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俺の押し入れにダンジョンが!

「――そんなわけで宜しくお願いします」

「いやいや、何が宜しく――なのか全っ然分っっっかんないだけど?」

「またまたご冗談を」

「いや、マジで冗談抜きの話でね……」


 今俺の目の前に居るのは、水色の髪をポニーテールにした少女。

 この子はなんと、異世界からやって来たダンジョンコアの女の子! ……らしい。

 らしいと言うのは彼女の自己申告でしかないので、それを鵜呑みにする訳にはいかない。

 その上俺ん家に居候したいと言い出したんだから、たまったもんじゃねぇ。


「あ、その顔は信じてませんね?」

「当たり前だ。だいたい異世界なんて単語をホイホイ受け入れるバカは居ねぇよ」

「今わたくしの前に居るじゃありませんか」


 いや、お前の正面に居るのは俺しか居ないんだが――って、コイツ!


「お前、俺がバカだって言いたいのか? しかも初対面なのに」

「では天才なのですか?」

「……いや、天才じゃないが……」

「ではバカでいいじゃないですか。愛すべきバカというのも悪くはありませんよ?」

「そ、そうか?」


 そう言われると悪い気はしな――って!


「やっぱり俺をバカにしてんだろ!」

「わたくしの話を信じていただけるのなら、バカという称号は剥がして差し上げましょう」

「なんでお前の許可が必要なんだ!」

「称号を与えたのがわたくしだからです」

「いらねぇよ! のしつけて返したるわ!」


 なんだか妙に疲れるコイツは、ついさっき――そう、ついさっきだぞ? 俺の部屋の押し入れから姿を現したんだ。


「ところでその腕は大丈夫ですか?」

「いいえ、大丈ばないです……」


 そしてその時、強盗だと思った俺はコイツを取り押さえようとして返り討ちにあった――そう、返り討ちにあったんだよ、どう見ても高校生の俺よりも年下の女の子にな!

 なんでか知らんが馬鹿力でもって、俺の腕を強引に持ち上げたもんだから、思いっきり捻っちまった。

 もう腕は痛いわ年下の女に力で負けるわで踏んだり蹴ったりだ……。


「それは申し訳ありません。お詫びにこちらのポーションを差し上げましょう」

「ポーション?」


 そう言って懐から取り出したのは、青色の液体が入ったガラス瓶だ。


「塗ってよし、飲んでよし、食事のお供にするもよしの三拍子揃った万能薬です」

「ふ~ん?」


 受け取って蓋を開けてみるが、見た目とは裏腹に無臭らしい。

 もっとキッツい臭いがするものだと身構えたがちょっと肩透かしだ。


 ペタペタ……


 さすがに未知の液体を飲むのは遠慮したかったので、塗ってみることに。

 そして俺は大いに驚いた!


「い、傷みが引いていく!?」

「はい、ポーションですので」


 なんとこのポーション、とんでもない即効性を有してたんだ。

 いくら現代医療が進んでるといってもこんな反則的な薬は存在しないだろうし、コイツの言ってることを一応は信じることにした。


「とりあえず助かったよ」

「いえいえ。元はと言えばわたくしが原因なのですから、このくらいはさせていただかないと」


 ふむ。こうして話してみると、悪いやつには見えないな。

 そもそも悪人ならとっくに力で捩じ伏せてきてるだろうし、ポーションをくれたりしないだろう。

 これなら少しくらいは居候させてやってもいい気が――


「一本110円です」

「っておい!」


 金取るのかよ! しかもキッチリ税込価格ッポイぞ!


「そもそもポーションを作り出すのにダンジョンポイント――略してDPが必要になるのですから、対価を頂かなければなりません」

「腕を捻ったのはお前のせいなんだが、それでも対価を要求するわけ?」

「必要な犠牲です」

「嫌だっつーの、そんな犠牲!」

「ですがDPが無ければダンジョンを運営できませんし、対価となる物は必要です」


 そういやコイツ、ダンジョンコアだって言ってたな。


「そのダンジョンってのはどこにあるんだ? まさか近くにあるわけじゃないよな?」

「いえ、既にダンジョンは出来てますよ?」

「え?」


 あろうことか、コイツが指した場所は俺の部屋の押し入れだ。

 嘘だろ!? と思いつつ押し入れを開けたら、六畳間程度の広さに加え壁に巨大なモニターが設置されてるという見知らぬ場所へと変貌を遂げていた。

 それを見て改めて問い詰めると、これがダンジョンのコアルームというやつらしい。


「なんてこった、既に俺の部屋が改良されてるとは……」

「改良といっても別次元にずらしてる場所なので、この部屋には悪影響はありませんよ?」

「ああ、そうかい……」

「因みにわたくしが破壊されない限りダンジョンが崩壊することはありませんので、その点はご安心を」


 この流れで何をどう安心すればいいのかって話だが……。

 そもそもダンジョンコアっていうのはダンジョンの意思っていうか、ダンジョンの――あ~そうそう、心臓って言えば分かりやすいか? その心臓が人化したのがコイツってことらしいんだが、なんで人化してるのかはまだ内緒って言われちまった。

 どうでもいい事なんで気にしないが。


「それで、わたくしの部屋はどこを割り当てられるのでしょう?」

「待てぃ、勝手に部屋から出るな!」


 俺の部屋を出ようとしたコイツを慌てて引き戻し、テキトーな場所に座らせた。もし家族に見つかりでもしたら面倒なことになるからな。


「よく聞け。俺が許可するまでこの部屋から出るのを禁ずる――いいな?」

「禁ずる――つまりそれは、わたくしに貴方と同じ部屋で過ごせと(おっしゃ)るので?」

「当たり前だ。とりあえずは居候してもいいから部屋から出ないでほしい」

「ほほぅ?」


 ん? なんだ? 急にニヤニヤして何企んでやがる?


「引きこもりッポイ外見でありながら中々の肉食獣ですね。わたくしを部屋に閉じ込めてどうしようと言うのでしょう?」

「は……はぁっ!?」


 言われて気付いた。

 居候させるから俺の部屋から出るなって、台詞だけ聞けば弱味を握って監禁しようとしてるみたいじゃねぇか!


「お、俺に他意はないぞ!? お前が居候したいって言うから許可しただけで――」


 ちょっと待て。コイツ俺のことを引きこもりッポイって言わなかったか?


「どうかなさいましたか、引きこもりさん?」

「それだそれ! なんでお前に引きこり呼ばわりされなきゃならねぇんだ!」

「仕方ないじゃないですか。まだ名前を伺ってないのですから、状況的に最も雰囲気の合う呼び方をチョイスするのは当然です」


 だからって引きこもりはないだろ、引きこりは……。


「他にまともなのはなかったのか?」

「う~ん……」






「……無個性?」

「引きこもりでいいです……」


 引きこもりはともかく、無個性はちょっと心にくるものがある。これをチョイスされなくて本当に良か――って、よく考えりゃ普通に自己紹介すりゃいいだけじゃねぇか!


「俺の名前は冴木佑矢(さえきゆうや)だ。今度からそう呼んでくれ」

「畏まりました。実に覚えやすい簡単な漢字ですね」

「名前をディスるのはやめぃ! ――で、お前は何て名前なんだ?」

「まだ決まってませんよ?」

「決まってない?」


 どういうことかと聞いたら、ダンジョンコアはダンジョンマスターとなる存在に命名されるまでは名前を持たないらしい。

 つまり、名前をつけることで互いに共存関係となるらしいのだが……


「それって俺がつけるのか?」

「そうですね。コアルームの外が佑矢さんのお部屋なのですから、佑矢さんに命名していただくのが最良かと」

「でも命名したらダンジョンマスターになるんだろ?」

「勿論です。ダンジョンマスターとなって外敵からわたくし(ダンジョンコア)を守るのがこのゲームです」

「人の人生を勝手にゲーム化すんな!」


 いかんな。どうもこのままだとコイツのペースで話が進んでしまう。

 ダンジョンマスターとかいうのを押し付けられそうになってるし、流されないようにしないと。


「いいじゃないですか。引きこもりからダンジョンマスターにランクアップですよ?」

「だから引きこもりちゃうっちゅーに!」

「他にはない異例の職業ですよ?」

「確かにそうだが興味はない」

「今なら新規ダンマス特典として、DPが2倍でスタートできます」

「ますます怪しいし胡散臭い」

「プレミアムガチャチケットもお付けします」

「ソシャゲかよ!」

「中々強情ですねぇ……」


 当たり前だ。誰がそんな怪しげな勧誘に引っ掛かるか。


「ならばこういうのはどうです?」

「ん?」

「佑矢さん……あなたは最近、テストで赤点を取りましたね?」

「んげ!」


 な、なんで知ってんだそんな事!

 ハッ! ま、まさかコイツには相手の過去が見えたりする能力が有ったりするのか!? だとしたらとんでもない能力って事に……


「カバンの底に沈んでた答案用紙がありましたので、拝見させていただきました」

「勝手に漁るんじゃねぇーーーーっ!!」


 コイツいつの間にカバン開けてやがったんだ!? 俺は急いでカバンを奪い返すと、ベッドに放り投げた。

 まったく、油断も隙もない。


「さて、ここで問題です。――今、わたくしの手元には佑矢さんが奪いそこねた答案用紙があります」

「あ!」


 コイツの手には、赤点を獲得した答案用紙がしっかりと握られていた。

 慌てて奪い取ろうとしたがヒョイっと持ち上げられ、ニヤニヤとした嫌な笑いを見せる。


「さぁ佑矢さん、次の四つから選んでください」


 ①ダンジョンマスターに俺はなる!→無事ダンジョンマスターに

 ②いいや、そんなのはごめんだ!→ご両親に答案用紙を見せる

 ③〇してでも奪いとる→う、うわ、何をする貴様~!(BY佑矢)

 ④強引に奪いとる→わたくしが大声をあげる


「さぁ、どれがいいですか?」


 まず③はないな。殺すつもりなんてないし、俺が返り討ちにあうだけだし。

 そして②もマズイ。下手すると小遣いを減らされることに繋がりかねない。

 ④は絶対にダメだ。これをやられたら大変なことになる。


 こうなると消去法で①しかない――というより最初から答えは決まってるも同然だ。


「……分かった。ダンジョンマスターになるから答案用紙を返してくれ」

「最初から素直にそう言えばいいのです」


 完全に立場が逆転してしまい、俺は渋々ダンジョンマスターとなることに決めた。


「ではマスター、さっそくわたくしの名前をお決めください」

「へいへい」


 どうせ決めるならキチンとした名前にしてやろう。

 ってことで、見た目に因んだネーミングにしようと思い、改めてコイツをじっくりと見てみる。


「視線がイヤらしいですね。見物料をちょうだいしますよ?」

「やかましい!」

「などと言いつつ財布に手をのばす佑矢さんであった……と」

「残念だったな。今俺は金欠だから出るもんも出ねぇよ――ホレ」


 小銭しか入ってない財布を見せると、10円玉を取り出して放り投げてやった。


「……チッ、見物料たったの10円で?」

「嫌なら返せよ」

「ありがたくちょうだいします」


 よし、今の流れでちょうどいい名前を思い付いたぞ。


「ゼニゲバって名前でどうよ?」

「……ふざけてるのですか? こんな美少女をつかまえてゼニゲバと名付けるなど恥を知ってください」


 美少女は自分のことを美少女とは言わん。

 ……だがよく見ると可愛いのは事実だな。その代わり思った以上に口が悪いが。


「まだ決まらないのですか? いい加減待ちくたびれたのですが」

「もうちょい待ってくれ。中々いい名前が出てこなくてな……」


 う~ん、いざ決めようとすると中々思いつかないもんだなぁ。


「では参考までに、別の時間軸で付けられた名前をご紹介しましょう」

「別の時間軸とやらがよく分からんが、とりあえず頼む」

「畏まりました。では、フランシェーヌ、ローゼフィーナ、メティル、ラミーネ、シェラザード――」


 そこからいろんな名前がザクザク出てくるんだけど、どれもこれもシックリこない。


「もっと親しみやすい名前はなかったのか? 何ていうか日本式って感じの」

「でしたら愛華(あいか)というのはどうでしょう? これなら日本式という要望に当てはまるかと」


 うん、これならシックリくる。


「よし決まった。今からお前は愛華だ」

「ありがとう御座います。ではしばらくの間宜しくお願い申し上げます」


 こうして、突如として現れたダンジョンコアの美少女と同居することになった。

 但し、親には内緒でな。


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