部室にて
「ちょっとぉ~、聞いたぁ~?」
今日の授業がやっと終わり、退屈な時間から解放された優雅な部室での一時…。
それをまるで引き裂くかのように、部室の扉がド~ンッと勢い良く開け放たれたかと思うと、美沙がいつものように入って来る。
「何をだよ~?」
「何をですか~?」
俺と摸は携帯ゲーム機をピコピコやりながら、ハンター系マルチプレイに夢中で、そんな美沙への返答もどこか適当だ。
でも美沙は別段気にする様子もなく、部屋の隅に無造作に置いてあったスチール製の椅子の一つに腰掛けると
「この前さぁ~、学園の畑が荒らされたって言ってたでしょ?それがね…昨夜もまた、やられたんですって!」
「…へぇ~」
俺は適当に返事を返したが、隣りで真剣になってゲームをしている摸は
「…ちょっと!囁聞くん!ここは勝負でしょう!僕がアシストに回るから、囁聞くんはそのまま突っ込んじゃって下さいよ~!」
返事をする余裕も無くなってきたらしく、完全にゲームの中の世界の住人になってしまっているようだ…。
…しかしそんな俺達二人にも、やはり美沙は気にする様子も見せず
「…はぁ~あ~、あたしね…農作部の “穀物を愛でる会” の友達から、学園の畑で出来た野菜をもらう約束してたのに…。これじゃぁ、もらえそうにもないわよねぇ…。この季節だったら、さつま芋に栗、カボチャ…色とりどりの野菜があたしのモノだったのに…。一体誰なのよ!学園の畑を荒らし回るだなんて…。…もう!絶対に許せない!」
そう言って、一人怒っては落ち込んでいる。
「しょうがね~よ。イノシシか何かだろ?」
携帯ゲーム機の画面を見つめたまま、俺はそう応える。
その携帯ゲーム機の画面の中では、もう少しで倒せそうなボスキャラが激しく暴れ回っている。
「囁聞くん!もう少しですよ…!…もう少し!!」
摸が俺の隣りで興奮の声を上げる。
…フッ。
分かってるぜ!
ついにこの瞬間がやって来たか!
…よし!今だ!
俺の必殺スキルを喰・ら・え!
…と、携帯ゲーム機のボタンの一つを魂を込めて俺が押そうとした次の瞬間…
「ハイハイ!ハ~イ!みなさ~ん!聞いて下さ~い!」
そんな聞き覚えのある声と共に、俺と摸の手の中から携帯ゲーム機が一瞬で消えてしまう。
「…うぎゃあ~!!もう少しだったのにぃ~!」
摸はそう叫びながら、頭を抱え込んでいる。
一瞬俺は何が起きたのか分からずに、手の中から消え去った携帯ゲーム機に呆然としながらも、その声のするほうへそっと顔を向けてみた。
するとそこには…
「ダメですよ~!いくら自由な校風と言っても~。ここは学校なので~す!ゲーム機の持込みは禁止で~す!」
ブラウン系のくたびれた地味なスーツに同色のズボン…。
胸元のネクタイだけが妙に目立つワインレッド色で…。
寝癖なのかセットなのか、ヘアスタイルはいつもグチャグチャ…いやナチュラルな俺達の担任 兼 部活顧問の依田先生が二つの携帯ゲーム機を両手に持ち、いつものように朗らかな笑顔で立って、いた…。




