93 いよいよ測定の時間です3
ゴクリとつばを飲み込みつつ、透明の球をのぞき込む。
「……」
その球からは……
「おい、まさかあれって。」
「うそだろ、オスカー教授の息子だぞ。」
後ろから上級生達のひそひそ声が聞こえてくる。
「アヤト……」
「……」
「……zzz」
三人組もそんな反応。
そう、球には何も変化が無かったのだ。
う…そ……だろ?
すがるような気持ちでフリッツさんを見ると、
彼は険しい顔で機械を見つめていた。
そして言う。
「ちょっとアヤトは待ってろ。
おいミリア、来てくれ。」
待ってろって、どういうことなんだ?
信じたくは無いが、無色で決定じゃないのか?
そうか、故障なんじゃないか?
頼む、故障であって、無色っていうのは間違いであってくれっ。
ミリアちゃんが位置について金属板に手を当てる。
そして、フリッツさんが機械を操作した。
その結果――
球はなんの反応も示さなかった。
これは、やっぱり故障じゃん。
少し安心してフリッツさんを見ると、
彼は未だにいかめしい顔をしている。
手元の紙に何か書き込んでミリアちゃんに渡す。
ん?紙を渡した?あれは特性数値を書き込んでた紙だよな……
故障じゃなかったの?
再び不安に駆られる僕をフリッツさんが呼ぶ。
「アヤト、ちょっと隣の教室に来い。」
そう言うと、フリッツさんはドアを開けて出て行った。
「……」
教室の中が沈黙で満たされる。
もう何がなんだか分からないが僕も扉を開けて廊下に出る。
そして、隣の教室に入ったのだった。
「おい坊主、おまえ何者だ?」
フリッツさんの第一声はそれだった。
転生してこの世界に来たこちらからすればドキッとする質問だ。
どう答えようか迷っていると、
「いや、今の質問は忘れてくれ。
俺もちょっと気が動転しているんだ。」
「はぁ……、何に驚いているんですか?」
「おまえの特性数値がゼロって出たことだ。」
「ゼロっ?」
「そうだ。本来あり得ないんだがな。」
フリッツさんが言うには、魔力は生命活動の際に作られてしまう物なので
生きている物ならば必ず魔力を持っているらしい。
さらに、個体差があるとはいえ、生物の種類によって特性数値の値の範囲はほぼ定まっている。
人間の場合はだいたい百から千。
なので、ゼロなどという値はあり得ないのだ。
「やっぱり、あの機械の故障なんじゃ……」
「ああ、俺も最初はそう思った。だからミリアの測定をしたんだ。
それで故障では無いことが分かっちまったんだよ。」
「えっ?でも、ミリアちゃんの時も球に反応が無かったよ。」
「そりゃそうだろ。ミリアの魔力色は無色だからな。」
「……」
「ミリアが三歳の時に測ったからな、
それで今回も特性数値は変わりなく出てきた。」
――だから、故障では無い、とフリッツさんは言う。
「じゃあ、まさか。」
「ああ、少々引っかかるが認めないといけないな。
おまえの魔力とその特性数値は……」
耳をふさぎたくなる衝動に駆られた僕に
無慈悲な宣言がなされる。
――無色でゼロだ。
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ふらふらと自分の部屋に戻った僕はベッドに倒れ込む。
魔力色が無色で特性数値はゼロ。
そもそも、その数値だと魔力があるのかすら怪しいとまで言われた。
あったとしてもそんな数値に合わせられる魔導具は無い。
ここまで楽しみにしてきたのに魔法が使えない……
神様に魔法の才能をもらったんじゃ無かったのか。
くそっ、これはどういうことなんだ。
どんどん感情が暗く染まっていき、
そして――
「神様の嘘つき~~~」
この世界で五歳になった僕はそう叫んだ。
第一章 完
第一章完結です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
評価、感想等いただけると幸いです。
今後の更新時間は不定となりますが、毎日更新はできる限り続けていきます。
これからも「魔法使いは理系です」をよろしくお願いします。




