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魔法使いは理系です  作者: 山石竜史
二章 アヤトは学生です
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125 紹介は事故です

遅くなりました。すみませんでした。

「順番が前後しちまったが今日の本来の目的、自己紹介といこうか」


 隊長は自分の横に、アヤトたち一年生を並べる。


「まずはお前らからやれ。現隊員の紹介は後だ」


「えーっと、自己紹介って何を言えばいいでしょうか」


「名前、出身、魔力色。あとは得意なこととかでも言っておけ」


 それに、了解と答えると、六人は集まって話し合う。


「じゃあ、俺から行きます。

 俺はアレフ。この国のアルヴ村出身だ。魔力色は橙。得意なことは……別に剣とか戦闘とか得意なわけじゃないしな……」


 アレフの呟きに崩れ落ちる隊員たち。アレフとビートに惨敗した上級生だ。隊長は彼らを見てゴホンと咳ばらいをしアレフに続きを促す。膝をついていた隊員たちは慌てて立ち上がる。


「強いて言えばビートとギームとの連携かな。俺からは以上。よろしく。

 次はビートだな」


 アレフは一歩下がり、ビートと交代する。ビートは隊員全体を見据える。


「僕はビートです。出身はアレフと同じくアルヴ村です。魔力色は赤色。得意なことは……勉強? 先輩方よろしくお願いします。」


「なんでこんな場で言う得意なことが勉強なんだよ」


 一礼して戻るビートに飛ぶ隊長のツッコミ。隊員の間から少しの笑いが漏れる。


「んで次は誰だ?」


 隊長が言うと、アヤトたち五人は一斉にギームの方を見る、が……


「……zzz」


「「「「「……」」」」」


 船をこぐギームに全員が押し黙る。しばらく待っても起きる気配はない。アレフが渋々といった様子でギームの横に立ち、彼の袖をひっつかんで前に出た。


「こいつの名前はギーム。出身は俺らと同じアルヴ村。見ての通り寝てばっかの奴だ。魔力色は悔しいことに黄色。得意なことは多分盾術っていっていいだろう。こんなんだが、これまた悔しいことに俺らの中で一番防御が上手い。騎士団の人でも崩すのに一苦労だったみたいだからな」


 アレフがそこまで説明したとき、ギームの目が半分開いた。


「よろし……zzz」


 そして寝た。


「挨拶ぐらい最後まで言えよっ」


 アレフのツッコミにもかかわらず、結局ギームは目を覚まさない。仕方ない、とため息をつきアレフはギームを引きずって戻っていった。

 そして代わりに前にでるのはルーシェ。男所帯の隊員たちから、待っていましたと言わんばかりに期待の目が向けられる。


「私はルーシェ。出身は…………ねえアヤト、私の出身ってどこかしら?」


「えっ……と。アルヴ村にする? それともここベルバリアにしとく? うーん。あ、ディーさんたちからはなんて言えって言われてたっけ? 三師団にはその報告いらなかったし……」


「まあいいわ。とりあえずみんなと同じアルヴ村で」


「とりあえずってなんだよとりあえずって」

「記憶喪失でもしたのか」


 ざわめきが広がる。そんなことは気にせず続けるルーシェ。


「魔力色は青。得意なことは……侵入? 暗殺?」


 魔力色を聞き、おおーと盛り上がった隊員だが、そのすぐ後の言葉で困惑が広がる。


「おいおい、おっかねえ」

「出身にしろ、なんか危ないっ?」

「やべぇ、聞いた俺ら殺されるんじゃねえの?」

「俺の部屋に侵入してくれねぇかな……」

「ちげえよ、もう俺の心に侵入済みだ」


 若干名変なのもいたが、大多数が青ざめるのを見て慌ててアヤトが止めに入る。


「はい、ルーシェちゃんでした。みんな彼女をよろしくね。次、ミリアちゃん、早く」


「アヤト、どこかいけなかったかしら」


「うん、もうなんか全般的にやばい人感が半端なかったからね」


 小声でそんなやり取りをする二人を見送り、前に出たのは紅目の少女。彼女のおっとりした様子に隊員の間で弛緩した空気が流れる。


「……私、ミリア。アルヴ村から来た。……無色。得意、んーと……魔力見ること」


 つっかえつっかえだが話していくミリアちゃんになごむ隊員。しかし、『魔力見ること』の発言で全員の口が開きっぱなしになる。

 彼らの驚愕も無理はない。普通魔力というもの自体は見えず、皆が魔力の流れと認識しているのは魔力のエネルギーの一部が空気などの媒体に渡ってしまってできた揺らぎ。熱変化などによる揺れを見ているだけなのである。このように見えないはずの魔力が見えるというのは驚くべきことなのだ。彼女の父、フリッツも見ることができるのだが……それは置いておこう。

 そろってあんぐり口を開いたままの隊員たちを前にしたミリアちゃんは、その異様な光景に固まってしまっていた。アヤトはそんな彼女の肩をたたく。


「挨拶して戻ろうか」


 ミリアちゃんはアヤトの言葉にうなずく。


「……よろしく」


 そうして戻ったミリアちゃんと入れ替わってアヤトが隊員の前に立つ。呆けた様子の彼らを見回すと、アヤトは一つ手を叩いた。我に返る隊員たち。


「僕はアヤト。出身はアルヴ村」


 彼の高く透き通った声に隊員たちは再びざわめく。


「おい、ボクっこだぞ。このまえ借りた本にそんなヒロインがいた」

「まじか、なんかいいなそのボクっこっての」

「なんであの子男子制服着ているんだろ」


 隊員たちのひそひそ声を聞いたアヤトは顔を引きつらせながら一気にまくし立てた。


「ああー、もうなんでいっつもそんな反応なんだよ。僕は男。間違えないで。もういいや続ける。魔力色は無色。というか公的に登録されてる特性数値はゼロ。得意なことは格闘術と魔導具いじりかな」


 あまりにも意外な情報のオンパレードに隊員たちは次々と頭をパンクさせていき、


「はぁぁぁぁぁ?」


 そんな声が幾重にも重なって学校中に響き渡るのだった。

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