可能性
じいさんから貰った古く汚れた小さな朱色のお守りの中に隠された、お通さんの切ない… “想い” 。
それを包み込むようにして、優しく両手のひらで持っている美沙を見つめて摸は…。
…三分の二ほどかじっていたテリヤキバーガーをトレーの上に戻すと。
「僕達に出来ることってぇ…、本当にもうないのかなぁ…」
呟くように、そう言う。
摸のその言葉に、俺は同意するように小さく何度か頷く…が、具体的な “何か” を提案しろ…と言われると。
…。
正直何も思い浮かばないのが、現状だ…。
俺達三人はこの件について、具体的に一体どうすればいいのか…。
…。
考え込んでみても、ことがことなだけに、これがいい!…という決定的な回答が得られない…。
…。
……。
………。
…そんな俺達三人の間に、夕食時のハンバーガーショップの喧騒とは真逆の無言のときが静かに流れ去った後…。
ふいに…包み込むようにして、じいさんから貰ったそのお守りを両手のひらで持っていた美沙が、解放するようにテーブルの上にそれをそっと置いたかと思うと。
「…あたし達には、何も出来ないかもしれない。おじいさまと凛さんの二人の力になれることが…何も。そして…凛さんを、悪鬼という異形の者から救い出すことも…」
そう静かに言って、テーブルの上に置いたお守りを真剣な眼差しで見つめたまま…
「それでも、あたし…自分に出来る限りのことはやっておきたい、後で後悔しないように…。それに…お通さんの想いが詰まった、こんな大事なお守りを…おじいさまはどうしてあたし達にくれたのか…」
続けてそう言うと、何かを思い出すように…瞳を一度ゆっくりと閉じてから、それを再び開くと
「…実はあのとき、リビングルームで…凛さんの髪に触れたとき、もの凄く強力な妖気のような…ううん、妖力みたいな力を、凛さんの身体全体から感じたの。…凛さん、一見その胎内に悪鬼を封じ込めているとは思えないくらいに楽しそうにしていたけれど…。やっぱりそうなんだなって…そして、その限界もそんなに遠くないんだなって…感じたの」
そう言ってゆっくりと顔を上げて、やはり真剣な眼差しで俺と摸の顔を…見つめる。
「…あのじいさんが、知らない訳…ないよな。お守りの中に…お通さんの想いが書かれた紙切れが入っていた、ということを…そして、凛ちゃ…雨宮の限界がそろそろだ…ってことも…」
美沙のその眼差しに応えるように、俺がいつものようにボソボソッとそう口を開くと。
美沙は俺のその言葉に、同意するように小さく頷いてから
「…まるで、おじいさまの身に何かあったときに、凛さんのことを…よろしく頼む、と言われているような気がして…」
そう言うと、テーブルの上に置かれたお守りに、再び目を落として
「おじいさまが帰り際に言っていた、今回の件をあたし達三人に話せたことで心の整理が出来た…という言葉や、自分のしなくてはいけないことが分かった…という言葉も、とても気になって…。もちろんそれは、おじいさまがどうしても実行することが出来なかった…凛さんの再封印のことを指しているんだとは思うのだけれど…。でも、あの事件から既にもう十年…。おじいさまが言っていたように、もしその十年の間に、悪鬼が凛さんの胎内で成長し、力を蓄えていたとしたら…」
美沙はその後に続く言葉を敢えて口に出そうとはしなかった。
…俺と摸は、そんな美沙を見つめたまま、その後に続く言葉をおそらく同じように解釈していたはずだ。
それは…その言葉は…
“雨宮 凛の胎内で力を蓄えた悪鬼のほうが、じいさんの能力を少しでも上回っていたとしたら…もし、そうだとしたのなら…。じいさんの再封印は、少なからずとも失敗する可能性が、出てくる…”
…と、いうことだ…。
…。
……。
………。
…俺達三人の間に再び、夕食時のハンバーガーショップの喧騒とは真逆の無言のときが静かに流れた始めた…。




