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蒼光

身体を悪鬼に乗っ取られてしまった雨宮 凛の後を追うため。

摸の探索能力を頼りに、真夜中の神楽坂学園を飛び出した俺達三人は、人気のない住宅街を走り抜け…。

雨宮神社へと続く、例の108段もあるあの長い石段の真下まで、やって来ていた。

…。

…学園からここに来るまでの間。

摸は集中するようにその能力を発動させては、俺と美沙の二人を必死にナビゲートし。

いつもならば…


“ちょっと休みましょぅ~よぉぅ~”


…と、ほぼ口にするその言葉が、摸のその口から発せられることもなく。

ポッチャリとした体型で懸命にノタノタと走り、一度も休まずにここまでやって来ると(月の光りに照らし出され、いつもよりも恐ろしく見えた美沙のあの鬼のような形相と視線のお陰…という説もあり)、その両肩を大きく上下に動かしながら、ハァハァ…と苦しそうに息をし、少し屈み込むようにして、自分のその後を余裕で追い掛けて来た俺と美沙の顔を交互に見上げて。

そんな摸に


「…摸、大丈夫か?」


そう…労りの言葉を投げ掛けた、俺のそれに応えるかのようにして小さく頷くと。

…そのまま、やはり見上げるようにしてその顔を雨宮神社のほうへ向けて


「…ハァハァ、凛ちゃんはぁ、あそこにぃ…雨宮神社にぃ、いますぅ、ハァハァ…」


そう…言うと、そのポッチャリとした左人差し指で雨宮神社のほうを指し示した。

俺と美沙が、摸の指し示したその方向を同時に見上げ…見つめた、その瞬間。

その…長い石段の先にある雨宮神社で。

まるで神社全体をドーム状に包み込むかのような…蒼白い大きな光りが現れたかと思うと。


“グオッ~~~!!”


…という獣の咆哮にも似たような叫び声が、それと同時に聞こえ。

その叫び声と共に、蒼白い大きな光りは…瞬く間に弾けるようにしては消え失せ。

次の瞬間、辺りは一瞬で、元の真夜中の静寂へと、戻って…いった。


「…今…のは…」


思わず俺が…呟くようにボソボソッと、雨宮神社のほうを見つめたまま、そう口にすれば。


「一体、あそこで何が…」


俺のその言葉に続けるかのようにして…美沙が、そう口を開き


「何にしても…急いだほうがいいことだけは、確かなようね。嫌な…予感がするわ」


雨宮神社のほうを真っ直ぐに真剣な眼差しで見つめたまま…まるで自分に言い聞かせるようにして、そう言う。

美沙のその言葉に俺は小さく頷いて


「…あぁ、そうだな…」


やはり呟くようにして、そう言うと。

未だ呼吸が整っていない苦しそうな摸も屈み込んだまま、その言葉に同意するように小さく頷いた。


…。

俺は…美沙の “嫌な…予感がする” …というこの言葉を聞いて。

内心、なぜだか急に焦り出し。

今更ながら、今…この場が。

一刻を争うような…そんな状況に思えてきて…。

…。

俺が…。

俺達三人が…あの場所へ向かってもどうしようもない、どうにもならないことなのかもしれないけれど。

…それでも。

それでも一秒でも早く、あの蒼白い大きな光りが見えたあの場所へ…雨宮神社へ、行かなければならない、行かなくてはならない。

そして…この件に少しでも関わった者として、そこで…一体何が起こっているのかを自分のこの目で確かめなくては、ならない。

…そう、思えてきて。

そしていつの間にかそれは…。

そうしなければいけない。

そうしないと後悔する。

そんな…とても強い気持ちに変化していって。


…今。

…そう、この瞬間じゃないと。

この先何が起きようと、その未来にどんな結末が待っていようと。

今…。

そう、 “今” …なんだ。

解決策とか、具体策とか、そんなことよりも。

今は…自分のこの目で、そして心で。

出来る限りのことを…納得が出来るような行動が、したい。

…じゃないと。

俺は俺自身に、この先ずっと…納得が出来なくなる、許せなくなる、そんな気が…する。

だから…だから行こう、あの場所へ…雨宮神社へ、と。


俺が…強く強くそう思った、次の瞬間。

まるでフラッシュバックのように。

昨日の夕方、雨宮神社の母屋のリビングルームで逢った…雨宮 凛の表情かおが。

クスクスと楽しそうに笑うその仕草が…。

恥ずかしそうに小さく下を向いている姿が…。

焙じ茶塗れになった俺に…ハンカチを差し出して、ニコッと微笑んだあの笑顔が…。

別れ際に見せた、寂しそうに手を振っているその姿が…。

…脳裏を横切っては、静かに、消えて…いった。

…。


“一刻の猶予も、ない”


俺はその瞬間、決意するように雨宮神社のほうを見つめ、見上げたまま


「摸、美沙、一刻を争うような…そんな気が…するんだ。だから悪りぃ、先に行かせて…もらう」


そうボソボソッと口に出すと…それに対する二人の返答も待たずに。

念じるようにして右手に自身のその能力を集め、それを両足にそっと付与すると。

どこか視線の片隅で、俺のその言葉に小さく頷いている摸と美沙の二人を後に。

韋駄天の如く雨宮神社へと続く…長い長い石段を、風のように登り始めた。

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