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魔法使いは理系です  作者: 山石竜史
二章 アヤトは学生です
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136 店には侵入者です2

 店の扉の前で待っていたアデクは、中にいるはずの三人が脇の路地から出てきたのを見て目をしばたたかせた。


「え? お前らなんで外に――」


「しっ、声が大きい」


 アヤトはアデクを抑えると、店の中に怪しい人が入りこんでいることを伝える。


「なるほど、それで逃げられないように回り込んだってことか」


「そう。そうだ、アデクはずっとここに居たんだよね。中に入っていった人って?」


「四人の男だぞ」


「四人?」


 アヤトとミリアはルーシェの方を見る。


「いえ、中の気配は三人よ」


「うーん、ルーシェちゃんがそこまではっきり言うってことはなあ……手練れが一人潜んでる? とりあえずネロさんの出入りも含めて時系列順に教えてくれる?」


「最初に、赤い鎧の男。そのあとネロさんが出てきて札を休業中に変えてた。それでそのあとに三人の男が」


「ああ、一人はリベルトさんね」


 胸をなでおろすアヤト。


「それで、なんで三人の方は休業中なのに通したの?」


「俺もそう言って止めたんだけど、あいつら配達員らしくて『店主から不在だったら店に置いてっていいよって言われてるからねえ。代金も既に払ってもらってるし』って言ってたんだ。それなら出直すとかの余計な手間をかけさせないようにって通したんだ。すまん」


「分かった。それならしょうがない。切り替えて制圧の手順を組み立てよう」


「「「了解」」」


「まず、アデク。入ったのは最初の一人を除いて男三人で間違いないね」


「ああ、間違いない。って最初の一人はいいのか?」


「うん、赤い鎧のあの人は騎士団の人でリベルトさん。さっきまで一緒に情報交換してた。それで、中にいるネロさんとリベルトさんの二人が突入したら多分ここから出ようとする。だからまずは足止めを考えよう。僕たちはたまたま魔導具店の外にいた魔術の使える学生っていう設定でね」


 大人の男三人に対して、女子二人を含めた子供四人。しかも、諜報員の可能性が高い相手には万が一逃げられた場合のことを考えて、秘密にしないといけない手法は使えない。

 特に身体強化と、入学式の日にアヤトがアデクの魔導具に対して使った遠隔魔導具破壊は使うわけにはいかない。大人と子供が互角に肉弾戦出来るようになる身体強化も不自然さが相手に伝わる。また、魔導具破壊についても違和感を残してしまえばそれが人為的なものだとばれてしまうかもしれない。そもそも周りに売り物の魔導具がある中で一応良識のあるアヤトが使うはずもないが。


「とりあえず、ルーシェちゃん、アデク、僕で一人ずつ担当、とりあえず僕が先陣切って次がルーシェちゃん、最後にアデク。ルーシェちゃんは残り二人から強いほうを担当して。ミリアちゃんが指揮を執りつつ援護でいいかな」


「いいよ」

「ああ」

「……うん」


 全員が頷いたその時、ネロさんの声が響いた。


「店長っ。飲料水生成の魔導具がなくなってますっ。捕まえましょうっ」


 すぐさま四人は隊列を整える。そして、先頭のアヤトが扉を開け放った。


「どうしたんですかっ」


 アヤトのたまたま通りがかった人を装う声と共に、全員が店内へと駆けこむ。

 中には突然入ってきたアヤト達を見て立ち止まった男三人と、棚のところにネロ。カウンターの向こうから出てこようとしているリベルト。

 

「ちっ、ただのガキか。立ち止まったのが損だったな。男も一人しかいねえし、無視して抜ける――」


「そうはさせないよっ」


 指示を出そうとするリーダーだろう男へするすると近づき、掌底を放つアヤト。身体強化はしない、純粋な体術だ。そのため男のガードが間に合う。

 その交錯と同時に、ルーシェとアデクも残る二人へと仕掛けていた。

 ルーシェはアヤトと同じく掌底を打ち出し、アデクは腰から外した鞘に納めたままの剣で突きを放つ。

 掌底は腕で止められ、剣は払われ、三人ともの攻撃は失敗したように思われるが――


「ぐあっ」


 苦痛を声を上げたのはアヤトとルーシェに相対した男たちだ。

 彼らは顔を歪めながら、打たれた腕を反対の手でかばっている。

 二人は、ガードされる前提で打撃を繰り出していたのだ。

 狙ったのは肘部管という場所。肘を軽く曲げた時に突き出る二つの骨。その間だ。ここには神経がほぼむき出しで通っているため、強く打たれると、耐えがたい痛みと共に手の小指側が痺れる感覚に陥るのだ。

 最悪後遺症が残りかねない凶悪な技を生み出したのは……やはりというか、別の世界の知識を持つアヤトだった。


「高校の剣道の授業で阿呆のせいで二度も味わったこの痛み、とくと味わいやがれっ」


「あ……あの、アヤト君、アデク君。二人の相手が魔導具持ってるから気を付けて」


 どこか暗い笑みを浮かべるアヤトと、突きをいなされて崩れた態勢を戻し切れていないアデクに注意を促したのはミリア。同時に、彼女はアデクの相手へと氷弾を撃ち出す。

 それは男の顔へと命中し、彼は「ふべっ」と妙な声を上げて後ろにひっくり返った。

 おとなしいが、意外と容赦はしない。それがミリアクオリティ。


「まあ、観念するんだな、お前ら」


 そして丁度、リベルトがアヤト達の下へとたどり着く。ネロも棚の位置から男たちへと魔導具の照準を合わせていた。

 腕をつぶされた二人プラス頭部への衝撃でフラフラしている一人。

 そんな男たちの前に立ちふさがっているのはぴんぴんしている店主に子供四人。

 子供とは言っても一瞬で三人を負傷させたその手腕に、リーダーは戦力差を悟ったのか舌打ちをする。


「はい、そのまま後ろに下がってね。ネロさんは縄を持ってきてください」


 五人は男たちを半包囲しつつ、壁際へと追い詰めていく。そしてネロはアヤトの指示に従って、店の奥へと向かっていった。

 そして、男たちの背中が壁の棚についたところで、アヤトが再び口を開く。リベルトはアヤトに任せてみるつもりのようで黙ったままでいた。


「んじゃあ、まずはどこの国から来たのかを――っと懐に手を入れちゃダメだよ。どうせ魔導具隠し持っているんでしょ。両手は上げておいてね」


 ゆっくりと手を服の裏に近づけていたリーダーの顔が一瞬引きつる。彼は言われた通りに手を上にあげた。残りの二人も同じ姿勢をとる。


「改めて、どこの国から来たのか教えてくれる?」


「ああ、良いぜ。あんたらの正体をこっちに言うのならな。大人相手にあの戦い。ただの子供があんなの出来ねえぜ」


 ふてぶてしく口の端を上げるリーダー。そんな男に対してアヤトはため息をつく。


「答える気がないならまあいいです、どうせ騎士団に引き渡すので。後は騎士の皆さんにお任せしましょうかね」


「騎士団に引き渡すねぇ。ま、俺たちもそれは困るんでね。ちょっくら――」


「何をっ」


「こうするのさ」


 ニヤリと笑った男に、嫌な予感を覚えたアヤトが叫んだその時にはもう遅い。アヤト達の方を向いていたリーダーの両の手の平がくるりとひっくり返ったかと思うと、そこにあった出っ張りを掴んだ。

 そう、お店の魔導具の端子を。


 瞬間、男たちの背後の棚と壁が轟音を立てて吹き飛ぶ。

 巻き込まれて魔導具がガシャガシャと音を立てて落下し、壊れされた壁から木屑が巻き上がる中、空いた穴から男たちは外へと逃げ出す。

 呆気に取られてしまったアヤト達は、一歩遅れて外に出る。それと、路地が入り組む東地区の構造が相まって男たちの姿は既に消えていた。


「女坊主は単独、ミリアとルーシェが組んで、そこの坊主は俺と組め。三十ミニ経っても見つからなければここに戻ってこい。見つけたらいつもの打ち上げろ」


「「「了解」」」


「は……はい」


 逃げ出した男たちを捕捉するべく夕焼けの街へと走り出す。陽は既に沈み始めていた。

実は肘の件は実話という……


それと、お知らせ。

前回お知らせするべきでしたが、執筆体制を変えたので、一話あたりが今までより長くなります。

今後ともよろしくお願いいたします。

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