35 今年の生徒は二人です4
目が覚めると、すでに陽が傾き始めていた。
いつの間にか寝入っていたらしい。
寝転がったまま横を見ると……
「なにしてるの、ミリアちゃん。」
ジーと僕の顔を見つめるミリアちゃんがいた。
彼女は慌てて顔を背ける。
寝ぼけた頭でミリアちゃんを見ていると、
「おっ、起きたかアヤト。」
父とフリッツさん、フーシアを腕に抱えた母が歩いてくる。
僕は体を起こし、立つ。
「はい。きもちよく寝られました。」
「そうか、なら良かった。」
全員が例の岩の周りに集まると、父が言った。
「さて、今日はもう帰ろうと思うが、
その前にみんなに聞きたいことがある。
明後日から例年通り、俺は公都へ行く。
学会週間だからな。
そこで、みんなも観光として公都に行かないか?」
「オスカー、俺らも行っていいのか?」
「ああ、実は関係者用の部屋が余っててな、
空き部屋にしておくぐらいなら誘おうかと。」
「そうか……、今日うちのかみさんと相談してみるわ。」
「分かった。それでメアリー、うちはどうする?」
「そうね……アヤトさえ良ければ。
行きますか?アヤ」「うんっ。」
ちょっとくい気味で答えてしまった。
だって公都だぞ、聞いた話だとこの国の首都で、
かなり綺麗な町らしい。
日本で言うなら半分田舎の町に住んでる人が
東京にあこがれを抱くようなものと同じ気分なんだもん。
ここは、公都から馬車…ホーンシュヴァル車?に乗って一日ちょっとだけれども、
十分田舎と言っていい環境だろう。
これで公都での観光に心躍らない方がおかしい。
ふんすー、と鼻息を荒くしていると、
「はぁ。」
と母は困惑しているし、
父は珍しいものを見たかのように目を丸くしている。
「ま…まあ、うちは行くことで決まりだな。」
「そうですね。では、明日準備をしましょう。
それで買い出しに行くので、フリッツさん、昼前に伺います。」
「分かった、メアリーさん。」
そうして、今日は解散となった。
次の日、フリッツさんから向こうも行くという返事があったとのことで、
僕たちは公都に出かけることになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ベールバーリアーーーーーーーーー」
いやー、一回やってみたかったんだよねー。
まあ、ここは某電気街では無いのだけれど。
昨日の朝出発をして、今日昼前に僕たちは公都ベルバリアに到着した。
道中は特に何も無く、遠くの山や途中道に沿って流れる川を眺めたり、
草原の動物を見て、「あれは何?」と質問したりしながら過ごしていた。
ああ、何かあったにはあったか。
父が今回の発表に使う魔導具の最終調整を車内でやっていたために、
吐き気を催していた。挙げ句の果てには揺れた時に
細かい部品をいくつか落としてしまい、プチパニックになっていた。
ほんとになにをやっているんだ、父よ……
それでも行程には特に影響せず、予定通り進んでいた僕たちは、
朝早くに公都ベルバリアを視界にとらえた。
丘になっているところから見たため、都を一望することができた。
ファンタジーにありがちな巨大な城などはないが、
中央には会議場らしい大きく白い建物が見える。
その建物の前には大きな広場があり、
そこから放射状に大通りが伸びている。
通りに沿うようにカラフルな屋根の建物が並び、
大通りから少し離れると、住居なのか白色に統一された屋根が並んでいる。
ここから見て会議場の右手奥、だいたい北側には周りとは違い茶色系の色で作られた、
大きさもいろいろでたまに三角の形すら含まれている建物群がある。
そんな公都ベルバリアに僕たちは足を踏み入れるのであった。




