初めての召喚!
ミニお兄さんが虎もどきの周りを飛び回り注意を引いてくれています。
「Gyoooo!」
変身した私は勇気を振り絞ってしっかりと杖を構え直します。
そう、今私には、お兄さんとの契約で知識がある。その知識に従えば、私の魔力は膨大だ。魔法界から使い魔を召喚する魔法。それをぶっつけ本番で成功させてみせる! じゃなきゃあの虎もどきに私は殺される。
『はるかむかし、多衆の誹謗と怨嗟により封印されし魔の犬よ、我の力となりて、偽を破壊せよ!』
私の眼の前に綺麗な毛皮に包まれた全長2メートルほどの狼が現れた。
「クゥウォーン!」
「やった、成功した‼︎ フェンリルよ、そこの虎もどきを倒して!」
なるべく舐められないように強がって命令をする。もし、言うことを聞いてくれなかったら……と不安になるけど。どのみち殺されるならあんな虎もどきじゃなくてこっちの綺麗な狼の方がいいなと思った。
「クゥウゥーン(承知した! )。」
召喚した魔の犬、フェンリルが吠えると私の頭の中に声が聞こえた。どうやら魔力的な繋がりがあるみたい。フェンリルは虎に向かって駆けると、首元に噛み付いて虎もどきと揉み合い出した。
「カンナ様! さすがですね。」
(計画通りだ。これでルシファー様の命令をこなす事ができる。それにしても素晴らしい魔力だ。あとは彼女の使い魔がどんなものになるかだが……)
「あ、ありがとうございます! でも私は何も…」
ミニお兄さんが怪しげな笑みを浮かべて私を褒めてくれました。なんだかお兄さんはミニな感じで怪しげな笑みもシュールで、どちらかというと虎もどきの方が怖いです。
「いえいえ、流石でございます。お、倒したようですね。」
気づくと虎もどきは煙になって消えました。フェンリルも敵を倒すと足元に魔法陣が広がって地面に飲み込まれていきました。
「ふ、ふぅ〜。怖かった……。い、いったい何が起きたんですか? 」
安心した私は地面に座り込んでしまいました。目の前にいるミニお兄さんに話を聞きます。
「そうですね…カンナ。とりあえずどこか休める場所に行きましょう。」(使い魔の召喚を教えなければ…。)
そういってミニお兄さんが指をパチンと鳴らすと、足元に魔法陣が広がって、私もろとも地面に飲み込まれてしまいました。
「え、えぇぇぇ〜〜! 」
カンナが魔法陣に飲み込まれた後……
「とてつもない魔力があると思ってきてみたら……。」(あの魔力、あの子の魂はとても美味しそうね……。様子を見て正解だったわ。)
しゃがみ込み、カンナが飲み込まれていった地面を恍惚とした表情でなでる。氷の女王。そこに忍び寄る影があった。
「ニャーオ。」
猫である。赤いランドセルに洋服を着ている黒猫である。毛並みも艶やかで誰かの飼い猫が紛れ込んでいるのだろうと氷の女王は考えていた。
「! な、なんだ。ただの猫ね。びっくりした。とこかの誰かの使い魔かと思ったわ……。それにしても可愛い格好をしてるわね。ランドセルにその洋服……ほら、おいでなさい……。」
「ニャーオ……。」
呼びかけを無視して立ち去っていく猫。氷の女王はめげずに追いかけようかと思ったが妹、ゆりこが煩いだろうと思い、帰ることにした。
「ふふ、まあゆりこで遊べばいいかしら……。ふふふふ。あはははっ! 」
そうして氷の女王、黒羽黄泉子は立ち去っていった。
カンナがいた公園近くで先ほどの猫とそっくりな格好をした少女がいた。猫っぽい少女は家への帰路についていた。
「はは、まさかああいう風になるなんてね。まあこれはこれで面白いかしら。」
その少女は道すがら、何かを探していると思われる中学生ぐらいの少年と出会った。気分のよかった少女はその少年に尋ねた。
「お兄さん、どうかしたんですか? 」
「あ、いや〜杖を探していてね。何か見かけなかったかな? トワイライトリリーっていう杖でね……。」
「お兄さん、この日本で道端に杖が落ちていたらすぐにわかりますってば、残念ですけど私は知らないですよ。」(トワイライトリリー……へー、これは面白いかしらね。)
「あ、そうだね……。はははは。って、まあありがとうね!」
少女の発言を気にも留めないかのように明るく答え、少年は杖探しを再開する。少女はそんな少年を無視して帰路につく。その道中で少女は楽しい未来を夢想するのだった。