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魔法使いは理系です  作者: 山石竜史
二章 アヤトは学生です
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137 捜索は失敗です

「結局どのチームも足取りは掴めずか」


 空が黒く染まり、街に灯りがともり始めたころ、アヤト達はネロの魔導具店に再び集まっていた。

 相手も流石は諜報員といったところだろう。アヤト達が入念に聞き込みをしても手がかり一つ掴むことが出来なかった。


「騎士団には俺が報告しておいた。街の検問は強化されているから逃げ出されはしないはずだ。とりあえず、第三警邏団が担当すると思うが任せておけばいいだろう」


 なんやかんや言っても三師団の一員、大体いつも不真面目そうな態度のリベルトだが、こういうところに抜かりは無い。


「あ、もう報告しちゃったのかい?」


「ああ……何かまずかったか?」


「いや、不都合はないんだけれど、二度手間になると思っちゃってねえ。スパイが潜伏している可能性が高い村が一つ分かったから、その報告も併せてする予定だったからね」


 アヤト達全員が驚いてしまうような発言をしたのはネロだ。


「ネロさん、一体どうやって割り出したんですか」


 アヤトが思わず聞いてしまうのも無理はない。本来、そういう諜報員を見つけ出す仕事も受け持っている騎士団ですら、人員不足で各地の村については手が回っていないのだ。


「うーん。わかっちゃいると思うけど、他言無用だよ」


 ネロは店のカウンターへと向かう。そこから引っ張り出してきたのは一枚の紙。文字と数字が並んだリストだった。

 その文字をじっと見つめるミリアは気づく。


「……売ってる魔導具のリスト」


「おっ、ミリアちゃん正解。といってもこれは今日来ていた侵入者から手に入れたものだけどね」


「ということは、それを手に入れるための作戦で、リベルトさんのことを店長って呼んでたんですね」


「アヤト君、鋭い。私が店員として潜入している別のスパイの振りをしてリストの交換を持ちかけたのよ」


「なるほど、三師団らしい突飛な作戦ね。立案はリベルトさん?」


「……いや、俺じゃない。というかそんな作戦自体聞いていない」


 肩を震わせているリベルト。心なしかその声も普段よりも低く聞こえる。

 そして、リベルトに作戦を悟られず遂行したネロにアヤト達四人の視線が集まる。


「いやーね、ほら。敵をだますならまず味方からって言うでしょ」


「……ああ、もういい。交換したリストは渡しても問題ないものなんだな」


「もちろんよ」


「分かった。話を戻そう。それで、そのリストが一体どうしたんだ」


「それはね――」


 ネロ曰く、リストに書かれているのは商品が何の魔導具であるかとその魔導具に刻まれている個別番号の組み合わせ。店に並ぶ魔導具には個別番号しか書かれていない。同じ効果を持つ魔導具であっても違う番号が刻まれているのである。これは盗難の抑制と、簡単に売っているものの情報が盗まれないようにするための措置らしい。新作の魔導具が出ても、リストが無ければ見ただけでは今までのものと区別がつかず、盗んで調べるといったことが出来ないのだ。

 そして、もちろん組み合わせのリストはどの魔導具店でも厳重に取り扱っているものである。だから、リストが敵の手に渡っているということは、諜報員がリストを盗み出したか、店員の目を盗んで魔導具を見分けるだけの技術を持った者が長期間かけて店の品物とそこに書いてある個別番号の組み合わせを調べ上げたということである。ということは、そのリストがどの店のものか分かれば、その店のある所にスパイがいる可能性が高いのである。

 そして、ネロはそこに仕掛けを施していた。店ごとにとある種類の魔導具を売りに出したりしなかったりさせたのである。それも、一年おきにそのパターンを変えている徹底ぶり。もちろん、店頭に出ていなくては意味がなく、売れてしまっても困るため、売れる見込みのほとんどない魔導具が使われているのだが、流石にそれが何なのかまではネロは口に出さない。


「それで、このリストの出所は、アルヴ村。そうよ、ミリアちゃん。あなたのお父さん、フリッツのところ。リストは二年前のものよ」


 息をのむミリア。アヤトとアデクは腕を組み、ルーシェは目をつぶっている。自分が育ってきた故郷に諜報員が入り込んでいるのだ。心配にならないほうがおかしい。

 店内を支配する静寂を破ったのはリベルトだ。


「今ここで悩んでいても仕方ない。ネロ、情報提供ありがとう。このことは本部にしっかり伝えておく。二年前のことだということで幾分か緊急度が下がるし、学会週間もあってすぐには対応できないとは思うが」


「ええ、そうでしょうね。でも、早めに対応することね。逃げられるかもだし、何よりその子たちのことを知られている可能性も低くはないんだから」


「そうだな。その可能性も含めて団長に伝えておくわ。それじゃあ、俺は行く。女坊主たちも早めに帰りな」


 そう言うとリベルトは表の扉を開いて出ていく。


 そして、扉が閉じる直前、その扉をむんずと掴む者が一人。それが再び開いた扉を四人の少年が通ってくる。


「どうも、こんにちは、ネロさん。いや、こんばんはの時間ですね――ってなんで君たちが居るんだい?」


 入ってきたのは治安維持隊の副隊長。そして、後ろに続いてアレフ、ビート、ギームの三人組だった。






「なるほど、分かった。巡回をさぼってたわけじゃないんだね。隊長に報告するとき僕からも保証するよ」


 副隊長とアレフ達は、西地区、南地区、東地区と巡回を終え、この店へとやってきたのだ。本来であれば、アヤト達もネロとの顔合わせを終えたらアレフ達とは逆に南地区、西地区の巡回をする予定だったのだ。にもかかわらず、アレフ達はいつまで経ってもアヤト達と対面することはなく、疑問に感じていたところだった。

 アヤトとアデク、それにネロからここで起こったことの説明を受け、頷く副隊長。

 彼はそのまま、アレフ達とネロさんの顔合わせを済ませる。


「それでは、僕たちは失礼します。長いことうちの隊員がご迷惑をおかけしました」


「いや、だいぶ協力してもらったからねえ。こちらこそ引き留めちゃって悪かったねえ。今度、暇なときに遊びに来な。サービスしたげるよ」


 各々挨拶をして、出ていく。

 アヤトが外へと踏み出そうとしたとき、ネロが呼び止めた。

 アヤトはもちろん無視などすることなく振り向く。


「何でしょうか?」


「最初に渡した魔導具あるよね」


「はい」


「一応安全なところ。自分の部屋とかで試しておいたほうがいいよ」


「分かりました。ってそういえばこの魔導具の効果聞いてませんでしたね」


「ありゃ、言ってなかったっけ。それの効果は知覚能力の一時的な強化だよ」


 全員が一斉に振り返る。アヤトの前を歩いていて、既に外へと出ていた副隊長チームも含めて。


「ち……知覚能力の強化ぁ?」


 アヤトも間の抜けた声を上げる。それもそのはず、知覚能力の強化をする魔導具など、この場にいる誰一人として聞いたことがなかったからだ。

 技術の最先端が最も早く届く、三師団に所属していたアヤト達でさえである。


「ま、そういうことでいざというときに役に立つかもしれないから、早めに把握しておくんだね」


「は、はぁ」


 こうして、アヤト達は帰路に就くのだった。

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