役目
じいさんはまるで…記憶の糸を手繰り寄せるように目を細めて、リビングルームから続く庭園のような立派な庭にその目を向けながら、静かに語り始める。
「あれは…凛が六歳のときじゃから、もう十年も前のことになるのぅ…。ここ雨宮神社の境内の前で、わしの娘…そして婿が、凛にとっては両親にあたる訳じゃが…その二人が何者かによって惨殺されてしまってのぅ…。当時は、雨宮神社 通り魔事件じゃの、快楽殺人事件じゃの、色々と騒がれたりもしたのじゃが…結局今もって犯人は捕まらずじまいじゃ。…まぁ犯人が捕まらなかったのも当然と言えば当然のことなんじゃが…なぜならその犯人は、そもそも人ではあらず、この雨宮神社と古より縁を持つ “異形の者” の仕業だったからなのじゃ…」
「…異形の…者?」
思わず俺が、呟くようにそう音を発すると、じいさんはそんな俺の顔を見つめ、小さく頷いて
「…そうじゃ、異形の者じゃ…」
そう繰り返し言ってから
「…奴は本来なら、この世界に再び姿を現すということは無かったはずじゃ。ここ雨宮神社の蔵の中で、厳重に封印された小さな壷の中に閉じ込められておったのじゃからのぅ…。でもその封印が、何かの手違いで解かれてしもうた…。わしら雨宮家の務めは、その蔵の中に眠る…封印し異形の者を、代々この世に出さぬための見張り役。…万が一、その封印が解けてしもうたときには、一族の持つその能力によって、再び異形の者を封じ閉じ込めなければならん…」
「結界を張り、封印するようなイメージですかぁ~?」
美沙のほうをチラッチラッと見て、その様子を気に掛けながら、摸がオズオズと口を挟む。
グッジョブ、摸!
そういう話しを進行させるような…まとめるような質問なら、美沙の雷撃も、もう落ちることはないと思うぞ!…多分。
…と内心俺が、摸を褒め称えている中…。
じいさんはそんな摸を見つめ、やはり頷きながら
「そうじゃのぅ…そういうイメージじゃ。万が一、異形の者の封印が解けてしもうたときには、それを再び封じ閉じ込める…封印師、いや “結界師” と言ったほうがいいのかもしれん…」
そう言うと、再び庭のほうに目を向けて
「…しかし、わしらもいつの間にかその役目を…長く続くこの平和な時間の中で…遙か遠い昔の出来事と慢心し、油断しておったのやもしれぬ…」
まるで自分に言い聞かせるようにして、じいさんはそう呟くとゆっくりと瞳を閉じた。
「…あの、おじいさま」
その瞳をまるで開かせるように、そう声を掛けた美沙のほうに、じいさんは閉じていた瞳をゆっくりと開けてから顔を向け
「…なんじゃ?」
落ち着いた声で、そう言う。
「十年前に起こった事件の犯人が、異形の者であったということ。そしてそれに関する雨宮家の役割…そしてその能力のことは理解出来たんですが…。そのことに、そのことに凛さんはどう関係しているんですか?」
美沙は静かにそう言ってから、どこか寂しげなじいさんの顔をじっと見つめた。




