一目だけでも
俺達三人の瞳を、順番にゆっくりと見つめたじいさんのその瞳は、どこか切なく寂しげだった…。
普通の人から見れば “普通” じゃない俺達にとって、様々な事情があるのは仕方が、ない…。
今回の件も、この雨宮 凛の件も、目の前にいる雨宮 凛の保護者であろうこのじいさんが “会わせることが出来ない” という以上は、俺達三人にはもう為す術は何も無いだろう…。
素直にこのままここを失礼して、明日ありのままを依田先生に報告することで、俺達のミッションはクリアされ、単位取得の温情も受けられるはずだ。
…でも、俺は思っていた。
せっかくあの長い石段を登ってまで、ここまでやって来たんだ。
せめて本人に… “雨宮 凛” に会ってみたい…。
ひょっとして、雨宮 凛が可愛いかもしれない!…とか。
美人かもしれない!…とか。
そんな浅はかな気持ちは全然、多分、少しだけ…いや全くない、はずだ!
依田先生も女子生徒の…雨宮 凛の様子を見て来て欲しい、と言っていたではないか!
これは絶対に会わなければならない!
本人に!雨宮 凛に…一目だけでも!!
俺の思考が思い切り自らの欲望に傾き始め、その浅はかパワーの力を貸りて
“…すみません、事情があるのは分かるのですが…。俺達もその…何というか…。凛さんと同じタイプの訳あり人間ですので、ちょっとやそっとのことじゃ驚きません…なので、一目だけでも本人に会うことは出来ませんか?”
そう俺が口を開こうとした、次の瞬間…
「…あの」
美沙が先に、口を…開いた。
浅はかな俺は、言葉を呑み込み…。
居心地良さそうに座布団に座っている摸と一緒に、そんな美沙を見つめた。
「…おじいさまは…その…雨宮さんの…凛さんのおじいさまですよね?」
美沙の問掛けに、じいさんは頷きながら
「うむ…。そう…じゃが…?」
そう応える。
美沙はそれを聞いて、少し言い難そうに
「…失礼があったら、すみません。先ほど…二人暮らしだと仰いましたが、おじいさまが凛さんの保護者で親代わりをなさって…?」
じいさんは、美沙を見つめながら
「うむ…その通りじゃ。凛の両親は…わしの娘とその婿は…凛が幼い頃に亡くなってしもうたからのぅ…」
そう静かに言う。
「…すみません、変なことを聞いてしまって…」
美沙は申し訳なさそうにそう言ってから、そのまま続けて
「でも、おじいさま…ひょっとしてあたし達三人がここへ来ることを、前もってご存知だったのではないですか…?」
そう言うと美沙は探るように、じいさんを見つめた。
…そんな二人を。
じいさんと美沙のやり取りを…。
俺と摸は傍らで、ただただポカ~ンとしながら、見つめ続けていた。