聞いていた?
美沙の次の言葉を待ちながら、その顔を注視する俺と摸のことを、美沙は交互に見つめて
「あたしが凛さんの髪のことを褒めたとき、凛さんもあたしの髪のことを褒めてくれたんだけど…そのとき見せてくれたメモ用紙に書かれていた内容が “黒川さんの髪もとてもキレイ!” だったの…。でも凛さんは、おじいさまが依田先生から事前に受け取った、あたし達三人の名前や能力が書かれたメール内容のことを口に出して紹介しているときに、その場にいなかったでしょ?…なのに、何であたしの名前を知っていたのかな?…って、そのときとても不思議に思ったの」
そう言うと。
その言葉に小さく頷いている、俺と摸の顔をやはり交互に見つめて
「つまり…凛さんは少なくとも、あたし達三人の名前や能力の紹介をおじいさまが口に出していたあのときから、地下の座敷牢を抜け出して…リビングルームの近くで、あるいはそれが聞こえる場所で、おじいさまとあたし達の会話のやり取りを “聞いていた” …ということになるわ」
美沙は続けてそう言うと、一人小さく頷く。
…。
確か、あれは…。
俺はそのときのことを思い出しながら、そっと口を開く。
「確か、あれは…じいさんが美沙のスリーサイズを推測で当てようとしたときくらいのことだから…ほとんど全部、聞いていたようなもんだな…」
…そう、口に出してしまってから、俺がハッとして美沙のほうを見直すと。
美沙のその顔が、みるみると真っ赤になって…
「だ、だから…あれは違う、って言ったでしょ!」
俺のことを少し睨みながら、そう言う。
そんな美沙を見ながら、そのときのことを思い出したのか…俺の隣りで摸がニヤッ…と笑うと。
美沙はそれを見逃さず、世にも恐ろしい形相で…ギロッ!と摸のほうにその顔を…向けた。
まるで…蛇に睨まれた蛙のように、摸は一瞬で硬直すると。
…ポッチャリとしたその体型を小さく震わせながら、怯えた声で
「…す、すみませぇ~ん」
そう小さく音を、発する。
…。
ここがハンバーガーショップじゃなかったら、周囲に人がいなかったら…間違いなく雷撃直撃だったろうな…。
俺はそう思いつつも、自分で言い出してしまったことに責任がある以上、何とかこの場の空気を変えようと。
美沙の前に置かれた、じいさんがくれた古く汚れた朱色の小さなお守りに目をやりながら…
「…それにしても、そのお守り。…普通だったらもっと、新しいのをくれるよな…」
そうボソボソッと言うと。
美沙は恐ろしい形相から一瞬で元の顔に戻って(摸に言わせると、元の顔も十二分に恐ろしいらしいのだが…ここは摸のことを慮って、美沙には言わずにいておいてやろう…)、じいさんから貰ったそのお守りを手に取ると
「…多分、このお守りは…」
そう言ってお守りの結び目をそっと解きながら…
「おじいさまから頂いたときに…何だか、お守り本体とは別に他の感触があって…」
続けてそう言うと、結び目を解いたお守り袋の中から、丁寧に折り畳まれた古めかしい一枚の小さな紙切れを取り出し…それをテーブルの上に静かに置いた。




