囁聞 ④
中学生の頃の姿に戻ってしまった俺は、実家の薄暗い自分の部屋の中で…テレビゲームのスイッチを入れ、そのコントローラーを手にし、テレビ画面の文字を…そこに映し出された“風使いの大冒険 ~The Adventure of Wind boy~”というゲームタイトルの文字を、ジッ…と見つめていた。
…。
テレビゲームの世界のキャラクター達は、俺と同じように特殊な能力を使えたとしても、逆にそれが正義の能力となり、勇者や英雄と称えられることが…殆ど、だ。
…俺はいつの間にか、コントローラーを潰れるくらいに強く握りしめると。
なぜか…溢れ出てきた涙に、ゲーム画面が滲んでよく見えなくても、まるでそれが当たり前かのように、スタートボタンをゆっくりと…押す。
風の魔法を得意とする主人公が、幾多の試練を潜り抜け…最終的に、この世界を手に入れようとしている大悪党の “悪鬼” …を、倒すんだ。
そう、それ “だけ” …で、いい。
それ以外のことは…何も考えなくて、いい。
時折鼻を啜り、頬に涙を流し続けながら…薄暗い部屋の中、俺はテレビゲームをプレイし始める。
“タラリラリ~ン♪”
アッ…という間に、レベルアップ。
その “音” …だ。
“タラリラリ~ン♪ タラリラリ~ン♪”
うるせぇ~な…一度鳴れば分かるって。
“タラリラリ~ン♪ タラリラリ~ン♪”
…。
…?
…あれ?
よく聞くと…違うぞ。
これは携帯の…メールの着信…音?
…こんな状態の俺に、現実の世界の誰かが連絡をくれるだなんて…ほぼあり得ない。
…。
それでも…。
俺は急いで、散らかった部屋の中から、着信音を響き渡らせるその携帯を探し出そうと…手にしていたテレビゲームのコントローラーを、パッ…と離したその瞬間…ゲームを映し出していたテレビのその画面が、真っ白に光り輝き…。
そのあまりにもの眩しさに、俺が思わず瞳を閉じてから、再びゆっくりとそれを開いていくと…。
…。
…点けっぱなしの電灯に、寮の自分の部屋の天井が、そこにぼんやりと…見える。
…。
ベッドに横になったまま…俺はしばらくの間、訳が分からずにボッ~としたままの状態で。
…眠ってしまって、いた、のか?
今までのがすべて… “夢” だった、ということなのか…?
ノソノソッ…と、俺はベッドの上に起き上がると。
何度もその場所を確かめるようにしてキョロキョロと周囲を見渡してから、どこかホッとした気持ちと共に、流れ落ちていた頬の涙を右手の甲で拭いふき、そのまま枕元に置いてある置時計に、そっと目をやった。
…あれから四時間、もう夜中の十二時…か。
そう時間を確認してから
“タラリラリ~ン♪ タラリラリ~ン♪”
…と、鳴り続けている携帯を、急いで制服の上着の左ポケットから取り出して…開き、見る。
そこには…
To:囁聞くん,美沙ちゃん
件名:凛ちゃんに動きあり!です
本文:今からすぐに校門前に集合ぅ~!
From:みうう推し 摸
…と、書かれた摸からのメールが。
俺はそのメールに素早く目を通した後、制服の上着の右ポケットの上から、そっと柔らかなそのハンカチの感触に触れて…。
次の瞬間、何も考えずに、急いで寮の自分の部屋を飛び出した。




