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プロローグ

六歳くらいだろうか?

おかっぱ頭の女の子が、片手に一輪の小さな白い花を持って、慣れた足取りで長い石段をチョコチョコと登って行く。

…耳を澄ませば


「…99…100…」


その女の子が石段を、一段一段数えながら登っているのが分かる。


「…101…102…」


白い花を持つ手に、少しだけ力が入る。

大好きなお父さんとお母さんに、道端で偶然見つけて摘み採った、名も無き白い一輪の小さな花を見せてあげるんだ…。


「…103…104…」


きっとお父さんは、大袈裟に驚きながらこう言うはずだ。


「おお~!りんは綺麗な物を見つけるのが、本当にうまいなぁ!こりゃ将来は巫女さんじゃなくて、芸術家になるかもしれんぞ!」


女の子は、そんなお父さんの顔を思い出したのか、小さく微笑む。


「…105…106…」


きっとお母さんは、私が蔵の中で見つけた小さなつぼのような花瓶に、この花を活けながら


「可愛らしくて、素敵なお花ねぇ」


そう言って優しく微笑んでくれる。

…早く、そんなお父さんとお母さんの喜ぶ顔が見たい…。


…あともう少し、もう少し…だ。


「…107…108!」


女の子は石段の最後の108段目を一際大きな声で叫ぶように言ってから、それを両足でピョコンと踏み終える。

そして苔にまみれた立派な石の鳥居の下を通って、境内の脇にある母屋へ向かおうとして、目の前の光景に足を止め…そのまま硬直を、した。


女の子の目の前に、広がっていたもの…。

…それは “あか


…紅

……紅

………紅


まるで真紅のじゅうたんを広げたようなまり…。


…そしてその中央に倒れているのは、女の子が大好きなお父さんとお母さん…。


…あまりのことに、ただ呆然とその光景を見つめていた女の子は、倒れているお父さんとお母さんの向こう側に、ドス黒い肌をしたぎょうの生き物の姿を…見た。

…それは女の子が、よく絵本の中で見かけた人間では無い生き物…。

絵本の中では、どことなく憎めない存在だったはずなのに…。

…こうして本物を見てみれば、二本の尖った角と口元に生えている鋭い牙、両手の長い爪からは血が滴り落ち…。

その瞳には狂気と残忍さを映し出して、いる…。


…あれは… “オニ


女の子の掴んでいた白い小さな花が地面の上に落ちる…。


そんな女の子の気配に気がついたのか、血溜まりの中で苦しそうに息を吐き出しながら、神主服姿のお父さんと巫女服姿のお母さんが、倒れ込んだまま顔だけを女の子のほうへ向ける。


「…凛…すまん…お父さんとお母さんには…もう時間が…無い…」


苦しそうに短く息を吐き出しながら、お父さんはふところから一枚の紙のお札を取り出して、そう言う。

その言葉にお母さんも応じるように、懐から同じお札を取り出すと


「…凛…ごめんね…凛…でも…こうするしか…もう…こうするしか…お願い…自分に…負け…ないで…ずっと…見守って…いる…から…それを…忘れ…ない…で…凛…」


そうお母さんが言葉を発するのと同時に、二人の手から紙のお札が放たれる…。

放たれたお札は薄く蒼白い光りを発しながら、一枚は鬼に、もう一枚は女の子のほうへ…。


「…自分達ノ娘ヲ、道具トシテ使ウ…カ…!人間トハ何処マデモ愚カナ生キ物ヨ…!ダガシカシ覚エテオケ!ソノ娘ノ胎内デ、我ガチカラ溜メ込ミ、ソノ時ガ来タナラ、スベテヲ血ニ染メ、引キ裂イテクレルワ!」


まとわり付くお札に暴れ狂いながら、境内に響き渡る鬼のしゃがれた声…。


その恐ろしい声にも微動だにせずに女の子は、声を出すのも忘れたまま…。

お札の蒼白い光りを身体全身で受け止め、血溜まりの中で動かなくなっているお父さんとお母さんの姿を…。

落とした一輪の名も無き白い小さな花の花びらがゆっくりと真紅に染まっていくのを…。

ただただ呆然と見つめ続けて、いた…。

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