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001

 玖雅明という人物には不明な点が多々ある。不明と言えば違和感を抱く方がいるかも知れないが、実際に玖雅明の日常や性格は不明なのだ。サングラスの下に隠れた顔は表情が読めず、常に冷静さを欠かさない。淡々と業務をこなす姿は、まるで機械の様だと指摘する者もいた。しかし、私はそうは思わない。玖雅明も我々と同じ人間であるため、感情もある筈だ。そう思った私は彼にインタビューを試みた。すると、意外や意外にアポが取れたのだ。しかも、秘書ではなく本人の口から了承の声を頂いた。


 私は緊張している。彼のインタビューに成功した者はいない。すなわち、私が第一人者となるのだ。後から続く者を考えると、失敗は許されない。彼に無礼な事を訊いて怒らせると、記者全体の損失となってしまうのだ。彼の言葉をノートに書き留め、ICレコーダーで音声も録音する。手順はバッチリだ。後は、彼に飲み込まれず、自我を保ってインタビューを達成せねばならない。なぜなら今から私が相手する人物は、日本が生んだ魔法界のスーパースターだからだ。


 扉を三度ノックし、彼が待つ部屋に足を踏み入れた。部屋の中は生理整頓されており、とても几帳面な性格なのだと見るだけで分かった。その豪快なプレーからは想像もつかない程、部屋の中は整えられていたのだ。


「目が泳いでいるな」


 すると、玖雅明から話し掛けられた。私は思ってもいない事態に動揺してしまい、脳内で必死に言葉を探した。時間が空いて返事をすると失礼になってしまうと思った私は、出来るだけ無難な回答をしてしまう。


 ――御綺麗な部屋ですね。


 社交辞令と受け取られても仕方ないだろう。だが、印象を悪くしないだけマシだと感じた私は咄嗟に答えたのだ。


「それは良く言われる。僕の秘書を部屋に案内した時は絶句していたよ。思っていたのと違うってね」


 どうやら、私は彼を怒らせていないらしい。私は彼に用意された椅子に座って、昨日の晩に練習していた聞きたい事を思い出しながら、彼へのインタビューを進める。


 ――何故、私のインタビューを御受けなさったのでしょうか?


「今まで長期に渡ってのインタビューは有り得なかった。僕は有り難いことに忙しい身分だから、一年のスケジュールが分刻みで決まっている。インタビューを挟む暇も無かったぐらいね。でも、今回のスケジュールは今年のスケジュールを決める前に連絡があった訳。だからスケジュールにインタビュータイムを入れる事が出来た……という事かな」


 どうやら私は運が良かったらしい。玖雅明の多忙なスケジュールに、私の様な一般記者のインタビューを組み込んでもらっただけでありがたいというのに、彼は一年という長期のインタビューに了承してくれたのだ。正直言って、こうして目の間で言葉を交わすだけで、私は光栄だ。


 ――ありがとうございます。日本を背負って立つ貴方の言葉を記録出来て、光栄であります。


「よしてくれ。僕は日本では無名の存在だからさ」


 魔法界では伝説の能力者と知られる玖雅明だが、日本ではあまり知られていない。それでも、魔法界のスーパースターであることは間違い無い。彼が残した数々の功績は、我々を魅了してやまないからだ。


 ――このインタビューを切っ掛けに、貴方の存在が日本でも認められる様に善処する限りでございます。


「僕は他人の声は気にしないからさ。騒がれようと騒がれまいと関係ないな。でも、この歳になると大きな家に一人で住むってのは寂しいから、日本の声もたまには聞いてみたいと思う事も……無い訳では無いね。特に夜は寂しいよ」


 玖雅明は今年で三十八歳。大きなお世話だが、髪の毛も薄くなっており、頭には髪の毛が一本しか生えていない。それでも彼の屈強な体がハゲであることを感じさせない程、スーパースターのオーラを放っている。彼は能力者と言うより、アメリカの映画スターの様な風貌をしていた。


 ――夜ですか。失礼を承知でお聞きしますが、寝られないのでしょうか?


「僕だって人間だから寝られない時もある。でも、そういう時は無理に寝ようとはせずに、家から見える夜景を楽しみながら、好きな日本酒を飲んでいるのさ。やはり酒を飲むと、睡魔が襲われる。とてもいいことだ」


 ――日本酒ですか。


「ああ。安酒だけどな」


 玖雅明の年俸は日本円で百五十億だと発表されている。そんな、日本人で一、二を争う程の長者が安酒を飲んでいるというのだ。私は少々驚きを隠せず、更に深く掘り下げた。


 ――安酒ですか……。それもいいですが、貴方はもっと高価な御酒を飲むべきです。その資格も十分と言っていい程にありますし。


「僕は昔から高価な物に興味は無かった。それは三十八歳を迎える今でも同じ事だよ。日本に帰ったら僕の好きなチェーン店のラーメンを食べるしね。一杯で七百二十円ぐらいの普通のラーメンだ」


 ――庶民派という事ですか?


「ハハ。僕って、根っからの貧乏体質だからね。体が高価な物を受け付けなくてさ……同僚にも笑われているよ」


 玖雅明は笑顔で私の質問に答えてくれる。クールに業務をこなす仕事の姿とは違い、普段の玖雅明はきさくな方だという印象を受けた。



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