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第一話

この話は私の実体験を元にしていません。



 気分の悪い雨の日の事です。私は部屋でゲームをしていました。

 最近発売された3DSのソフトです。いや、それはどうでもいいん

ですけど。

 家には私と一歳年上の兄しかいなくて、その兄もリビングで

寝っ転がってゲームをしていました。


 お互い無言で、でもそれなりに楽しく遊んでいる時に『それ』は

やってきました…。


 午後3時過ぎ、唐突に家のチャイムが鳴りました。

 横着な兄が目で合図をしてきたので、私はゲームを中断し、

重い腰をあげました。

 インターホンの受話器を取ります。


「はい」


・・・・・・。


 無言でした。


 私の声はどちらかと言えばハスキーで、しかも外が雨ですから、

聞こえなかったのかなと重い、受話器を置いて玄関に向かい

ました。


 ドアの凸レンズを覗くと、スーツ姿の男の人が立っています。

 雨で髪が額にはりつき、それは不気味な感じでしたが、

私はとりあえずドアを開けました。


 ザアアア、という雨の音と共に、男の「あ、どうも~」という

声が。


軽快に頭を下げたスーツの男は、素早く名刺を取り出し、私の前に

差し出しました。


「私、こういう者ですが」


 名刺にはこう書かれていました。


営業   甘栗(あまぐり) 売男(うるお)


 マ、マジかよ!すごい名前だなぁ…と思いつつ、

私はその下の会社名を見て、「うわあ…」ってなりました。


「××訪問会社本部」みたいな事が書いてあったのです。


 セールスかよ…早く帰ってもらわないと。

 私がそう考えているのも知らずに、男は気味の悪い笑みを

浮かべて、こう言いました。


「お父さんかお母さんいるかな?」


 男の目線の先を振り返ると、兄が顔だけ出して様子を

窺っています。兄に対応させればよかったなあ。


「今いません」


 共働きの両親を持つ子供お決まりの台詞を言うと、男は顔を

引っ込めて「そっかあ」・・・。


何でちょっと馴れ馴れしいんだよ。


「あのね、じゃあお父さんかお母さんにこの紙渡しておいて

くれるかな」

 私は男が差し出したチラシの様なものを受け取りました。

「あ、はい」


 そこには…あの、聞いて驚かないでくださいね。

 何かヘンテコな機械の写真と、商品説明、そして

値段表示が。

 価格・・・3200万円。


 もうね、目を疑いましたよ。何でこんな高価なものを

訪問販売してるんだってのもありましたし、大体商品名も

おかしいんです。

 『勝手に天津甘栗(てんしんあまぐり)』と、そこには書かれていました。


 男は腕時計に目をやると、笑顔で「もう少し時間が

あるなぁ。きみ、気になるなら商品の説明しようか?」と。


 先に言っておきますが、この男はジョイマンの眼鏡をかけてる方

みたいな顔です。

 しかも雨でぺったりしていて全体的にかなり不気味。けっこうな勇気を

要しましたが、そこは気になるところなので、私は説明をお願い

しました。



 ええと、男が説明した事をまとめます。


『勝手に天津甘栗』とは、その名の通り甘栗を作る機械で、

実現したのは当社が初とのこと。

 まあそりゃそうでしょう…。あなたの会社だけ視点が違いすぎ

ますよ。他の会社は実現どころか空想もしないでしょうからね。


男は続けました。

「本当にすごいのは、この機械が材料を必要としないところ

なんです。空気中の窒素やら微生物やら水蒸気やらを分解

して、甘栗に作り変えちゃう。だから湿っぽい日は通常より速い

ペースで甘栗が出てくるんですよ。ポンポンポンと」


 にわかには信じがたい話でした。そんなの未来の技術じゃ

ないですか。


「すごいですね…」とりあえず相槌を打つと、男は

嬉しそうに

「おお、わかってくれましたか。実はですね、この商品の凄さは

これだけにとどまらないんです」

男はここで声をひそめ、横目を使って周囲に気を配ると

(マンションの廊下には誰もいませんでした)、私にこうささやき

ました。

「このマシンは、スイッチを押したが最後永遠に甘栗を吐き

続けるんですよ!」


・・・・・・。男のキラキラした目は"本気"でした。

 私は適当な感想が見つからず、男の顔をぼけっと眺めて

いました。


 男はやがて笑い出して、「ウソですよ。甘栗が出てくるのは

本当ですけどね。さて、そろそろ帰らないと」


 なんじゃそりゃ…と思う私をよそに、男は帰っていきました。


 兄に言ったところ、「新手の宗教だろう」と見当をつけて

いました。

 私はそうかもしれないと思いました。その後、二度と男が

私の家にやってくる事はありませんでしたが、チラシは今も捨て

られず、私の机の中に眠っています。




続きます

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