摸 ④
女の子の不思議そうな表情が…僕の瞳に映って、いる。
…。
ツインテールの特徴的なその髪型…瞬かせた瞳の中には、怯えや恐怖の色はないものの。
僕は一瞬、モジモジするのも忘れて、そのクリッとした瞳を無言で見つめ返しては、いじめっ子達からこんな僕のことを助けて出してくれた、ひょっとしたら…友達になってくれるかもしれない可愛くて勇気のあるこの女の子に。
初対面で、突然、いきなり、何の前触れもなしに…自分の持っているこの不可解で不気味な能力を披露してしまったことを、心の片隅で…いや、心全体で、強く強く反省してしまって、いた。
…。
今までの経験から十分過ぎるほどに僕は、分かっていた、知っていた、はずなのに…。
…やっぱり僕は、この不可解で不気味な能力を差し引いても、その心さえ、どこか普通じゃない、鈍感でダメな人間だ…。
自分自身でそう決めつけるように、女の子のクリッとした瞳から逃れるようにして僕は、視線をそこからそっと逸らす。
…。
自分がどこか…他人とは違う、異なった特殊な能力を持っている生き物であるということに気がづいてから。
散々嫌になるくらいに、人間というモノが、自分の理解を超えた未知なるモノを受け容れる…ということに対して、それがどんなに難しいことなのか…どんなに大変なことなのか…僕はずっと、 “いじめられる” …という形で、毎日のようにそれを体感してきたはずなのに…。
それなのに…それなのにどうして僕はまた、ばれないように隠さなくてはならないこの忌まわしい能力を簡単に、この女の子の前で使用してしまったのだろう。
…ひょっとしたら、友達になってくれるかもしれない、この女の子の前で…。
…。
今更ながらに、あまりにもの自分のそのダメさ加減に、そして情けなさに、何とも言えない…悲しみのような、後悔のような、そんな感情が、心の奥底から全身に湧き上がってくるのと同時に、思わず瞳の奥が、ウルウルとし始めてきて、しまう…。
僕が、瞳の奥から溢れ出してきそうな、涙の粒達を懸命に我慢している、まさにそのとき。
「…今の、土屋くんがやったの??」
僕の瞳を不思議そうに見つめていたクリッとした瞳がその中で…探るように小さく揺れ動いては、そっと瞬く。
…。
…キタ。
…うん、分かっている。
覚悟を…決めなければ。
この女の子も…きっと、同じだ。
あのいじめっ子達と同じように、最初は僕のことを怖がって、避けて、逃げて…。
そしてその内、僕が何もしない無力な弱い存在だと分かると…バカにして、いじめて、攻撃して、挙げ句の果てには…排除しようと、する。
まるで…自分達の理解が出来ない特別なモノは、この世界には必要ない、とでも言うかのように…。
…。
僕は無意識のうちにどこか…硬く怯えた表情になって、溜まった涙の粒達を何とか零さないように。
その女の子のクリッとした瞳を再び見返すと、浅くゆっくりと無言で頷き返した。
…すると、次の瞬間、その女の子のクリッとた瞳がさらに大きく見開かれて。
「凄い!凄い能力!!何だか…アニメのヒーローみたい!!!」
女の子は興奮したようにそう言葉を発すると、キラキラとした瞳で僕に向かって小さく頷き返す。
…?
不可解で不気味なこの能力を披露して、今までに。
いいことなんか全くと言っていいほどなかった僕は。
“アニメのヒーロー” …そんな風に言われたことがとても不思議で、どこか信じられずに。
一瞬で、悲しみも、後悔も、ウルウルの涙の粒達も、瞳の奥に消え去ると。
…次の瞬間、ふいに全身を襲ってきたむず痒いような、恥ずかしいような、そんな怪しい感覚に全身をクネクネと揺らせながら、咄嗟に言葉が出てこずに
“そ、そんなことないですぅ~”
と言うように、首を左右に高速で何度も振り返してしまう。
…。
…そして、気持ちが徐々に落ち着いてくると。
全身を襲う怪しいその感覚も、少しずつ消え失せてゆき、それと同時に今まで誰にも言えなかった言葉が、ふいに口からスッ…と出てきてしまう。
「…でもぉ、みんなはこんな僕のことぉ…気持ち悪いとかぁ、モグラデブとかぁ、地底人とかぁ、色々と言うんだぁ…」
全身のクネクネも収まり、悲しそうに僕がそう言うと。
女の子はそんな僕の顔をジッ…と見つめたまま、目の前にある握りしめていた鉄棒に、再び力をギュッと入れて握り直しながら
「酷い!何でそんなこと、言うの?」
少し怒るように一人、そう言ってから続けて
「誰が何と言っても!土屋くんのその能力は凄いし、私はカッコイイと思う!だから…そんなことを言う人達のことなんて、気にしないほうがいいよ!」
小さく頷きながら
「それに、他の人にはないそんな能力があるってことは、やっぱりアニメのヒーローみたいに、その能力を使って誰か困っている人を助けなさい!…っていう、神様が土屋くんにくれたプレゼントに違いないよ!きっとそうだよ!!」
確信に満ちた口調でそう言ってから、クリッとしたその瞳でニコッと微笑んだ。
…!
…その微笑みを見た瞬間。
僕はなんだか…胸の辺りがとても暖かくなってきて。
でもそれはすぐに、その女の子に聞こえるんじゃないかと思うくらいに、ドキンドキン…という大きな音に変わってきて。
…そしてさらには、全身がとても熱くなってきて。
…?
何かの、病気…かな?
こんなときに、風邪…?でも、引いたの…かな?
女の子のその微笑みを見つめて…僕がポッ~としたまま、そんな風にのんびりと思っていると。
「土屋…くん?何だか顔が紅いけど…大丈夫!?」
微笑み一転、心配そうな女の子のクリッとしたその瞳が、僕の瞳を覗き込むようにして…真っ直ぐに見つめて、いる。
僕は…女の子のその言葉に、そしてその心配そうな瞳に、胸の辺りのドキンドキン…が、収まりきらないまま…ピクッ!…と、全身を小さく震わせると
「…はっ、はいぃ~、だっ、大丈夫でっすぅ~」
そう言いながら、何度も小さく高速で頷き返す。
女の子はそんな僕のことをまだ少し、心配そうに見つめながら
「付き合ってもらって、体調を崩させちゃったら悪いから…あと一度だけ!」
そう言うが早いか、目の前にある鉄棒に視線と身体の向きを戻しては、再び真剣な眼差しで
「…えいっ!」
気合を込めて、小さく叫ぶようにそう声を発しながら…両足で思い切り、地面を蹴り上げた。




