頼まれたら断れないじゃんよ~ぅ。ここ重要だよ?」
「思いっきり公私混同じゃねぇか!」
まぁ、許可がもらえただけマシか。
「ところで校長って何者なんだ? ぶっちゃけ普通の人間じゃないよな?」
「勿論だ。これでも魔界では魔王をやっていたのだからね」
「「「「魔王?」」」」
今となっちゃ驚きが少ないが、校長の正体は元魔王。
息子を新魔王として玉座に添え、自分は異世界(地球)でのんびりやってるんだとさ。
なんつ~かアレだ、元魔王にとっちゃ異世界スローライフになるわけだが、魔界じゃブイブイ言わせてたんだとか。
いったい誰に言わせてたんだろうな?
「40年くらい前かな? いや~あの頃は無茶なことをしたと思ってるよ。挑んできた勇者に対してさ、世界の半分をお前にやるって言っちゃったら顔真っ赤にして――」
んなこと言ったら、ふざけるなって言われるだろ普通。
「え、マジで世界半分くれんの? ラッキー! とか言い出すもんだから、クッソ真面目に分割統治する羽目になったし」
いや、アンタの世界の勇者はどうなってんだよ……。
つ~かソイツ、本当に勇者かどうか疑わしいぞ。
「ねぇねぇ校長、あたしのパパが乗ってた宇宙船って直せないかな?」
「宇宙船かね?」
「はい。できればいいんです。見てもらえないでしょうか?」
そういや嶺奈の父ちゃんは宇宙人だったな。
嶺奈が生まれる前から里帰りしてないってことは、少なくとも15年は音信不通だ。
そりゃ帰りたいだろうなぁ……。
「直る保証はないぞ? それでもいいというなら見てみよう」
「はい、ありがとう御座います!」
上手くいくといいな。
「ところで諸君。話は変わるが、僕の頼みを1つ聞いてもらえないだろうか?」
頼み? 元とはいえ、魔王からの頼みごとって、難易度が高そうだな。
いったいどんな――あ、分かった!
「校長、そんなに愛華のコスプレ衣装がほしいんなら、リクエストに応えましょうか?」
「ほ、本当かね!? いやぁ、持つべきものは優秀な生徒に限る! 金なら心配ない、ジャンジャン売ってくれたまえ!」
「勿論です! 校長は愛華の衣装が手に入る。俺は金が手に入る。まさにウィンウィン!」
「「ハッハッハッハッハッ!」」
ゴツゴツン!
「「ッダァァァァァァイ!」」
「祐ったら本っ当~にろくなこと考えないんだから……」
「校長も校長です。愛華さんだけを贔屓するのは職権濫用です」
おお痛ぇ……。
やけに痛かった気がするが、嶺奈のやつ宇宙的なスキルを使ったんじゃないだろうな?
「……コホン。で、頼みというのはだな――」
薄くなった後頭部を擦りながら校長が説明する。
今度校長の奥さんが魔界から様子を見にくるんだとか。
そこで問題なのが、こちらの常識とあちらの常識が違うという点だ。
間違っても魔法をぶっぱなす愚は避けなくてはならない。
そこで――
「俺達がエスコートすると」
「うむ。なにぶんヒステリックなところが有ってな、少しでも嫌なことがあると周りを破壊しかねないのだよ」
のだよ――じゃねぇよ!
んな危険人物家から出すんじゃねぇ!
「校長、1つ確認したいのですが」
「うん? 何だね愛華君」
「我々を呼び出した主な理由はソレなのでしょうか?」
「…………」
ん? 校長が冷や汗を流してるような……
「な、何を言うのかね。ここへ呼んだのは人前でスキルを――」
「しかし校長に不利益は無いはずです。勿論我々は少々困ることになったでしょうが、奥様を押し付ける理由として我々を救済したのであれば……」
ほ~う? 確かに愛華の言う通りだ。それなら辻褄が合うな。
「へぇ……やっぱり裏があったんだ……」
「汚ない……さすが校長汚ない……」
「まったくだな。汚ねぇのはそのうっすい頭だけで充分だっての……」
「ままま、待ってくれ! これには深海よりも深~い理由があってだな――って冴木君、どさくさ紛れに頭のことは言わないように!」
密かに気にしてたらしい。
ま、それは置いといて、理由とやらを聞こうじゃないか。
「……コホン。先程も言ったように魔界から妻が来るのだが、その理由がだね……まぁ……アレだ、向こうの生活に飽きたらしいのだよ」
ため息をつきながら校長は語る。
長い魔界生活に飽き飽きした奥さんが、娯楽を求めてこっちの世界に来るらしいんだ。
うん、問題は娯楽の部分だな。
校長の――いや、元とはいえ魔王の奥さんがどんなことを望んでるかが重要だ。
「難しく考える必要はない。娯楽は娯楽、君達と同じ感覚だよ。例えば遊園地に行ったり商店街を練り歩いたり、後は……そうだなぁ……地球そのものを教えてやったりもいいだろう」
「地球のことをねぇ……」
それを知って楽しいかは不明だけどなぁ。
「魔界は隅々まで知り尽くしてるのだ。今更新たな発見は無いと言ってもいい。――だが地球は違う、何もかもが真新しいのだ。それだけでも彼女の気を惹くのは充分だったのさ」
窓際に立ち、遠くを眺める校長。
この人が地球に来た理由も似たようなものなんだろう。
だがしかし!
「それなら自分で案内すりゃよくね?」
「「「うんうん(そうですね)」」」
何も他人に任せる必要は感じない。
寧ろ夫婦水入らずだしな――と思ったら、校長は見事なまでのジャンピング土下座を開始して……
「頼む! せっかくのんびりと楽しく過ごしてるのに、ヤツに振り回されるのは真っ平ゴメンだ! これ以上は僕の胃に穴が空いてしまう!」
いや、アンタの奥さん、そんなにアレなのか……。
つ~か、魔王でも胃潰瘍になるんだな。これは新発見だ。
「校長の奥さんってそんなワガママなの? せっかく来るんだから、多少の事は大目に見てもいいんじゃ……」
「妻を舐めちゃイカンよ荒井君。もはやアレは災害そのものだ。魔界の言葉を借りるなら、このような言い伝えがある。地震、雷、火事、恐妻というのが魔界における四大災害なのだ!」
つまり災害が来るっていうのか? 大丈夫かよそれ……。
「頼むよ諸君。経費で落とすから、多少は羽目を外して遊んでくれても構わない。僕を助けると思って、この通り!」
良いこと聞いた。
経費で落とせるなら色々と遊べるな。
……ん? もしかしてオークションで落札したのも経費で落としたりとか……いや、そこまではしないか。
「わたくしの衣装も経費で落としたのでしょうか?」
「その通り! だからまったく無問題!」
いや、問題だらけやん!
まぁ俺ら関係ないからいいけど。
「俺はいいぞ。要は一緒に遊んだりしてやればいいんだろ?」
「ありがとう! さっきも言ったが難しく考える必要はないぞ」
ならいい。
後は他3人が了承するかだが……
「祐がやるって言うなら、あたしもやろうかなぁ」
「宜しく頼むよ荒井君!」
「も、勿論私も冴木君に賛成です。風紀委員長として、しっかりとサポートさせていただきます」
「恩に着るよ霧風君!」
そして最後に愛華へと視線が集まる。
「わたくしは祐矢さんに従いますよ? ダンジョンマスターですからね」
「すまない愛華君!」
よし、話はまとまったな。
「で、奥さんはいつ来るんだ?」
「今週の日曜日だ」
四日後か。
今のうちにプランを用意しとこう。




