106 今日は謹慎です1
本の迷路。
家の書庫は謎の充実度を誇り、
そんな比喩が思い浮かぶほどだ。
何度見ても並んだ本棚に圧倒される。
印刷技術がまだ発展していないというのに
この本の量は一体どうしたものなのだろうか。
しかも、ここ二階から地下までのフロアまで続いているというのだから驚きだ。
僕は四年前には読めなかった一番手前の棚の本を手に取る。
確か読めない字があったんだっけ。
これまで読んできた本と、文学の教科書のお陰で分かった。
この国には、平仮名と漢字のように二種類の文字があったのだと。
絵本以外、大人が読むことを想定した本には漢字にあたる文字がふんだんに使われていたのだ。
本来、初等学校から習い始めるのだが、読書量が多かったお陰か、
ページをめくると少しは読めるようになっていた。
その本を棚に戻し、本棚と本棚の間を進んでいく。
先に入った父は書庫の階段を降りていったのかこのフロアには居なかった。
どうしよう、当初の予定通りおとなしくここで本を読むか、
それとも父を追いかけていってみるか。
数瞬迷って、僕は階段を降りることを選択する。
一つ階を降りるとやはり本の壁。
小さいころ不思議に思っていたデッドスペースの原因がここ一階の書庫だ
ここに入る方法は二階の書庫から降りてくるしかない。
その階段と、地下に降りる階段は書庫のちょうど反対側である。
再び父を探しながら歩いていく。
そういえばこの辺りから魔法関係の本があるんだっけか。
昔、探索と称して本の背表紙、表紙、一ページ目を見ながら
どんな本が置いてあるのか確認してみたことがあった。
そのときの記憶を頼りに父が居そうなところを見ていく。
ここに居る可能性が高いと思っていたのだが、
しかし父は見つからなかった。
うっすらほこりを被っている本を眺めつつ階段に向かって進んでいく。
そして、ついに地下へ向かう階段にたどり着いた。
地下にいるのか。
でも、父は一体何の本を読みに来たんだ?
数度、地下に足を踏み入れたことがある。
そのとき見て回った限りでは、なんかすごく古い本ばかりだったんだよな。
なにかの建物の設計図とか、歴史書っぽいのとか。
公都で父が言っていた王城の地図っていうのもここにあったのだ。
そんなことを考えながら階段を降りていく。
そして、書庫の地下階。
少々冷たい空気がスッと肌を撫で、
紙と古いインクの匂いが立ち籠めている。
その中を進み、フロアの端にあるデスクと椅子。
そこに父が居た。




