131 お客さんはかわいいです4
「はい直ったよ」
数ミニ後、そう言ってネロは店の奥から戻ってきた。その手には、修理した魔導具と、何やらもう一つ別の魔導具を持っていた。
「アデク君でいいや。修理したこれ、あたしももちろんチェックしたけど、そっちでも動作確認しときな」
言われて、アデクはネロから受け取る。
アデクが側面のダイヤルを回して自分用に調整している最中、ネロはアヤトに手招きした。
「なんですか? ネロさん」
尋ねながら近づくと、ネロは戻ってきたときから持っていたもう一方の魔導具をアヤトに差しだした。大きさは丁度アヤトの拳ほどの大きさ。首にかけるためだろうかチェーンがついている。
差し出されるままに受け取ってしまったアヤトはその手にちょこんと乗ったそれを見て首をかしげる。
「アヤト君にあげるわ。うちの新作」
「えっ、いやいやそんな高そうなものもらえませんよ」
「そんなこと言わずに受け取って頂戴。というか受け取ってくれないと困るのよ。それ確実にアヤト君にしか使える可能性はないだろうしね。本当は五年前にもっと別のを初等学校の入学祝いとして渡すつもりだったんだけど表向きとしてはいなくなっちゃったじゃない。だから、高等学校の入学祝いと合わせて丁度完成したばかりのこれを渡すことにしたのよ。教授にはいつもお世話になってるし、アヤト君かわいいからね」
「……そこまで言うなら、ありがとうございます」
ネロの言葉にものすごく違和感を感じてはいたが、アヤトはペコリと頭を下げる。
「でも、ネロさん。僕の魔力特性数値知ってます? ゼロですよ。そもそも魔法使えないんですが」
「うん、公的にはそうだね」
公的には――
その言葉を聞いた瞬間、アヤトは目を剥き、身構える。
ミリアとルーシェも気がついたのだろう。アヤトの隣ですでに臨戦態勢だった。
ピリピリとした空気に気づいて振り向いたアデクは、しかし状況がわからず置いてけぼりだった。それもそのはず、三師団のメンバーでないアデクは知らないのだ。
アヤトの特性数値が公的な記録ではゼロ――つまり、非公式にはそうではないこと。実は魔法を使うことが出来ることを。
三師団以外には明かされていないその情報をアデクと同様、三師団のメンバーでないネロは本来知らないはずである。それなのに、その情報を握っていることをにおわせる発言。
三人が構えるのも無理はないだろう。
そして、睨まれているネロはさして気にした様子もなくアデクに声を掛ける。
「アデク君、魔導具のチェックは終わった?」
「は、はい」
「それじゃあごめんだけど一旦店の外に出ていてくれるかな」
促され、アデクは一触即発の空間から逃げるように出口へと向かっていった。
そしてドアがパタンと音を立てて閉まると、ネロは口を開く――




