摸 ⑦
“ジィ~…カタカタカタカタカタ…”
プリンターからプリントアウトされるそんな音を。
…そして、スピーカーから未だ鳴り響く、ピアノの弾き語りのような、どこか昭和ロマン漂う物悲しげなメロディーを。
寮の自室で僕は、ただ一人聞きながら…。
…。
目の前のPCの液晶ディスプレイに映し出されている、JKJ48の渋いその紹介サイトを。
KRZ48のファン(みううファン)の一人として、責任を持って最後までその隅々に、軽くだけど目を通して…いた。
…あっ!
すると、その紹介サイトの左下の隅っこのほう。
目を凝らしてよく見ないと、分からないような…そんな場所。
こ、こんなところにぃ…。
小さな小さな文字で、説明書きが…。
…。
「へぇ~ “JKJ” ってぇ、そういう意味だったのかぁ…」
僕は感心するようにそう声に出してから、一人小さく頷くと。
…、…。
…。
サイトもあらかた見たし、JKJのその意味も、分かった。
目の前に映し出されている、渋いその紹介サイトから、どこか虚ろに目を逸らしながら。
“JKJ48” のことは、十分過ぎるほど十分に、理解した…はずぅ。
…。
まるでその責任を果たした…と言わんばかりに僕は、緩やかにそう思い、考え、その場で気を取り直すように椅子に座り直すと。
誰が見ている訳でもないのに
「コホホォ~ン、ウウゥ~ン」
わざとらしくそう咳払いをしてから、寮の自室に戻ったときからの当初の目的…KRZ48の公式動画サイトをチェックする、という本来のそれに戻るべく。
…目の前に映る、JKJ48のそれからどこか逃げるように、お気に入りの一覧の中に登録されている “KRZ48公式動画サイト” …そう書かれているタイトルの文字を、急いでクリックをした。
…。
僕がクリックをした、その瞬間、鳴り響いていた物悲しげなメロディーが途切れるようにしてはそこで途絶え、サイトが瞬時に切り替わり。
…ダークで渋い感じのJKJ48のそれとは真逆の、ピンクやスカイブルーなど、明るく爽やかなパステル調の色彩をふんだんに取り入れた、KRZ48のいつもの世界がそこには広がり始め…。
…ただいまぁ、みんなぁ~!
…ただいまぁ、みううぅ~!!
僕のいるべき場所は、最初からここ以外にはあり得なかったんだよぉ~ぅ、ぉぅぉぅぉぅぉぅぉ~ぅ!
感動と共に…少し目を潤ませながら。
“初姉妹ユニット” …たったこれだけの文字に躍らされて、あっさりとそのサイトに飛んでしまった、ほんの数分前の過去の浅はかな自分のことをまるでなかったとでもするかのように。
僕は呑気にウキウキと、手にしていたマウスを器用に操って。
今日は確かぁ、みううの新着動画がぁ…。
…!
やっぱりあったぁ~!!
胸に込み上げてくる熱い気持ちを全身に循環させながら、新着動画のその一覧の中から、 “みうう新着!” …そう表示された文字の上に、ポインタを素早く重ねると、それを急いでクリックする。
すると…ブ~ンという低い音と共に、動画プレイヤーが起動し再生ボタンが表示されて。
僕はソワソワとしながら、その再生ボタンをそっとクリックしてから。
…数秒後に、目の前に出現するであろう、その姿を。
動いて喋っているであろう、その萌え萌えな姿を。
今か今かと手に汗しながら、憧れのその人の登場を、みううの出現を、PCの液晶ディスプレイの前で…一人、怪しく、千秋の思いで、待ち侘び、まくる…。
…。
ソワソワとディスプレイの前で、僕が憧れの人、みううの登場を待っていると。
動画プレイヤーの中、周囲がホワイトに縁取りされたピンクの丸文字で、“みうう新着動画 from KRZ48”…そんなタイトル表記に続いて。
どこかの部屋の壁の前だろうか、誰もいない殺風景な薄いグレーの壁だけが、そこには映し出されて…。
…。
…ぅ。
…ぅう。
…みうぅ。
…みうう!
…みうう!
…みうう!
…みううぅ~!!
その画面を凝視し、いつの間にか、心の奥底から自然と湧き上がってきた、そんな熱いみううコールと共に、どことなく身体が火照ってきた僕の目の前に。
まるで動画カメラの真下からニョキッ!…と生えてくるような形で。
特徴的なツインテールのその髪型とクリっとした大きな瞳。
あのときと変わらない…でもさらに可愛く立派に成長したみううの姿が。
僕と同じ高一で十六歳の、思春期で悩み多きお年頃…の、渡辺 未卯ことあの “みうう” が、優しい笑顔と共に、登場を…した。
「み、みううぅ~~~~~~~~~~!!」
その瞬間、僕の心と気持ちは絶頂に達し、手にしていたマウスを思わず放り投げ、目の前にあるPCの液晶ディスプレイをそっと抱きしめるようにして両手で掴み、小刻みに揺するようにしてはそう絶叫すると。
この一瞬を、この瞬間を、ほんの僅かでも、一秒足りとでも、決して見逃さないように、ドライアイも恐れずに目を見開いて、その画面を、再生動画の中で生きて動いているみううのその姿を、見守り、崇め、奉り…まくる。
…。
そんな僕の目の前で。
みううはまるで天使のようにニコッと微笑んだかと思うと。
『みなさぁ~ん!おはよう~?こんにちは~?こんばんは~?それともおやすみなさ~い?…かな?いつの時間に見てくれていますか~??』
…そう言って、可愛らしく首を小さく左側に傾げてから
『でもぉ~…どんな時間に~…みなさんがこの動画を見ていてくれたとしてもぉ~…みううはあなたの心を~…頂き~…』
「『みうう~~~!!!』」
お決まりの自己紹介と、掛け言葉。
まるで挨拶代わりのようなその掛け言葉のところで、僕は動画の中で微笑むみううと共に声を合わせて、その名前を力の限りに…叫ぶ。
『いつものように~決めのセリフも決まったところで~今日みううはお仕事で…』
そうみううが、僕に向けて何かを語り出そうとした、まさにそのとき。
「…あっ」
小さな何かサインのような、シグナルのような…そんな異変を頭の片隅に感じ取った僕は、空気を漏らすかのように唇からそう音を発すると。
…。
自分の左手の小指に指輪のようにして巻かれている、その黒く艶やかな一筋の髪の毛をジッと見つめ…。
…そしてそのまま瞳を閉じて、そこに全神経を集中させるように、 “探索” …というもう一つの僕のその能力を発動させた。
…。
間違い、ない。
…凛ちゃんが、動き出したぁ。
…。
雨宮神社から、こっちへ…学園のほうへ…向かっているぅ。
…。
僕は閉じていた瞳をゆっくりと開くと。
目の前にある液晶ディスプレイの画面の右下、そこに小さく表示されている時計の時刻を見つめると。
二十三時…五十二分…。
まるで確認するかのように、心の中でそう呟き。
液晶ディスプレイのその中で、楽しそうに話し掛けてくるみううのそんな姿を見つめ直して。
…みうう。
あのときみううが、僕の能力を凄い!…と言ってくれたから。
カッコイイ!…と言ってくれたから。
そしてこの能力が…誰か困っている他の人を助けるために神様が与えてくれた “プレゼント” だと言ってくれたから…僕は、その言葉を、あの出逢いを支えに、何とか今まで頑張ってこられたような気がする…。
…あれからも。
やっぱりいじめはなくならなくて…。
辛くて、悲しくて、落ち込んで、何度も涙を流して。
そのまま不登校になったりもしたけれど…。
それでも…。
みううのその言葉が、あの出逢いが、あったから…。
…だから。
…。
…。
…。
そして…。
それから数年後に、本当に驚いたけれど。
みううが今こうやって、KRZ48のメンバーの一員となって。
ファンとアイドルという僕の一方通行的な再会だったけれど。
…再びこうして、君に出逢えた…ということ。
僕なんかが足下にも及ばないくらい君が、みううが、たくさんの人達に夢や希望、そして愛と勇気を、与えている…ということ。
…。
摸はここでどこか照れ臭そうに、小さく優しく微笑むと。
…ありが…とぉう。
…本当に、本当に、ありが…とぉう。
囁くように心の中で。
そして再びそのまま瞳を閉じて…次の瞬間、何かを決心したかのようにゆっくりとそれを開くと。
…みうう、僕は僕なりにだけど。
誰かの力になれるように、助けになれるように、これからもみううのあのときの言葉と出逢いを信じて、頑張ってみるから!
そう…液晶ディスプレイの画面の中で微笑み掛けてくるそんなみううに向かって、心の中で静かに力強く語り掛けた、後。
摸はもう一度、念を込めるように瞳を閉じてから。
学園の中のある場所に移動して、そこから動こうとしない凛の…雨宮 凛のその存在を再び確認し、急いで制服の上着の右ポケットの中から携帯を取り出しては、メールを打ち始める。
…。
そしてメールを打ち終え、PCの液晶ディスプレイの画面の右下に小さく表示されている時計の時刻が…翌日に、丁度正午0時に、偶然にも切り替わったその瞬間に。
To:囁聞くん,美沙ちゃん
件名:凛ちゃんに動きあり!です
本文:今からすぐに校門前に集合ぅ~!
From:みうう推し 摸
…と、書かれたメールを。
その送信ボタンを、そっと…押した。
…。
そして送信ボタンを押した摸は、プリントアウトし終わったJKJ48のメンバーの中の一人の、その顔写真を。
そして…目の前のPCの液晶ディスプレイの画面の中で、楽しそうに微笑み話す、みううのその姿を。
…ほんの数秒間、見つめてから。
摸にしては珍しく素早く、でも傍目から見ると、やはりノタノタと…寮の自分の部屋を飛び出して行った。
「…読者の…皆、久しぶり…じゃの。元気にして、おったか…の?」
そんなくぐもった声が、どこか足下のほうから、聞こえて…くる。
読者の皆さんが、声のしたほうへ…そちらのほうへ、ゆっくりと視線を向けてみると。
そこには…まるで一本の棒のように真っ直ぐな “気をつけ” の姿勢状態のまま、うつ伏せになって寝転ん…いや倒れ込んでいる、神主服姿の凛之助がそこに…。
…。
…凛之助はその状態のまま
「わしは…ご覧の通り…じゃ、全くもって元気では、ない…」
微動だにせずに
「…どうして、そんな所でそんな格好をして倒れ込んでいるのか、じゃと…?」
顔だけをそっと読者の皆さんのほうへ向き上げると
「決まっておろうが!これは主人公というわしに対する不当な扱いへの…この物語への…一度更新の停止をやらかしたバカでおマヌケな作者への…無言の抗議のポーズをしておるところ、だからなのじゃ!」
やはり姿勢を崩さずに、口を開くと
「…前回のあれから、作者本人を探し出そうとしたが、奴は逃亡の…プロ。どうしても会うことが出来なんだ…。そしてわしがそんな風にもたもたと捜索活動をしている間に、気がついてみれば、神楽坂学園~の物語は、個々人それぞれのパートへと、内容が勝手に怪しく移行し、よく見てみれば、その中でわしの物語は登場人物中、最短話数の、たったの…二話!…二話ぽっくり、いやぽっきりじゃぞ!!…そ、そんなこと、そんなことがあってなろうか!わしは…わしはこの物語の主人公なのじゃぞ!スーパーハイパーミラクルな、 “ソレ” なのじゃぞ!!…だのに…だのに…」
落ち込むように顔をゆっくりと…下へ下へ、元の地面の上にそっと戻すと。
くぐもった声で再び
「読者の皆もそう思わんか!?わしへのこの仕打ち!この狼藉!!酷いとは思わんか!?」
そう口にしている内に、次第に感情が昂ってきたのか
「こんな扱い…嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃぁ~!!」
まるでスーパーマーケットでお菓子を買って貰えない子どものように、その場でバタバタと手足を動かし、騒ぎ始め…る。
………。
……。
…。
…そして、一分とも経たない内に、体力を使い果たしてしまったのか。
ゼェゼェ…と肩で息をしながら、その場で一本の棒のように…冒頭のような元の真っ直ぐな気をつけ姿勢の状態に舞い戻ると
「…、…。…、…!?」
ふとそこで、何かに気がついたように
「…ま、まさかとは思うが。ひょっとして、わし、実はこの物語の主人公では、ないのでは…??」
呟くようにボソッボソッとそう口に出してから。
その抗議のポーズのまま、身動き一つしなくなってしまった凛之助なのであった…(続…いてしまっています、あとがきのコーナー…。でも凛之助もやっと自分が、この物語の主人公ではないということに気がついてくれたようですし、今度こそ本当にこれで終了に…ということで、書くことに挫けそうになってしまってばかりの毎日ですが、そして一度更新をストップさせ、さらに更新が週一回になってしまっている、本作品ですが…。皆さんから頂いたメッセージ(それがプラスの意見でも、マイナスの意見でも)により、何とか乗り切れ頑張れている私がいます。いつもこのような拙い文章を読んで下さって、気持ちを届けて下さって、本当に…本当にありがとうございます。再び更新をストップする可能性も多いにありますが、何とか最終話まで辿り着けるように、本作の登場人物共々、最後まで暖かい目で見守って下さると嬉しく思います。よろしくお願い致します)。




