指針
雨宮の髪の毛を自分の左手の小指の付け根辺りに、まるで指輪のようにしてしっかりと結び付けたそんな摸を見ながら。
「頼んだぜ…摸」
「よろしくね、土屋くん」
そう声を掛けた、俺と美沙の顔を交互に見つめながら摸は、嬉しそうな表情で
「はい~!任せてくださいぃ~!!」
そう言うと、無邪気にニコニコとしている。
…。
…具体的な解決策は未だ見つからないが、とりあえずはどんな状況になってもすぐに対応が出来るように、雨宮 凛の動向を摸の探索能力を使って、監視して…おく。
今回の件の結果が、例えどんなことになろうとも…。
そしてこの対応方法が、たかが高校一年生の落ちこぼれで普通じゃない俺達三人の考えた、危険で無謀なことだったとしても…。
今は、今だけは…。
一応の行動の指針が出来たことで、俺達三人は心の中でどこかホッ…としていた。
…そして、そんな気持ちになったせいなのか、ハンバーガーショップに入ったのに何も口にしていないことに気がついた俺は、トレーの上に乗っていた一度は手にしたウーロン茶のカップを再び手に取ると…そのストローにそっと口をつけてみた。
…。
氷が溶けて、だいぶ薄まってしまったウーロン茶は…あまりおいしくは、ない。
特に、雨宮神社の母屋のリビングルームで、雨宮 凛が入れてくれたあのおいしい焙じ茶を飲んだ後だから、尚更そう感じてしまうのかもしれないが…。
…しかも、雨宮 凛みたいな可愛い娘が入れてくれたお茶なのだから、すこぶる余計に、だ。
俺が…雨宮 凛の愛らしい微笑みを思い出しながら、薄いウーロン茶を味わいつつ、そんなことを考えている中…。
…隣りの摸はといえば、トレーの上に乗っていた三分の一ほどになったテリヤキバーガーを再び手に取り食べ始め…時折、フライドポテトの容器の中から同じくらいの長さのポテトを見つけ出しては、やはりそれを器用に二本同時に摘み上げると、口の中に勢い良く放り込んでおり…。
一方…正面の席の美沙はといえば、テーブルの上に置かれていた雨宮 凛から貰った可愛い図柄の入ったメモ用紙と、じいさんがくれた古く汚れた朱色の小さな縁結びのお守りを静かに手に取って、それらを大切そうに制服の上着の内ポケットの中へ再びしまい込んでから…少し窓際にずらしていたトレーの上のオレンジジュースのカップを手に取り、そのストローにそっと口を運んでいる。
「…ところでぇ、囁聞くんはぁ、KRZ48のメンバーの中でぇ…一体誰がぁ、推しメン何ですかぁ~?」
…気がつけば、テリヤキバーガーとフライドポテトを既に食べ終わった摸が、メロンソーダーのカップを手にしながら、のんびりとそう尋ねてくる。
俺はウーロン茶のカップをトレーの上に戻してから
「俺は…特に誰ってことは、みんな可愛いし…」
そうボソボソッと言うと、トレーの上に置いてあるチーズバーガーを手に取り、その包みを開いて…一口頬張る。
メロンソーダーをおいしそうに飲みながら、そんな俺の言葉を聞いていた摸は
「えぇ~!?推しメンがぁ、いないん…ですかぁ!?」
そのあまりにもの衝撃に少しむせ返りそうになりながら、大袈裟に…そう言う。
…そんな俺と摸のやり取りを、美沙は呆れた様子で見つめながら…オレンジジュースのカップを手にしたまま、右手で頬づえをついて。
次の瞬間…そのまま顔を、ガラス張りの向こう側。
街灯が灯り始めた外の景色と道路を行き交う忙しない人々を、しばらくの間、気だるそうに見つめた後…。
ふと…鉛色の雲と、その切れ間から覗く暗紺色の空を見上げて
「…。降りそうで降らない、何だか優柔不断な天気ね…」
呟くように一人、そう言ったかと思うと。
オレンジジュースの入ったカップのストローに、再びゆっくりと口を運んだ…。




