9 おつかいは楽しいです2
魔導具店の前でフリッツさんを説得しようと試みていると。
店の戸口から誰かの視線を感じた。
そちらを向くと、その誰かは驚いた様子で顔を引っ込める。
しばらく見ていると、また半分だけ顔が出てきた。
こちらから見える彼女の右の紅い目と僕の目があった。
そして……彼女は凍ったかのように固まった。
僕の視線を追ったようで、フリッツさんはようやく彼女の存在に気づく。
「ミリア、そんなところに居ないで、こっちに来いよ。」
フリッツさんがそう言うと、ミリアと呼ばれた少女はおずおずとこちらに近づいてきて……フリッツさんの後ろに隠れた。
僕より少し背が低いその女の子はそこからこちらの様子を伺っている。
「ミリア、ちゃんと挨拶しなさい。」
フリッツさんがそう言うと、女の子は少しだけ顔を出して
「こ…こんにちは。ミリア。さんさい。」
と言って、またフリッツさんの後ろに隠れて、フリッツさんの服をぎゅっと掴む。
セミロングぐらいの長さで、ツーサイドアップにまとめた亜麻色の髪が揺れる。
……なっ…なんだ、この可愛い生き物は。
――はい、そこ、精神的ロリコンとか言わない。
「坊ちゃんも自己紹介してくれや。」
「ぼくはアヤト。アヤト・フォンターニュ。おなじさんさい。よろしく、ミリアちゃん。」
ミリアはこくりと頷く。
「見たとおり恥ずかしがり屋な娘だが、仲良くしてやってくれ。」
「はい。」
そう答えながらも僕は、
娘?娘って言った?あれがフリッツさんの娘?
に……似てない………
少したれ気味な目元も、小さくてかわいらしい鼻も、
美しい貝殻のような耳も、きゅっと締まった口元も、
フリッツさんのワイルド?っぽい顔とは似ても似つかないんですけど。
「うちは魔導具店だからな、ミリアも当然もう魔法のことは知っている。時々、魔導具について聞いたりしてくるからいろいろ教えている。坊ちゃんと話が合うかもな。坊ちゃんも魔法好きなんだろ?」
「はい、そうです。」
と答えながらも、心の副音声は
(魔導具店の子供?魔導具のことを教えてもらえる?なにそれうらやましい。)
である。自分は魔法研究者の父に教えてもらっていることを棚に上げて。
「そうだミリア、アヤトと遊んできたらどうだ?」
ふるふる……
彼女は顔を赤らめながら首を横に振る。
「すまんな、坊ちゃん。」
「あなたー。そろそろ始めないとー。」
そんな声が店の方から聞こえてくる。フリッツさんの奥さんだろうか。
「もうそんな時間か。じゃあな、坊ちゃん。また今度ミリアと遊んでやってくれや。」
そう言って、フリッツさんとミリアちゃんは店に戻っていった。
ミリアちゃんがこちらに小さく手を振っている。
か…可愛い。
しばらく我を忘れていた僕が現実に復帰したのは、それから三ミニ後のことであった。
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