メール内容
KRZ48のファン繋がりということで…、盛り上がっているじいさんと摸には大変申し訳ないのだが…。
俺達がここに来た理由を考えてみると、じいさんが依田先生から受け取ったらしいというそのメール内容は、情報収集の一環としても見ておいたほうがいいに違いない。
KRZ48内メンバー目移り浮気論…で真剣に、ときには楽しそうに、そして最後には結局…、自分のお気に入りのメンバーに謝罪をしているじいさんと摸の間に割り込むようにして、俺が口を開こうとした、その瞬間…
「KRZ48のことは、ひとまず置いといて。その受信したというメールを見せてもらえませんか?」
美沙が淡々と、そう切り出した。
美沙のその言葉にじいさんはハッとし、摸も自分がここへやって来た理由を思い出したのか、美沙のほうをチラッと見てから、静かに口を閉じた。
「…うむ。そうであった…そうであったのぅ」
じいさんは小さく頷きながらそう言うと、携帯のボタンを器用に操作して、再び俺達の前に、やはり水戸黄門の格さんが印籠をかざすような仕草をしながら、携帯電話の画面を差し出した。
俺達三人は再び顔を寄せ合って、その差し出された携帯画面を見てみる。
すると…そこには…
To:凛之助ちゃま
件名:下記参照で~す!
添付ファイル1個 2.0KB
本文:先日は貴重なKRZ48のチケットなんぞを頂いてしまい、誠にサンク~スでした!
夢にまで見た私の推しメン!秋素 さあや ちゃんを…。
直に!生で!KRZ48の聖地!神楽坂劇場にて。
この目にしかと焼きつけて参りたいと思っておりま~す!
今から胸がドキドキとして壊れそうなので~す!
…ところで、凛さんの件についてなのですが、私の代理として添付ファイルの者達を遣わせちゃいま~す!
まだまだ荒削りながら…、それでも一番大切な…そぉう!相手の心の痛みが分かる私の信頼出来る生徒達なので~す!
彼らもまた、凛之助ちゃまや凛さんと同じ能力者ゆえ、ご心配なさりませぬように。
彼らの能力は、やはり添付したファイルにて、ご確認下さ~い!
From:ハイハイ!ハ~イ!
頼務・Y
「…」
「…」
「…」
…俺達三人は軽く硬直したまま無言で、その受信メールを読み終え…た。
…分かっていたこととはいえ、 “ハイハイ!ハ~イ!” の口癖に、最後の “Y” の文字…。
依田先生の下の名前は “頼務” 。
…そう、フルネームは “依田 頼務” だ…。
…ということはやはり、じいさんに俺達の個人情報を漏らしたのは、依田先生だったのか。
…まぁ、俺達の能力を知っているという時点で、依田先生しかあり得ないといえばあり得ない訳だが…。
それでもこうやってはっきりと確認出来たことは、精神衛生上おそらく良かったはず…だ。
…それにしても、ツッコミどころ満載のメール内容な訳だが、話しを早く進めるためにも敢えてここでは深く追求はすまい…。
例えば…依田先生がKRZ48のファンだった…ということや。
その中での推しメンが秋素 さあやちゃんだった…ということ。
そしてさらには、彼女を生で見たいがために、じいさんが持っていたKRZ48の劇場チケットと…それと引換えに俺達三人に自分の代理として、このミッションを充てがった可能性がある、ということなど…。
…携帯画面を見つめたまま、身動きしない俺達三人のその向こう側で
「…という訳じゃ!ちなみに添付ファイルの内容は、純粋にお主らの紹介と能力だけについて書かれておったぞ!じゃからそれ以外の感想は、わしの独断と偏見なのじゃ!」
そう明るくじいさんは言うと、神主服の懐に携帯をしまい込みながら、今度は一転、トーンを落とした真剣な口調で
「わしは、依田先生のことを信じておる…。じゃから依田先生が信じておるお主らのことも信じたいと思う…」
そう言って、俺達三人の顔を瞳を順番にゆっくりと見つめた。