パイセンが愛華の財布に!
前回のあらすじ
クラスメイトの女子に連れられてケーキ屋に入った結果、すっかりスイーツの魅力にハマってしまった愛華。
そこで祐矢は人前では食べ過ぎないようにと忠告するのだが、次の日の放課後。
男子テニス部のキャプテンに誘われ嬉しそうな仕草を見せる愛華は……
「やぁ、待たせてすまないね」
「いえ、こちらもつい先程授業が終わりましたので」
くっ……とうとう放課後を迎えてしまい、クソ忌々しいアイツが来てしまった。
授業中も色々と考えてたが、宍戸をなんとかする方法が思いつかねぇ。
そもそも愛華が妙に乗り気なのが問題で、本人が拒否しない以上妨害は難しい。
「でわ祐矢さん、わたくしはとても大切なひとときを過ごして参りますので、先に帰宅しててください」
「あ、ああ……」
俺の気の抜けた返事をよそに、愛華はルンルン気分で宍戸と共に去っていく。
クソッ、結局どうにもならないのか!
「どうしたの祐、そんな難しそうな顔して?」
「嶺奈か。どうしたもこうしたも、このままじゃ愛華が――」
宍戸が西条と同じような奴ならあちこちと連れ回して、最終的にはあんな事やこんな事をするんじゃないかと思うと心配でたまらない。
気付け愛華よ、お前はキザったらしい宍戸に騙されてるんだ!
「何がそんなに心配なのか分かんないけど、大丈夫だと思うよ?」
「なんでだ?」
「ホラ、昨日のこと話したじゃない? 服を着せ替えて楽しんでたら、柄の悪いやつらにナンパされたって」
そういやラインで聞いたんだったな。見た目チンピラで、4人組のナンパ野郎が出たって。
でも詳細には触れられてなく、愛華に助けられたとしか聞いてないが。
「最初はシカトしてたけど急に肩組んできたの。そしたら愛華が軽くひねってくれてさぁ」
ああ、愛華は美少女な外見からは想像もつかないほど強いからな。
「でもしつこい奴はとことんしつこいからね。今度は踞って大袈裟に痛がったフリして救急車を呼んでくれぇ! とか叫んでるの。ほんとバカじゃないのって思ったわ」
……多分それマジで言ってたんだと思うぞ。
まぁ自業自得だからかまわんけど。
「とにかく、万が一愛華が襲われそうになっても大丈夫だと思うよ? それに……」
「それに?」
「多分……多分だけど、愛華が喜んでるのって、アレを期待してるからだと思う」
「アレ?」
よく分からんが、嶺奈は大丈夫だと言う。
理由もアレ――とやらを期待してるんだとか。
そこまで言うのなら大人しく愛華の帰りを待つことにしよう。
俺一人が騒いだところで無意味だしな。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「今日は俺のために時間をくれてありがとう。どうしても君との仲を深めたかったんだ」
「そうなのですか? よく分かりませんが、デートをすることで深まるのでしょうか?」
「当然さ!」
チョロい――なんてチョロさだ。
聞いた話じゃ一般常識に疎い箱入り娘ではってことだったが――フッ、噂通りの天然娘じゃないか。
俺の言うことは全て信じてるようだし、こうも簡単に釣れるならその柔肌に触れる日も遠くはないだろう。
ククッ、実に待ち遠しい。早く俺色に染め上げて、同じクラスにいた従兄に見せつけてやりたいもんだ。
「今日はとても良い日です! 昨日も良かったのですが、過ぎ去った楽しみよりも新たな楽しみの方がよりワクワクさせられます!」
「そうかい? そこまで言ってくれると、俺としても嬉しいかな」
しかしここまでチョロいと、逆にこっちが心配になってくる。
この俺――宍戸保のモノになった暁には、キチンと言い聞かせなきゃならないかもなぁ。
ま、それは追々ってことで、今は彼女を落とすのに専念しようじゃないか。
「ここは……」
「見ての通りゲームセンターだよ」
まず初対面の相手とは、簡単に遊べるもので互いの距離を縮めるのが一番さ。
「金は俺が出すから、好きなのを選ぶといいよ」
「本当ですか? ではアレにしましょう!」
彼女が選んだのは、景品がお菓子のUFOキャッチャー。
うん、無難なチョイスだ。
まずは先に彼女を楽しませ、取れなくてウズウズしてるところを俺が華麗に奪い取る――そう、彼女のハートと共にね……フッ。
「操作方法は分かるかい? そこの台に書いてある順に、ボタンを押すんだよ」
「なるほど。フムフム……座標はXY52C-3.JP、アーム予測出力10%未満……」
じっくりと考えてるみたいだが、そう簡単には取れないさ。
下にある景品は表面のビニールで滑るから、爪で引っ掛けるのは不可能。
かといって、上で鎮座している景品のパックを狙っても重すぎて動かない。
これを攻略する方法はただ一つ! 下で綺麗に並んでる景品を、爪と爪の間で一度に挟むんだ。
それ以外じゃまともに取れないのさ。
「取れました~!」
「フッ、そうだろうそうだろう。簡単には取れ――何ですとぉ!?」
なんという奇跡か、先端に付いてるワッカを器用に引っ掛けてるじゃないか!
「フフン、大漁です!」
「そ、そうだね」
くっ……ビギナーズラックというやつか。
まぁいい。こういう時もある。次は主導権を握るため、俺が選択しよう。
「これは……」
「レースゲームだよ。相手より先にゴールすれば勝ちさ」
俺がチョイスしたのは、二人で隣り合わせに座って楽しめるタイプのレースだ。
愛華が座った台を助手席に見立てて、いざレーススタート!
「おや? もうそんなに離されてしまいましたか」
「フッ、ごめんよ愛華。今は俺の腕前を見せる時なのさ」
この場合、相手に花を持たせて負けるのはナンセンス。ドライブテクニックを披露し、勝ってみせるのが玄人のやり方だ。
「中々おやりになりますね。ならばわたくしも本気を見せるとしましょう!」
「フフ、応援してるよ」
「では――チートモード発動!」
既に半周は離れてるというのに勝とうとするのはピュアな証拠。
とても魅力的だよ愛華!
「フッ、残念だけど俺は先にゴ――『バチィィィン!』――ホワァ!?」
な、なんだ今の! 後ろから赤い甲羅みたいなのが飛んできたぞ!? このゲームにそんな仕掛けはないはずなのに! お陰で大幅なタイムロスだ!
「フフン、追いつきました」
「何ですと!?」
なんてことだ、あれだけ差をつけておきながら追いつかれて――いや、既に追い抜かれている!
「さぁ次は最終コーナーですよ」
「そそ、そうだね……」
最終コーナーは強烈なヘアピン。
だがこのゲームをやり尽くした俺にとっては片手でも余裕だ。
ここで一気に抜き去って巻き返しを図る!
「悪いね愛華、このヘアピンは得意なんだ。悪いけど先に――『スピィィィン!』――ホンゲェェェ!?」
どどどどどういうことだ? 愛華の車体からバナナの皮が投げられたぞ!? それを踏んだお陰で盛大にスピンしてしまった!
「後は直線を突っ切るだけです!」
「う、うん……」
くっ……まさかここまで追い詰められるとは思わなかった。
だが負けたわけじゃない。俺の選んだ車体は最高速が長所なんだ。最後の直線で追い抜けば俺の勝ちだ!
「むぅ……また抜かれてしまいました」
「フッ、悪いね愛華。君も頑張ったけど、最後に勝つのは俺らしい」
愛華の車体を抜き去りゴールは目の前。
「中々いいレースだったよ。それじゃあ先にフィニッ――『ドゴッ! マンマミーア!』――アルェェェエ!?」
う、嘘だろおい!? なんか愛華の車体がピカピカと光ってて、接触したら吹っ飛ばされたぞ!?
『ゴォォォル! ――フィーーーーーーニッシュ♪』
「勝ちました!」
そ、そ、そんなバカな。
俺がこのゲームで負けたのは過去数えるほどしかないのに……。
「楽しかったです。次は何をしましょう?」
「つ、次かい? そうだね、次は――」
くっ、このままじゃマズイ。
次のゲームで俺が頼れる存在だってことを見せつけねば!
「よし、次はこれにしよう」
「これは……」
「ガンシューティングさ」
台に備え付けられている拳銃を、正面のモニターに映った敵に向けて発砲するタイプのゲームだ。
「あ! ゾンビに噛みつかれてしまいました」
「体力ゲージが残ってるなら大丈夫だよ」
今回は愛華に先頭を行かせるという姑息な手段を用いてみた。
彼女には悪いが弱ったところを俺がフォローして、今度こそ頼れる男をアピールするつもりだ。
フッ、つまりゾンビを撃ち抜きつつ、愛華のハートをも撃ち抜くという高度な作戦さ。
「くっ、中々やってくれますね、ゾンビの分際で……」
「まぁまぁ落ち着いて。俺が後からフォローするから、愛華がボスを仕留めるんだ――ほら、噂をすればお出ましだ」
なんとかボスのいる部屋までたどり着き、奥から巨大なヘビが現れる。
さぁて、いよいよ俺の本気を見せる時がきたな。
当然このゲームもやり尽くした俺にとっちゃ、こんなボスは雑魚そのもの。極限までダメージを与えて、愛華にトドメを刺させる!
「準備はいいかい? さぁ一斉に――『スタングレネェェェド!』――うぉ、まぶし!」
つーか待て待て、このゲームにはスタングレネードなんてなかったはずだ。
いったいどっから出てきたんだ!?
「あ、先輩のキャラ噛まれてますよ?」
「ぬわぁんだってぇぇ!?」
マ、マズイ、このボスを振りほどくには、奴の頭部に3発当てなきゃならないんだ!
しかしスタングレネードの影響で、まぶし過ぎて見えない――というか、キャラが硬直してて動かない!
『グハァァァッ!』
あ……
『ユー・アー・ザ・デェェェス!』
「おやおや、先輩が殺られてしまいましたか。わたくしは生き残ってますが、どうなさいますか?」
な、なんたる失態だ。
これじゃあ不甲斐なさをアピールしただけじゃないか!
しかもこのゲームの原作は、序盤に出てくるカップルの男がすぐに死んで、生き残ったカップルの女が主人公なんだ。
まんま原作を再現してしまうとは……。
「コンテニューだ、コンテニューする!」
チャリン♪
『うおぉぉぉ、俺はまだやれる!』
こうなりゃ最初から全力だ。
俺の本気を見せてやる!
「では今度こそしっかりサポートをお願いしますね」
「勿論だとも!」
さぁ、覚悟するがいいゾンビ共!
『ユゥゥゥウィィィン! コングラッチュレーショォォォン!』
「やりましたね先輩。無事クリアーできました」
「……ハァハァ……う、うん。なんとか……なったね……」
クッハハハハハハ! 見たかゾンビ共。この宍戸保に勝とうなんざ100万年早いわ!
――って、そうじゃないだろぉぉぉ!
くぅぅ……俺としたことがゲームに熱中するあまり、本来の目的を忘れてたじゃないか!
それに物凄く腕がダルい……。
「そろそろゲームも飽きてきましたね」
マ、マズイぞ、デート中に相手を飽きさせるのは素人のすることだ、このままだと俺とのデートはつまらなかったという印象を持たれてしまう!
「そ、それじゃあそろそろ移動しようか」
「そうですね……あ、でしたら、わたくしの行きたいところへご案内してもよろしいでしょうか? お気に入りのお店があるのです!」
災い転じて福と成すとは正にこの事。思わぬ形でチャンスが舞い込んできた!
お気に入りのスポットに誘うということは、相手に対して期待してる証拠。この好機を活かさねば!
「勿論OKだよ。寧ろ大歓迎さ」
「ありがとう御座います。ではさっそく向かいましょう!」
愛華に手を引かれてやって来た場所は、女子に人気のあるケーキ屋――ビアードママだ。
フッ、こうしてみると、やはり愛華は可愛らしい女の子であると理解できる。
「先輩、一つお願いがあるのですが」
「なんだい? あ、金の事なら気にしなくていいよ? 寧ろ好きなだけ食べてくれて構わないからね」
「本当ですか? ありがとう御座います! やはり今日は素晴らしい日です!」
おおぅ、愛華の笑顔が眩しい! さっきのスタングレネードがまるで線香花火のようだ。
「まずはコレとコレ。次にコレとコチラもいってみましょう!」
うんうん。美味しそうに頬張る愛華も可愛いじゃないか。
さて、僕は紅茶でも飲みながら寛いでようかな。腕がダルいことだしね。
「コッチもいいですね――あ、コレを忘れるところでした!」
しかし、よく食べるなぁ。
もしかして太らない体質なんだろうか?
「コレですコレ、あとソレも……あ、あちらの女性が召し上がってるのも美味しそうです。アレと同じのを」
……まさか愛華は晩御飯を食べないつもりなのかな? そんなに食べたら入らないと思うんだが……。
「コレとソレとアレとコレと――」
「ちょっ!」
ママママズイ、こんなに食べるなんて想定外だ!
しかし金の事は気にするなと言った手前、今さら取り消すわけにもいかない!
「アレもソレもコレもドレも――」
「ヒィィィ~~~!」
や、やめてくれぇぇぇ! ストップ、ストップだぁぁぁ!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「う~~~ん……」
「どうしたの祐兄、難しい顔して?」
リビングで腕組みしつつ唸ってたら、今日香に怪訝な顔をされてしまった。
「あ、いや……愛華がちゃんと帰ってくるか心配でさ」
「愛華ちゃんなら大丈夫だよ。ダンジョンコアは、自分のダンジョンがある場所を感知できるって言ってたし」
いや、そういう心配じゃないんだよなぁ。
俺が気になるのは宍戸って奴にたぶらかされないかって事なんだが、多分今日香に言っても分かんないだろう。
カッチカッチカッチカッチ……
「くっ、1分1秒が遅い……」
こんな事なら強引にでも止めるべきだったか?
「ただいま戻りました」
「あ、愛華ちゃ――「愛華ーーーっ!」
愛華の声に俺はリビングを飛び出すと、玄関で靴を脱いでる最中だった愛華に抱きついた。
「遅かったじゃないか! 心配してたんだぞ? あの宍戸って奴に強引にお持ち帰りされたんじゃないかって!」
「遅いといってもまだ5時前ですが……。それに皆さんの分はキチンとお持ち帰りしてきましたよ?」
そういやまたしてもデカイ紙袋を二つ持ってんな。
しかもコレ、ビアードママとかいうケーキ屋の紙袋じゃないか。
ま~た愛華はケーキ食いに行ったのか……。
「あ、愛華ちゃんのお土産だ~♪」
「はい。皆さんで分けてください」
今日香は嬉しそうに紙袋を抱えてリビングに戻っていった。
「どうしたんだ今日は? やけに気前がいいじゃないか」
昨日までの愛華なら絶対分けなかったはず。
「いえ、先輩に男気を見せて頂きましたので、わたくしとしては大満足なのです」
「男気?」
「はい。デート代は全て先輩が持ってくれると仰られたので、ケーキ代も全て先輩持ちです」
詳しく聞けば、何十という数のケーキを平らげた上、お土産のケーキも買わせたんだとか。
最終的に宍戸は、顔を青ざめた状態で帰ったらしい。
何気に悪魔の所業じゃないだろうか……。
だが何にせよ……
「おかえり愛華」
「はい、ただいまです」
無事に帰って来てくれて本当によかった。
「あ、晩御飯はキチンと食べますよ?」
「分かったっつーの……」




