117 用件は勧誘です2
懐から赤い何かがちらりと見えた。その瞬間、僕たちは危険に備えて身構える。しかし、
「すまん、これを見せるのを忘れてた。」
そう言ってリベルトさんが取り出したのは一枚の紙だった。一瞬で高まっていた緊張感が霧散し、膝から力が抜ける。そんな中でも警戒を続ける父にその紙が渡される。
「この紙は何だ?」
「見りゃわかるだろうが。一応俺の身分証明書ってことになるな。普段は持ち歩いちゃいけねえから、出すの忘れてたが。ほらそこに騎士団総長の印章があるだろ」
「いや。俺たちそんな印章見たことないから」
騎士団関係でやり取りされる文書なんて見たことがある人のほうが少ない。そのため、いくら総長の印章と言われても本物だとは判断できない。だから、証明書自体が信用できるか怪しいと訴える父。そこに横から手を伸ばす影が。その影は父の手元を狙って腕を突き出し――証明書をひっつかんでギームのお母さんに渡した。
「何やってるの? ルーシェちゃん」
ポケーっとその影、ルーシェちゃんの動きを目で追っていた僕が尋ねると、彼女はこう答えた。
「ギームのお母さんなら見たことあるんじゃない? 騎士団長の奥さんなんでしょ」
その言葉になるほどと思い、期待に満ちた視線を向けてみる。
「ああ、こりゃ本物だねぇ。うちの夫が有頂天になって見せてきた第三警邏団長の証明書にこんな印章があったよ。こんなところで喜んでるんじゃなくて、この印章を押せる立場になってから喜びなさいって尻をひっぱたいた覚えがあるねえ」
ギーム母の返答に男性陣は苦笑い。どの家庭でもやはり母強しなのか。なんとなく横をみると、ミリアちゃんがルーシェちゃんに向けてサムズアップをしているのが見えた。なんの意味があるのだろうか。それはともかくとして、証明書は本物だとわかったのだが、父はまだ難しい顔をしている。
「身分が確かなことは理解したが、それでもやっぱり――」
「オスカーさん、アヤトも乗り気みたいですし、とりあえず説明を聞きましょう」
父の言葉を遮ったのは母だった。そして母はリベルトさんに鋭い目を向ける。
「返答によっては何があろうとアヤトを連れて行かせませんからね。それじゃあ、答えてもらいましょうか。まずはそうですね、アヤトたちを連れて行って何をさせるつもりですか?」
「まずは訓練を受けてもらうところからだな」
「大けがを負わせるようなことはないんでしょうね」
「当たり前だ。次世代の育成を目的にしてるのに無茶な訓練で再起不能にしたら意味がないだろう」
「私からもいいかい?」
そう言って手を挙げたのはビートのお母さん。
「何年ぐらい連れていく気だい?それと、連れて行くってことはここの初等学校からいなくなることになると思うけど、教育はどうする気だい?」
「十歳からは普通に高等学校に通わせるぞ。それまでは、団員に本職が教員の奴がいるから夕方から夜にかけてそいつに教えてもらう。まあ、あと大学教授もいるし大丈夫だろう」
「ふぅん」
その後も、母ーズによる尋問……もとい質問タイムは続いたのだった。
遅くなってすみません。
引っ越しでバタバタしていました。




