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ニャルラトテップ

「じゃあ、後日採用かどうか連絡いたしますので、ありがとうございました」

「グジュ…グジュ…」


 グニャリと体を曲げてお辞儀?をして出ていくスライム。


「お疲れさまでした」

「あぁ、スカサハさん。聞きたいことがたくさんあるんですが…」

「なんでしょう?」

「さっきのアレはなんです?」

「スライム族、ブルースライム種のスラタさんですね」

「知ってますよ!じゃなくて!あんなのコスプレしようがないじゃないですか!」

「えぇ、コスプレじゃないですから」

「じゃあなんだって言うんですか!」


 求めている答えが戻ってこず、苛立ちを隠せない。


「落ち着いてください。あなたはこれからダンジョンマスターになり、このダンジョンを広げていくんですよ」

「なんですかダンジョンマスターって…僕はただの派遣社員なんですよ…」

「これから起きること、今まで起きたことは全て現実です。もう避けることはできないのですよ」

「じゃあさ、君のその角も、コスプレじゃないのか?」

「もちろんです、さわってみますか?」

「あ、うん。触らせてくれる?」


 体を低くして、こちらへ身を任せるスカサハさん。ゆっくりと頭へと手を伸ばし、なるべく力を入れないようにして角に触れる。


 うーん、なんだろう。サラサラとしていて、それでいて適度に硬い。癖になるような感触だ。


「どうです?本物でしょう?」

「あぁ、根本が頭と繋がってるな…」

「確かに佐藤さんは今までにこんな経験をしたことないかもしれませんが、先程のように面接していただければそれで良いんです。完璧ですよ。別にナニかと戦えというわけじゃありません。ゆっくりで良いので、少しずつ慣れていってくれませんか?」

「そう…ですね」


 確かに、さっきのスライムさんにも嫌悪感を覚えたが、その場から逃げ出したくなるようなまでのモノではなかった。むしろ話しているうちに、『あぁ、この人も生きてるんだな』と思って怖くなくなってきた程だ。


 こちらへ来てそういうのに耐性でもついたのかもしれない。


「次が最後の人です。良さげな人材を見つけてくださいね」

「ちなみに選んだ人は何することになるんですか?」

「この主な仕事はこのダンジョンの防衛となりますね」

「誰かが攻めいってくるということ?」

「そうなりますね。勇者、とかいうイキッた人間や、他のダンジョンからの刺客などがやってきます」

「大変だなぁ」


 まるで他人事のように考えてしまう。なんか怖いと言う感情が麻痺してきている気がする。


「はぁ…次の人、入ってきてくださーい」


 部屋の扉へと話しかけると次の応募者が入ってくる。

 ドアが開かれる瞬間、全身を悪寒という悪寒が這いずり回る。まるで全身の毛穴が開かれ、水分が抜け落ちたようだ。一瞬で喉が乾き、クツクツと声が出てしまう。恐ろしい、ただ恐ろしいという感情が心を支配する。


「失礼しまーす」


 が、その悪寒とは似ても似つかない、気楽で抜けたような高い声が部屋に響く。


 ドアからは予想してたよりずっと華奢で、可愛らしい女の子が入ってきた。綺麗な金髪に、大きい黒のリボンを後頭部につけ、ゴスロリといった衣装を着た女の子だ。見た目はとんでもなくカワイイ。これほどまで可愛い女の子はテレビでも見たことがない。


 そう、文字通り、()()()()()()()()()ような美しさなのである。


「始めましてー、私はニャルラトテップですー」

「ニャル…ラト…?」


 渡される履歴書を見ると、ニャルラトテップ族ニャルラトテップ種、名前もニャルラトテップ。性別は書かれておらず、基本ステータスの欄は全て『?』に統一されている。まるで情報がない。


「あの、えーと…スカサハさん、これって…スカサハさん?」


 隣にたっているスカサハさんを見ると、スカサハさんは脂汗をかいてニャルラトテップさんに釘付けになっている。話しかけても反応はなく、その表情は驚きの表情で凍りついてしまっている。


「えっと、じゃあ面接を始めます…ね?」

「はいー」

「ニャルラトテップさん?は人間ですか?容姿はまるで人間のようですが」

「私はニャルラトテップですよ。それ以上でも、それ以下でもなく。ニャルラトテップです。そこに存在しているようで、いないようで。ただそこに『存在(いる)』だけです」

「はぁ…?」


 全く意味が理解できない…が、まあこんな世界だし、もう何があっても驚かない。


「志望動機は?」

「んー、暇だったからかなー」

「そ、そうですか。では長所は?」

「そうだねー、色んなことができるけど、例えばこんな感じで色んなモノになれるよー」


 ニャルラトテップさんが手で顔を覆い隠す。数秒たってその手を退けると、そこには…


「僕?」

「はい、社長さんですー」


 ニャルラトテップさんの顔が僕の顔になっていた。どういうトリックだろう。


「凄いですね、どうやるんです?」

「んー?社長さんもしてみたいのー?でもー、人間やめないと出来ないよー?」

「あー、やめときますね」


 もとの可愛い顔に戻り、にこりと笑うニャルラトテップさん。なんかもうホントに驚かなくなってきたよ。


「ああああ、あののの…あの、佐藤さん?」

「あ、やっと動き出しましたかスカサハさん。まあ面接ももう終わりですよ」

「いや!佐藤さん!分かってるんですか!?」

「何がですか?」

「この、このお方は!かの有名な!!ニャルラトテップさんなんですよぉぉっ!!」


 目を見開いて叫ぶスカサハさん。対してニャルラトテップさんはニコニコとして椅子に座っている。特に何を言うこともないようだ。


「もしかしてアイドルかなにか?」

「アイドルって!いやまあ確かに怪物の中のアイドル、カリスマ的存在ですが!知らないんですか!?」

「うん、知らない。その口ぶりから、雇用するってことで良いのかな?」

「あー、もしかして私、合格ですかー?」

「はい、じゃあ明日から来てもらえますか?」

「はーい、わかりましたー」


 ペコリと頭を下げて帰っていくニャルラトテップさんを見送り、一息つく。ふう、今日の仕事は終わりかな。


「いやいや!佐藤さん!?」

「え、なにかな?」

「明日から本当に来てくださるんですか!?ニャルラトテップ様は!?」

「ニャルラトテップ様?うん、一応来てくれるみたいだよ。ていうか社長をさんって呼んでさっきの人を様付けするんだね…」

「さっきの方は『神格』ですよ!?」

「神格?神様?」

「そうです!神格の中でも有名な!!ニャルラトテップ様です!!」

「あっ、そうなんだ」

「軽いっ!?」


 いやだって知らないし…まあさっきみたいに腰の柔らかい人なら大歓迎だよ。意思の疎通も出来るみたいだし。とりあえず、明日になれば分かるでしょう。


「じゃあ、今日は仕事終わりみたいですね。スカサハさん。住み込みとして僕はどこで寝れば良いんですかね?」

「あ、それはですね。社長室が寝床兼業務部屋となっておりますので…じゃなくて!!」

「分かりました。じゃあ、また明日です。スカサハさん」

「あ、はい。おやすみなさいませ、佐藤さん……あれぇ!?」


 なんだか良く叫ぶスカサハさんを横目に、社長室へと戻る。良く見ると角にベッドらしきものがあり、そこで寝かせてもらう。横になると、今日あった出来事を思い出す。


 なんかすごいことばっかりあって一日が短く感じたな。また明日からダンジョン経営…意味が分からんが、せっかく派遣されたんだ。やれることはなんでもやろう。


 俺は馬車馬のごとく働くことを覚悟し、眠りについたのだった。




ーーーーーーーーーー



「グルルゥゥ」

「うっ…生暖かい…」


 べチャリと頬を舐められる感触と共に目が覚める。いつの間にか寝ていたみたいだ。ドラ子さんが起こしに来てくれたみたいだ。


 俺が起きるのを見たあとに、ドラ子さんは(きびす)を返して出ていく。着いてこい、と言ってるように感じ、着の身着のまま後ろに着いていく。


 社長室を出てすぐ近くの部屋へと入ると、食卓が目に入り、そこにたくさんの料理が並べられていた。


「あ、おはようございます佐藤さん。朝ごはんですよ」

「あぁ、スカサハさん。ありがとうございます」


 料理をせずとも朝飯が食べられる。うん、住み込みって素晴らしい。


 並べられた料理は白飯とおかずのベーコンや、卵焼き。日本で見る料理と何ら差異のないものだった。手元にあった箸をとり、ベーコンとしろめしを一気に掻き込む。


「う、うまい…っ!」

「ふふ、良かったです」


 あまりの美味しさに手が止まらない!うまい!うまいぞぉ!ベーコンはしっとりと油が乗っていて、重量感があるがあっさりとしている。すこし濃い目の味付けが白飯とベストマッチしている。

 卵焼きも自分好みの甘めで、まるで僕の好きなものをかき集めたみたいだ。


「スカサハさんは料理得意なんですね」

「あー…はは。もちろん私も出来ますけど、この料理って私が作った訳じゃないんですよ」

「そうなんですか?じゃあ一体だれが…」


 この場にいるのは僕とスカサハさん以外だれも…


「妾じゃよ、サトウ」

「え?誰?」


 不意に可愛らしいロリ声が響く。口調は古びているがその声は小学生のような純粋さを感じさせる。しかしそんな声を出せる奴はこの場には…


「えっ、いやでも…もしかして…」

「はい、この料理を作ったのは、()()()さんですよ」

「口に合ったようで妾も嬉しい限りじゃ」


 そこに立っていたのはさっきの厳ついドラゴンではなく、少し寝癖気味の長い黒髪を床まで伸ばし、笑顔を見せる幼女だった。これまた目がくりくりとしていて愛らしさを感じされるが、それと同時に不思議な色気も感じる。


「…幼女?」

「ふふん、サトウも世辞が過ぎるの。流石に幼女には見えんじゃろ」

「いやいやいや!幼女にしか見えませんがっ!?」

「佐藤さん、ドラ子さんはもう数百年以上生きている長寿なんですよ」

「こ、この幼女がですか…?」


 ふわぁぁとアクビをするドラ子さんは、驚いている俺を見ると満足げに笑う。


「ふふ、まあ若く見られるのは嬉しいもんじゃの。ご主人様が良ければ妾が夜を共にしてやってもよいぞ?」

「あー…」


 流石に幼女とヤるのはなんというか…法律的に、倫理的に難しいかなぁ。


「それより今日からニャルラトテップさんが来るんですよね。いつ頃来ますかね?」

「あっ!そうでした!ニャルラトテップ様です!このままではいられません!せめて歓迎できる用意をしなければ!」

「そんな大袈裟な…」

「む、ご主人様よ。気を付けた方が良いぞ。ニャルラトテップは神格の中でもかなりの気まぐれやと聞くからの」

「ピンポーン」

「お、噂をすればなんとやらですね」


 このダンジョン?家?にインターホンがあることに驚きつつ、玄関へと向かおうとする。


「あ、玄関の場所知らないや、ごめんスカサハさん。案内してくれる?」

「はい!着いてきてください!あと接客は佐藤さんにお願いします!」

「えー…僕社長のはずなんだけど…それに雇用関係なんだから接客なんてことする必要が…」

「いきますよ佐藤さん!」

「分かりましたって」


 かなり焦っているスカサハさんの後ろを着いていき、玄関へと向かう。ニャルラトテップさん、どういう方なのかしっかりと見極めなきゃダメだな。頑張ろう、僕。


欲しいんです!欲しいんですよ!ニャルラトテップさん!


何が欲しいのー?


その、言いにくいんであまり言葉に出来ないんですが…


分かったよー。あれだね?名状しがたい評価のようなものが欲しいんだねー?


そうなんです!ついでに言えば名状しがたいブクマようなものも欲しいんです!


それじゃあー名状しがたい読者のような人たちに頼むしかないねー。


名状しがたいブクマ、評価のようなもの、お待ちしておりまーす!!


名状しがたいって付ければ良いと思ってるでしょー?


違うんですか!?


合ってるよー

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