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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛する君

作者: 頭巾の子


前生の自分の死体を生まれ変わった今生で見ることになるとは誰が思っただろう。


鏡の中に毎日いたその見慣れた姿は温度のない氷の様な棺の中に眠っていた。



「美しいだろう。君が産まれる前に私が愛した者だよ。

ある一定の空間の中だけ時間を止める魔法でね、彼女が亡くなってすぐにそれをかけた。ほら、君も使った事はあるだろう旅の途中食料が腐るといけないからね。」


うっとりとした顔で死んだ前世の私を眺めるこの男は一般人がその魔法を人一人包み込める大きさで掛けるのが、ましてやそれを何年も維持し続けるのが、どんなに大変な事なのか理解は出来ても共感することは無いのだろう。

なにせ、この男の魔力量は城に仕える魔法使い千人分の魔力に勝るとも劣らずと言った所らしい。

城に仕える魔法使いも平民の魔力量の倍以上は少なからずともあるというのだから計り知れない。


「…。彼女はそれを望んだのですか。」


答えは決まってる否だ。


私はこの状況を望んだ事なんて無い。


「どうだろうか、僕は彼女の全てを愛していたけれど彼女の真意に触れた事はないんでね。」


そうでしょうね、私は。

前の私は、この男の事なんて知りもしないもの。


「でも、そんなこと関係無いと思わないか?生きているならいざ知らず、彼女は僕が手を出す事なく亡くなっている。死人に口なし…だったか、便利な言葉だね。死んだ人間の思想なんて誰も本当の所は分かりはしないよ。」


「まあ、確かに。ですが、もし。…もし、彼女の。その思想がまだこの世にあるとするのならそれを知りたいとは思いませんか。あなたは彼女を愛していたのですよね?」


「それは、霊体として彼女がいるという可能性の話かい?」


「え。ええ、まあ」


そういう事でもいいかしらね。


困ったな僕そう言うのは信じないタチなんだけどな、と困ったように顎に手をあて考えるこの男が仕事帰りにアンデットの核を大量に持ち帰ってきて玄関から自室までの間にヘンゼルとグレーテルよろしく隙間なく並べるという奇行を犯したのはつい3日前の話である。


まあ、アンデットに思想があるのかは微妙な所だが大まかな分類としては同じだと思うので良しとしよう。


そんなことより霊体としてではなく別の人間として、私として、彼女もとい前世の私がここに居るのだが。

それを、知ったらこの男はどうするだろうか。


私はどうなるだろうか。


彼女と同じく飾るだろうか。


アンデットのように核だけ取り出されて自室の部屋の前にでもおかれるだろうか。


それとも、以前と変わらぬ形で無かった事にされるだろうか。


愛していた女の思想、記憶を持った女を再び愛しすだろうか。


魔力が多いぶん長く生きるこの世界でのこの男に魔力の少ない前世の私は何時何処の時点で会ったのかはわからないが…。


「僕は飽きっぽいからね、愛していた彼女の思想は生きていた時ならまだしも、今はもう知り得たいとは思ってないかな。」


少なくとも今はもう興味もないらしい。


「それで、君は霊体でも見えるのかい?」


疑問を人に投げ掛けるにしては幾分興味のなさそうなこの男にそんなわけないでしょうとため息と共に出そうになった言葉を寸での所で飲み込んだ。


前世の記憶を持っているのもどっこいどっこいでそんなわけないと言われそうだ。


「見えませんよ。」


「そう。つまらないね。」


そう吐き出すこの男にいらっとしたのは私が短気なのかなんなのか。


「ところで、なぜたかがメイドの私にこの様な秘密をお見せになったのですか。」


「別に秘密じゃないよ、隠していないしね。彼女の美しさは国宝物だからね、国王にしっかりと許可をもらってる彼女の家族にもね。」


死者への冒涜とかは無いのか。


「死者への冒涜だという輩もいたけど」


あったみたいだ。


「年に一度国の協会に展示…といえばいいかな、まあ展示していたらよく分からないけど何も言わなくなったよ。変わりにといってはなんだけどその日はお祭り騒ぎの輩もとい平民が賑わっているね。」


どうやら、この国の王も民も狂っているらしい。

そのなかに前世の私の家族も含まれるのがいたたまれない。


そして、そういえばあったなそんなお祭り騒ぎ。

聖女祭だったか女神祭だったかそんな呼ばれ方をしていた気がする。


「それで。なんで君に彼女を見せたかだったかな。」


「そうですね。協会に展示している日があるのならその日に私を協会に向かわせればよかったのでは?」


「それでも、別によかったんだけど。愛した彼女を愛する君に紹介するには少し落ち着き足りないだろう?協会は彼女を拝みにくる人でごった返しているから。」


「…愛する君」


「おめでとう君は今日からメイドから僕の妻に昇格だ。給与もあがるよ、これで君の大好きな弟の治療が出来るね。魔力はあるから生きているけど心臓の状態が悪くて苦しんでるだってね。」


「ええ、まあ弟はそうですね…。愛する君…。」


「何か都合が悪いことでもあった?どうせ、住み込みだったんだ生活は対して変わり無い。弟も救える。仕事内容はそうだな…特に無くなるね、僕は外交には携わってないし学院での教員の方も特に君の手を借りる様な事はないかな。」


しいて言えば僕の妻らしく僕の家で、僕を迎えてよ。と笑うこの男は長くいき過ぎたのだろう、遂に精神に異状をきたし始めた。

屋敷で雇って一週間のメイドを自分の妻に昇格…と、その前に愛した女を協会で展示している時点で頭はおかしかったな。


「死んだら私もこうなるのでしょうか。」


そう言って冷静に自分の死後を気にしてしまった私も多分頭のおかしな雇い主のせいで少々頭がおかしかったのだろう。


「どうだろうか、君を愛してはいるけど彼女と違って魔力も少なくはないからしばらく死にそうにもないし死なせる気もないんだよね。」


「…。」


「僕は少しばかり彼女を死なせてしまった事を後悔しているんだ。有り余る魔力をどうして彼女に渡さなかったのかとね。」


知らない男からの魔力を果たして前世の私は受け取っただろうか。


「だから、あ。そうだね。仕事内容に加えよう僕の魔力を使ってでも僕より一秒でいいから長く生きろ。」


少々頭がおかしくなっていた私は弟の事もあるので頭のおかしな雇い主のこの男の命令に従わざるを得ない。


この際だから他人の魔力を譲渡されるのはものすごい苦痛が生じるだとか、この男の愛した彼女と私が瓜二つだとか、この男が持っている本のなかに禁忌の転生魔法の本を昨日見つけてしまっていたことだとか、この男がそれを成し遂げることのできる国家の魔法師だとか、そんな事は今は置いておいて。


もう一度言うけど命令は従わざるを得ない。


これももう一度言うけど前の私は、この男ことなんて知りもしなかった。


誰が頭のおかしなストーカーの隣で計り知れない魔力量であと千年は生きるだろうと言われるストーカーよりも長く生きろとかっこよく決められてキュンとくるだろうか。

頑張っても背筋が凍ってギュっとなるくらいだ。


すでに物理で凍ってるような感じの前世の私が目に入りフラッと意識が飛びそうになるが近くにいたストーカーの両手が耳の辺りから後頭部に掛け私を包み顔が近づけられ意識が戻される。

翡翠のような瞳の中で酷く脅える私を見つけたと同時に男が口を開く。




「ああ。やっと手に入れた。愛する君」














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