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魔法使いは理系です  作者: 山石竜史
二章 アヤトは学生です
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135 店には侵入者です1

お待たせしました。

 その後、詳細について詰め、情報共有もそろそろお開きかというそのとき、急にルーシェが背後の扉、倉庫の入り口へと振り返った。


「どうした、ルーシェ」


「店の中に誰かいます」


「――っ」


 ネロを含め、全員が即座に臨戦態勢となる。


「ネロさん、念のため確認しますけど普通のお客さんの可能性は低いんですよね」


「ええ、少なくとも常連さんではあり得ないわ」


 そう、ネロは情報交換のために店の奥へ引っこむときに「休業」の看板を出しているのだ。さらに、アデクが店の前にいるはずである。普通にお店を利用しようとする客ならば出直してくるはずであった。それにも関わらず店の中に人がいる気配がする。侵入者である可能性が非常に高く、さらにここは技術の結晶である魔導具が集まる魔導具店である。


「スパイの可能性もあるな」


 リベルトが呟く。

 全員が身構えるには十分過ぎるほどの非常事態であった。


「何人だ?」


「三人です」


「ミリアちゃん、敵は魔導具を隠し持ってる?」


「……壁越しじゃあ今は分からない」


「了解。ネロさん、この建物のお店以外のところに出入り口は?」


「もちろんあるわ」


「女坊主、挟撃ってことだな」


「ええ、そうです」


「じゃあ、お前ら三人が裏から店の外に回るのでいいか?」


「僕も同じこと考えてました」


 ニヤリと笑い合うアヤトとリベルト。


「アヤト君、廊下を道なりに進んで右手が玄関よ」


「分かりました」


「全員準備はいいか?」


 明かりを消し暗い倉庫の中、コクリと全員が頷く。


「ネロさんと俺の突入は三ミニ後だ。それじゃあ、作戦開始」


 リベルトの言葉とともにアヤト、ミリア、ルーシェが足音も立てずに飛び出していった。






「なあ、なんで魔導具店なんていうちゃちなところに忍び込んでんだ? 俺たち。普通忍び込むっつったらどっかの研究室とかそういうとこだろ」


「知らねえよ。上からの指示が市井に出回る魔導具の中での最新のものを調べてくることだったんだから仕方ないじゃねえか」


「お前ら、口じゃなくて手を動かせ。いつ店主が戻ってくるかもしれんのに」


 魔導具があふれる店内で男三人。彼らの手には何やらリストらしきもの、そして足元には両手で抱えられる程の大きさの木箱があった。


「ってもこんだけ量がある中からこれと照らし合わせて最新のものを見つけ出すなんて作業、しゃべってでもしねえと気がめいっちまうぜ」


 ぴらぴらとそのリストを振る男。そんな仲間にため息をついて――

 ガチャリ

 その時音を立てて、店の奥の扉が開いた。そこから出てきたのは二十代半ばを過ぎた女性。


「おや、あんた達見ない顔だねえ」


「っええ、どうも初めまして。最近ギルドに登録しまして、遠距離攻撃用に魔導具を使おうと思いましてね」


「なるほど。どこか遠くの国から来てヴァリア公国に住み続けるつもりで登録したのかな? 文字も違うから大変だろう?」


「一体何を? 俺たちこの国出身だが……」


「へえ、じゃあなんであんた達、この店に入っているんだい? 休業中って書いてあっただろう」


「……」


「なんとか言ったらどうなの」


「……いや、欲しいもんが見つからなかったから帰るよ」


 そう言って店の入り口へと向かう男。それに残る二人の男も続く。


「待ちなっ。流石に怪しいあんた達を店主でもない私の判断で勝手に帰すわけにはいかないからね」


「っと、どうした? ネロ」


 そして再び開いた店の奥の扉。今度はそこからがたいの良い三十代ぐらいの男が出てきた。その男はネロと呼ばれた女から事情を聴くと、三人の男を睨みつける。


「ちょっとお前らはそこで待ってな。逃げ出した場合、カルバディアからの諜報員として騎士団に顔と出で立ちを報告させてもらうからな。普通の泥棒なら動くんじゃねえぞ。ネロは棚の魔導具の確認」


「分かったわ」


 一度扉の向こうに引っ込んでから手に紙を持って出てくる女。彼女はそのままさっきまで男たちが居たあたりの棚へと向かう。そして、苦々しい顔をしている男たちの前で商品のチェックを行っていく。

 確認が二段目に差し掛かったころだろうか。三人の男は、店員の女がなにやらリストの紙を振っていること、それも店主らしき男からは見えないように振っていることに気づく。

 そして、その紙にはこのように書いてあった。


 ”これを読んでも声をあげちゃダメよ。あなた達どこかは分からないけどカルバディアからのでしょ。”


 二人の男の眉が一瞬ピクッと上がったが、それ以外に動揺を顔に出すことなく彼らは読み進める。


 ”私は西カルバディアからよ。一応同じ国のよしみで助けてあげる。条件は私の持っているこのリストとあなた達が持っているリストの交換。こっちのリストには最新のものまで載っているし、悪くない提案だと思っているわ。

 もし受けてくれたらあなた達を普通の泥棒と誤認させて逃がしてあげるわ。受けるなら中指で、断るなら小指で自分の腿を三回叩きなさい。”


 チェックを進めていく女の横でリーダー格の男は目をつむる。

 この話は男たちにとってメリットが大きい。実物は手に入らないが最新の魔導具についての情報が手に入り、かつ男たちの素性を誤魔化してくれるのである。

 店のものを一つも持ち出していない今、逃げ出した場合男たちは窃盗の未遂か諜報員どちらかで騎士団に報告されるだろう。この二つだと騎士団の対応がかなり違う。諜報員だと報告された場合、街の巡回と検問が強化されるはずだ。特に検問のほうは強烈で、顔と背格好がばれた男たちでは抜けることが非常に困難だ。だから出来れば男たちは窃盗未遂で切り抜けたいところである。もちろん捕まるのは論外だが。

 しかし、逃げた場合に諜報員とみなすと言っているということは、店主はほぼ男たちを諜報員だと認識していると考えて良い。このままでは逃げても騎士団に対応されるだけで、彼らが本国に情報を持ち帰ることなど不可能だろう。

 リストの交換についてはあまり意味がないようにも感じられるが、店主にばれないための工作だとすれば特におかしな所はない。


「……」


 男はそっと目を開いて右手の中指以外を折りたたみ、自分の太股を三回叩いた。

 その瞬間、女の左手からはらりと紙が落ちる。それを見た男はすぐさま自分の持つリストも床に落とす。


「っとごめんなさい」


 女はかがんでリストを拾おうとする。男が落としたほうのリストを。

 男は一瞬店主の方に目をやるが、男の腰まである低い棚が視線を遮り、店主は女の工作に気づかないようである。

 男のリストを回収すると同時に、女は自分のリストを男の手に握らせる。男がかがめば店主に不審がられるからだろう。

 さらにいつ忍ばせておいたのか、女が懐から棚にあったはずの魔導具を取り出し男たちの足元の木箱に入れた。

 そして女は立ち上がってチェックを再開。リストと商品の照合が続き、しばらくしたところで――


「店長っ。飲料水生成の魔導具がなくなってますっ。捕まえましょうっ」


 店の外にまで届くような声で叫んだ。

 その声と同時に男三人は入り口へと向かって走り出す。木箱は置いてだが、リストは握ったまま。

 その時――


「どうしたんですかっ」


 入り口の扉がバンっと開き、まだ十代の学生であろう四人組が飛び込んできたのである。

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