俺、考える
腕を組んでその瞳を閉じて、俯いたまま微動だにしない、そんなじいさんを見つめながら…俺達三人は何を言っていいのか、どう声を掛けていいのか、分からずに…いた。
…それでも、今までの長い話しを聞いて、俺にはこのじいさんが結界師としてはともかく…孫娘を想う一人の祖父として、そして人間として失格だとは、どうしても思えなかった。
でもだからといって…雨宮 凛に限界がやって来たときに、この世界に残虐な悪鬼が現れるとなれば、そんなきれい事ばかりを言ってられないのも紛れもない事実だ。
結界師だって、一人の人間…。
再封印をしなかったことによる残虐な悪鬼の成長と出現…。
孫娘を想う祖父としての気持ち…。
自らの想いを優先させることにより、罪もない大勢の人々が苦しむ可能性…。
…。
まるで、出口のない迷路のような現状の中で、俺は悶々としながらも、じいさんのことを思いやり…何とかこの状況を打破出来ないかと真剣に考え始めていた。
…雨宮 凛の身体の、胎内の中から、悪鬼を外に追い出す…つまり一人と一匹?へ分離することが出来ない以上…やっぱり最良なのは、このじいさんに再封印をしてもらうこと…か。
…ああ、でもそうすると雨宮 凛自身の身体が、再封印の力に耐え切れずに消滅してしまうのか…。
しかもじいさんは、この再封印の消滅と孫娘への想いというジレンマの中で苦しんでいる訳だしな…。
この案は却下だ!
…それならば、雨宮 凛が悪鬼を抑え込むことに限界がやって来て、悪鬼にその身体を乗っ取られたときに、俺達三人の能力を使って、悪鬼を攻撃しやっつけてしまう、というのはどうだろうか?
摸が大地の能力を使って悪鬼を足止めしたところに、俺と美沙が風の能力と魔術、つまり雷撃の能力をそれぞれ駆使して、悪鬼にダメージを与えやっつけてしまう。
…うん!我ながらいいアイデアだ。
ついでに今、この場でじいさんから許可をもらって、摸が探索能力を発動させつつ、普段から雨宮 凛を監視させてもらっておけば、いつ悪鬼がこの世界に現れても、ある程度は対応出来るはずだ!
…いや、でもちょっと待てよ…。
悪鬼が雨宮 凛の身体を乗っ取ってそれを動かしている…ということは、俺達三人が攻撃を加えるのは、他ならぬ雨宮 凛自身の身体に対して…ということだ。
つまり…例え俺達三人の能力で仮に、悪鬼をやっつけることが出来たとしても、そのときは雨宮 凛自身も…その身体も、そして悪鬼に乗っ取られている間にどこかにあるその心も、一緒にやっつけてしまう…ということだ…。
…それに、よくよく考えてみれば、十年ものの熟成された残虐な悪鬼に、俺達三人の能力だけで、果たして勝てるのかどうか?…という根本的な問題もある…。
…。
……。
………うおぉ~!
一体どうすればいいんだぁ~!!
あまりにもの八方塞がりな現状に、俺が頭を抱え首を小さく左右に降っていると…。
トタトタトタ…と。
俺達が歩いて来た薄暗い廊下とは反対側の廊下のほうから、こちらに近づいて来る静かな足音が聞こえ…。
次の瞬間、湯のみを載せた丸い木のおぼんを両手に持った…おそらく俺達と同じくらいの年齢だろうか…?
黒く艷やかな髪を肩まで伸ばして、薄いピンクのワンピースにクリーム色のエプロンを着けた可愛らしい女の子が、リビングルームに…俺達三人の前に、静かに現れた…。




