86 今年もこの時期です5
「坊主っ、何やったんだっ。」
「わかりませんよっ。
お父さん、気絶ぐらいで済むんじゃなかったのっ?」
「いや、俺にも何がなんだかわからん。
見た感じ普通の魔力放出だったんだが……
こんなことは初めてだ。
フリッツ、これはなんだと思う?」
「俺に聞くなっ。研究者のおまえが分からんことを
ただの機械いじりの俺が知ってる訳ねーだろっ。」
混乱に陥る男性陣と、
「「「「……」」」」
茫然としている女性陣。
「あーとー。ッキャー」
そして、何故かこのタイミングでご機嫌になるフーシア。
そんな、混沌とした状況はこのあと五ミニほど続いたのであった。
「とりあえず、アヤト。合格な。」
ようやくみんなが落ち着いた頃、父はそう言った。
えーっと、何が……って、そうだ、魔力放出のテストなんだった。
起こったことが衝撃的過ぎてすっかり忘れてた。
合格だと言われてもなんと返せばいいのか分からず黙っていると
父は三本の指を立てる。
「三つだな。」
「何が?」
「さっきの現象に対する仮説だ。
おまえがかなり気にしているようだからな、考えてみた。」
おお、どんなのだろう。
父は、倒れているボアを指差して言う。
「まず、一つ目。この個体に何らかの問題があった。
例えば、普通のものと比べて体組織が魔力波の変化に弱かったとかかな。
俺は、多分これだろうと思っている。」
「なるほど、あと二つは?」
「二つ目に思いつくのは、おまえの魔力波のエネルギーが異常に高かったっていうこと。
もしこれだったら、おまえの魔力色は紫で決定だろう。」
そう言って、父は手をあごに当てる。
「最後だが、荒唐無稽で言っていいのか分からんが……
そもそも、おまえが使ったは魔力じゃなくて別の何かだったということ。」
「別の何か?」
「オスカー、それはさすがに無理があるんじゃねえか?」
「まあ、そうだよな。すまん、アヤト。最後のは忘れてくれ。」
そうなの?神様が魔力じゃなくて、より強いなにか別の力をくれたっていうのも
あり得ると思っていたんだけど。
「アヤト、原因が分かるまで魔力放出は動物とか人に向かってやるなよ。
やらないと自分か仲間の命に関わる時だけは仕方ないが。」
「はい。」
せっかく使えるようになってきた魔力放出が封印か。
不満げな顔をしていると、父は言う。
「まあ、人に迷惑をかけないように練習するぐらいなら続けてもいいから。」
そんなこんなで話し合いをした後、
「今日の予定はこれで終わったが他に何かある奴はいるか?」
と父が皆に聞く。
誰からも何も無く、僕たちは父について、村に帰るのであった。




