俺達の能力(チカラ)
美沙のその言葉を聞いて、じいさんは腕を組みながら
「…さすがじゃ!依田先生が遣わしただけのことはあるのぅ…」
そう言うと、いきなり摸のほうに顔を向けて。
…カッ!とその両目を見開いたかと思うと、次の瞬間、摸の瞳を真っ直ぐに見つめる。
あまりにも突然のことに、摸はビクッ!として姿勢を正し…。
じいさんはそんな摸を見据えたまま、まくし立てるように
「神楽坂学園 高等部 特別科クラス 一年T組 “土屋 摸” !…じゃな?確かお主は…大地を操る能力と、それを利用した探索能力に長けているはずじゃ!」
そう言い放つ。
姿勢を正しながらも、どこかアタフタとしながら、何度も頷く摸をじいさんは見据えたまま
「でも少し、運動不足かのぅ…。ここまで来るのは、さぞかし大変なことじゃったろう、そのポッチャリ体型では、あの石段は特に…」
そう言いながら一人、納得して頷いている。
そして再び…カッ!と目を見開き、今度は俺の顔を見据えると
「…同じく! “風谷 囁聞” !お主は確か…風を操る能力を持っておるはずじゃ!特に…その能力を自身の両足に付与して、素早く移動することが得意じゃとか…相違ない…な?」
俺は思わず
「は…はい…」
そうボソボソッと返事をして、小さく頷く。
じいさんは、そんな俺をやはり見据えたまま
「…まぁ今時の高校一年生といった感じじゃな…。中の下…いやいや中の下の下くらいかのぅ…」
…と、よく聞くと、とても失礼なことを言いながら、これまた納得するように一人頷いている。
でも正直…じいさんのこの言葉に何も反論することが出来ない自分が、微妙に悔しい俺で…あった。
そしてまた…カッ!とその目を見開き、最後は美沙の顔を見据えると
「…同じく! “黒川 美沙” !…お主の家は確か、代々魔術を…特に黒魔術を扱う家系じゃのぅ…。そういう家に生まれたこともあってか、お主は幼い頃より魔術を嗜んでおるはずじゃ。…まぁなぜか雷撃系の魔術しか扱えず、他の魔術は不得手じゃとか…?」
そんなじいさんの言葉に、美沙は小さく溜息をつくと…。
次の瞬間、じいさんからそっと視線を逸らした。
じいさんは、そんな美沙の様子を気にすることもなく
「ショートカットの美人さんじゃ!う~む…わしの見立てでは、上から82 58 84…といったところかのぅ~?」
…これには、アタフタしていた摸も、内心少し悔しがっていた俺も、一瞬でそんなことは忘れて
「「…おぉ~!」」
…と思わず二人で、感嘆の声を上げながら、美沙のことを見つめてしまう。
美沙は顔を一瞬で紅くしながら、じいさんを少し睨むようにして見つめ返すと
「ちょっ…バッ…、な…何を言ってるんですか…!ち、違います!」
そう言ってから、自分のことを見ている俺達二人にも気がついて
「あんた達も何が『おぉ~!』…よ!バッカじゃないの!?雷撃落とされたいの?黒焦げになりたいの?…その覚悟、出来てるんでしょうねぇ?」
そう言ってから、きつく睨んだ。
人前では、自分達の能力は使わない、見せない、隠している。
そんな俺達だが…。
今の美沙なら平然と、俺達二人に雷撃を落とすくらいのことはやりかねない…。
そう身の危険を感じた俺と摸は、スゴスゴと姿勢を正しながら
「コホンッ…」
「…ンンッ」
と、わざとらしく咳払いをして、じいさんのほうへそっと視線を戻す。
じいさんは、そんな俺達三人を見つめながら
「若いということは羨ましいのぅ…。まさに青春じゃ…せ・い・しゅ・ん!」
そう…訳の分からないことを言ってから
「うはははは…!」
と愉しそうに笑った。