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魔法使いは理系です  作者: 山石竜史
二章 アヤトは学生です
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127 走った後は班別行動です

すみません、遅くなりました。

 見渡せば屍の山……ではなく息を切らして横たわっている上級生たち。今この場で立っているのは隊長と副隊長にアデク、そしてアヤトたち六人だけであった。戦闘や模擬戦があったわけではない。ただ走り込みが終わってばてているだけである。


「おいおい、一年以上もやっているのにだらしないなあ。なあ副隊長」


「いえ、隊長。この状況を作り出した張本人が何をおっしゃっているんですか」


 そう、隊員たちが倒れているのは彼らの体力が無いからというわけではない。それどころか、普段の激しいトレーニングのおかげで同年代と比べればかなりの身体能力を持っているのである。なのにこうなったのはひとえに出発前の隊長の言葉のせいである。


「ようし、お前ら。走り込みだが……新入生に負けるようなお前らはもっともっと自分の体を鍛えたいよな。だから、今日からスピード三割増しで行くぞ」


 これに、昨日の模擬戦の結果を受けて気合が入っていた隊員たちが乗り気になったのだ。

 今までも全速力の七、八割程度のスピードで広い公都を十周近く走っていた。それにも関わらず、同じ距離をその三割増しの速度で走れば……結果は御覧の通りである。


「ハァ……ハァ。お前らすげえな。こんだけ走ってほとんど息切れてないじゃないか。ほんと村からいなくなった五年の間、何してきたんだよ」


「いや、まあいろいろあって鍛えて来たんだよ。でも、アデクも十分すごいじゃないか。僕をからかってきていた頃には、こんなにも真面目に努力する姿が見れるなんて思いもしてなかったよ」


「頼むから、あの頃の話はやめてくれ……」


「あの頃っていうと、アヤトには強気だったけれど私には何故かビビっていた頃かしら?」


「やめろぉぉぉぉぉぉ」


 突っ伏すアデク。彼の心にダメージを与えたルーシェの後ろでは三人組がなにやらひそひそと。


「とは言っても、ルーシェの威圧相手にビビらない奴っているのか?」


「どうだろうね。三師団のメンバーなら大丈夫かもしれないけど……ああ、もちろん三師団って言っても僕は無理だよ」


「ビート、大丈夫だ。俺も無理だから。」


「……zzz」


「ギームは……どうなんだろう」


「……夢の、中にー……。悪魔が……」


 アレフとビートはギームの顔が青ざめていくを見た。おおよそ何が起きても寝ているギームがそんな反応をしたことで、二人の中に戦慄が走った。


「「やっぱりやべえ、ルーシェ(ちゃん)」」



「お前ら、集合だ」


 そこにかかる隊長の号令。いつの間にか倒れていた隊員たちは復活していた。流石に日々訓練を積んでいるだけはある。ばてても復活は早かった。


「それじゃあ、今日のメインの活動に行くぞ。まずは副隊長とアデク以外の奴ら。お前らは俺と一緒に基礎戦闘訓練だ。もちろん文句はないよな」


 アデクの扱いに対して異論が出るのでは?

 アヤトは一瞬そう考えた。しかし、上級生たちからは一切の文句は出てこなかった。どうやらアデクは上級生たちにも十分実力者として認められているらしい。

 アデクはやっぱりすごく変わったな。

 そう思いながら、アヤトは隊長の次の言葉を待つ。


「次に、一年生組だが、副隊長とアデクにこの街の案内をしてもらえ。それと同時に巡回のやり方を教わるんだ。副隊長とアデクもそれでいいな。魔導具店の案内とギルド登録忘れるんじゃねえぞ」


「はい」

「了解です。隊長」


「一年には三人ずつに分かれてもらうつもりだが、そうだな……確かお前ら三人は三人で組んでこそ真価を発揮するみたいだし、アレフ、ビート、ギーム組とアヤト、ミリア、ルーシェ組にしようか」


 その後、アヤト側にアデクがつくことになり、アヤトたちは公都に繰り出すことになったのだった。






「アデク。さっきから気になっていたんだけどなんでその魔導具持ってきてるの?」


 アレフ組と別れて、東側に向かったアヤトたち。北地区東側の巡回順路を教わって、次は東地区の職人街へ差し掛かる頃にアヤトは疑問を呈した。アデクの手には、アヤトが処理したあの魔道具が握られていたのだった。


「これか。これうちの備品でな。故障しちゃっているんだ。まあもともとこれ単体じゃ使えないんだが、いつ使うかも分からないし魔導具店を案内するついでに修理の依頼をするんだ。それにしてもなんで壊れたんだろうな」


「ああ……」


 自分が壊した魔導具の修理と聞いて、微妙な表情を浮かべるアヤト。その横で、アデクは「あっ」と声を上げる。


「そうだ、アヤトって魔導具いじりが得意って言ってたよな。それにミリアは魔導具店の娘じゃないか。何か意見を聞かせてくれないか? これ、使用の三十ミニ前にチェックしたときは問題なく動作したんだよ。けど、実際に使用したときには既に壊れていた感じだったんだ。もちろんチェック後はずっと身に着けていたし、原因がわからないんだ。」


「えっと……中身を見てみないとどうにも言えないかな……」


「まあ、そうだよな。っと着いた。ここだ」


 アヤトが誤魔化している間に、四人はある店の前にいた。歩いてきた通りと目の前の店構えを見て何かに気づいた様子のアヤト。


「ここは……」


「ん? どうしたアヤト」


「ここって魔導具店なんだよね?」


「そうだぞ。俺たち維持隊の行きつけだ」


「店主の名前は?」


「なんでそんなこと聞くんだ? ……まあいいや、店主はネロさんっていう女の人だ。珍しいだろ」


 どこか見覚えのあった景色が頭に引っかかっていたが、アデクの言葉を聞いて得心する。

 彼らの目の前にあるのはアヤトが六年前に訪れたネロさんの魔導具店だった。

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