12 母親は体調不良です
道中は何もなく、家に着く。
「ただいま~」
「お帰りなさい。」
「おかあさんはきょう、なにしてたの?」
「お父さんの部屋をちょっとね……」
ああ、掃除かな?昨日は爆発音とか聞こえてたし。
「そんなことより、今日の練習始めましょうか。」
「はい。」
そう、今日から毎日身体強化魔法の練習なのだ。
「どんなふうにれんしゅうするの?」
「そうね、まずは昨日やったみたいに右手に魔力を集めてみましょう。」
僕は目をつむり、右手に魔力を集めようとする。
昨日のでやり方は分かったから、ちょっとはスムーズに出来るようになったが、
やっぱり量は少ない。
母は左手に触れて
「次はここ、左手ね。」
と言うが、なんか母の手が冷たい。
大丈夫か?
僕はとりあえず、続けて左手に魔力を集めようとする。
ううむ、やはり難しい。
なんとか限界の量を集めると、
「じゃあ次、右足。」
……
「はい次、左足。」
……
「また、右手に集めて~」
大量の汗をかきながらなんとか右手に魔力を集め終えると、母は
「はい、これが一セットね。今日はこれをあと四十九セットよ。」
と言った。
鬼かっ。
一アワ後、ようやく終わった。
疲れ果てた僕は目を開ける。
「よく頑張ったわね。じゃあご飯にしましょうか。」
やっぱり熱でもあるのだろうか、
顔の赤い母はそう言って台所に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日の朝、朝食をとっていると、
母が嘔吐いた。
「おかあさん、びょういんは?」
「ええ、そうね。これは行ったほうがいいかしらね。」
そうして、今日の予定が決まったのである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夜、僕は
フリッツさんの家にいた。
なんでかって?それは……
「ううーん、これは多分、アレだろうね。」
とはこの村の医者であるドクトさんの言。
「やっぱり、アレですか。」
母達は何を言っているのだろう?
アレ?アレってなんだ?
ちょっと不安になっていると、
白いひげを揺らしながらドクトさんは言う
「アレだとは思うんだけど、もう少し様子を見てから結論を出した方がいいかもね。
四年前も大変だったし、三日ぐらい入院したほうがいい。」
「そうですね。それでは一旦アヤトを預けてきますので、昼ぐらいからお世話になります。」
「それがいいな。」
病院でそんな会話があり、
入院しなければいけないなんて、『アレ』ってそんなにまずいものなのか?
一体なんなんだ?母は大丈夫なのか?
そんな思考に埋め尽くされている内に、
「こんにちは、フリッツさん。」
「こんにちは、メアリーさん。ところで今日はどういった……」
「実は、アヤトを……」
そんな風に場面が変わっていて、
気がつけばフリッツさんの家に預けられていた。
というわけである。
母が入院して、僕は別の家に預けられるという事態に驚き、
まさか母は末期癌とか取り返しのつかない病気になったのでは?
と心を押しつぶされそうになっていた僕は
五アワほど心ここにあらずといったようすだったらしく、
昼食も機械的に食べ、
あとはずっと客間でぼーっとしていたらしい。
途中何度かミリアちゃんが勇気を振り絞って声をかけようとしてきてくれた……気がするが、
母の心配でいっぱいいっぱいだった僕は返事出来なかった。
ごめん……ミリアちゃん。
気がつけばもう夕食時で、食べ終わったあとは特にすることもなく、
フリッツ家での一日目の夜が更けていくのであった。




