美沙 ①
ほんの一時間くらい前までは数人いた他の生徒達も、今はもう誰もいなくなって…。
…そんな神楽坂学園の図書室の、隅のほうにある大きなテーブルの前に座って…一人、積み上げられた分厚い本の中…まるで埋もれるようにして、黒川 美沙は必死に目の前に広げられた本のページを捲り、そこに書かれている文字を真剣な眼差しで追って…いた。
この方法も、ダメ…。
この方法は、問題外。
そんなことの繰り返しで…もう何冊目だろうか?
特別科クラスのある強みで、ここ神楽坂学園の図書室の中には、特殊能力やそれに関連する文献・書物自体が他の学校の図書室に比べて…いや、街にある普通の図書館と比べても、豊富に取り揃えられているはずなのだが…。
…。
自ら望まぬ “憑依” …や、自ら望んで力あるモノを自身の身体の中に “召喚する” …というケースは、数点発見出来たものの…。
今回の件の人為的に人の胎内に、 “害あるモノを封じ閉じ込める” …というケース自体が稀で…。
しかもさらにそこから、その害あるモノとそれが封じ閉じ込められている器…つまり、道具となってしまっている身体そのものを無傷で分離させる…という方法となると…。
…全くと言っていいほど、見つからない。
美沙は、捲っていた本のページの手を止めて…小さな溜息を、つく。
そして天井に向かって、両腕を伸ばすようにして伸びをした後、目を休めるように二~三秒…瞳を閉じてから、誰もいなくなった図書室の中を見回した。
…ここ、神楽坂学園の生徒 及び先生、そしてその関係者は、携帯する身分証明書でもあるプラスチック製のカードを…生徒は同様のカード式の生徒手帳になる訳だが…を、施設の入口毎に設置された読み取り機にかざすことで、二十四時間…好きなときに好きなだけ、学園内のあらゆる施設を無料で自由に利用することが出来る。
…もちろん一部、職員室や校長室など、入場不可能な空間もあるにはあるのだが。
コンピューター制御とはいえ、本当に便利で快適だわ…。
…。
調べていることから少し、脱線し始めた自分の脳内をリセットするかのように、美沙はその場で首を小さく左右に振ると
早く凛さんを救い出す方法を、見つけ出さないと…。
思い出すのはどうしても、“することは分かっておる”…という凛さんのおじいさまのあの言葉…そして何より、あたしが凛さんの髪に触れたときに感じた、あの物凄い…妖気。
凛さんの限界は…もう既に、かなり近い…はず。
そしてそのことを、結界師である凛さんのおじいさまが知らない訳が、ない。
急がないと、急いで凛さんの身体の中から、悪鬼を追い出す方法を…分離させる方法を、見つけ出さないと…。
…凛さん自身が、悪鬼に乗っ取られてしまう前に…そして凛さんのおじいさまが、再封印の儀式を執り行ってしまう前に…。
美沙は気を取り直すように、目の前に開かれていた本のページに再び目を落とすと…素早くそこに書かれていた文字を目で追い、読み終え、急いでそのページを捲った、次の…瞬間。
捲ったページの冒頭に書かれていたその一説に目を止めて、それを静かに見つめたまま…硬直したかのように、そのままそこで、動きを…止めた。




