ポニーテールの爺(じじ)
格子状の扉がガラガラッ…と開かれ、そこに現れたのは、白髪に染まった長い髪をポニーテールのように後頭部で一つに結びまとめた神主服姿のじいさんだった…。
そのじいさんは、俺達三人の姿を見定めるように下から上にゆっくりと視線を動かすと、俺達の制服の上着の右ポケットに縫い込まれた神楽坂学園の校章に目を止めて
「…おぉ~、あんた達はひょっとして…依田先生んとこの?」
少し掠れた声で、そう言う。
玄関前で先頭に立っていた美沙は、そのじいさんの言葉に
「…はい、そうです」
そう言いながら小さく頷くと
「担任の依田先生から、同じクラスの雨宮さんの…凛さんの様子を見て来て欲しいと頼まれまして…」
と続けた。
「…ほぉ~、そうかいそうかい…依田先生から頼まれてのぅ…」
じいさんは、俺達三人の顔を目を順番に見つめながら
「…こんな老いぼれと孫娘の二人暮らしじゃ…。たいしたもてなしも出来んが…良かったら入っていくかね?」
そう言って俺達三人に背を向けると…。
…時々促すように短く振り返っては、奥に続く薄暗い廊下の中をゆっくりと進み始めた…。
美沙は素早く振り返って、俺達二人に
“…さぁ、行くわよ!”
とでも言わんばかりに、視線を送ると
「…じゃあ少しだけ…失礼します」
そう言いながら靴を脱いで、じいさんの後に続く。
オレと摸も慌てて靴を脱ぎながら
「…お邪魔します」
「お邪魔しますぅ~」
そう言うと、美沙の後を追いかけるようにして続いた。
…足を、一歩踏み出す度に…ギシッ…ギシッ…と音が響き渡る。
…そんな薄暗い廊下の先に俺達三人を待っていたのは…。
これぞ日本の格調高い古き良き時代の純和風!
…という畳敷きのリビングルーム…だった…。
光沢のある長方形の木目調の立派なテーブルに、厚みのある座布団…。
畳の香りが、まるで森林浴に来たかのようなリラクゼーションを与えてくれる。
俺と摸がそんな部屋を物珍しそうにキョロキョロと見回していると…。
美沙が肘で俺と摸をつっ突きながら小さく睨む。
“あんまりキョロキョロするんじゃないの!みっともないでしょ!”
…おそらく、そういう意味なのだろう…。
じいさんは、そんな俺達三人に
「…そこにお座りなされ…」
そう言って、敷かれた三つの座布団に目をやると、自分は俺達と対面するように敷かれている座布団の上にゆっくりと座った。
「ありがとうございますぅ~」
石段での疲労度が溜まっていたらしい摸は、すぐにそう言うと一番奥の座布団に進み、嬉しそうに座り込む。
続いて俺も
「…失礼します」
そう言いながら、真ん中に敷いてある座布団に座り。
最後に美沙が
「失礼します」
と同じく言って、三枚目の座布団に静かに座った。
じいさんは、俺達三人が座布団に座るのを見届けてから
「…せっかく来てもろうたのに、あんた達には悪いんじゃが…。凛には今、会わせる訳にはいかんのじゃ…。依田先生にはそのように伝えてはもらえんかのぅ…」
寂しそうにそう言うと、俺達三人の顔を目を、やはり順番にゆっくりと見つめた…。